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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
4、わたしのくろいほうせき

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わたしのだ!





 シオンは床を蹴り、一気に距離を詰めて剣を振り抜く。


「……!」


 少女は咄嗟に身を捻った。

 銀色の刃が体をかすめ、髪が数本宙へ舞う。あと少し反応が遅れていたら確実に斬られていた。

 少女は間一髪で剣を避け、そのまま後方へ飛び退く。


「貴方……!どうして!?」


 驚愕に目を見開き、シオンを睨む。シオンは答えず、続けて懐から一枚の札を取り出した。そのままガラスケースを包み込む黒い靄へ向かって投げる。

 ぺたり。と、札が靄へ張り付き、次の瞬間、青い炎が噴き出した。炎は黒い靄を一気に包み込む。


「っ……!」


 少女は息を呑む。

 青い炎に焼かれた靄は急速に縮み、やがて跡形もなく消え失せた。

 黒い靄の向こうから、ひび割れたガラスケースが姿を現す。


「……!」


 エイルがすぐに駆け寄った。

 ガラスには無数の亀裂が走っている。今にも崩れそうなほど傷んでいたが、その内部は無事だった。

 何重にも巻き付いた鎖。そして、その中心に封じられた黒い宝石。

 呪念石は無傷だ。


「……よかった」


 エイルは安堵の息を吐くと、少女へ向き直った。


「諦めろ!この宝石は君が持っていちゃいけないんだ!」

「それは私の宝石よ!取り戻そうとして何が悪いの!?」


 少女が叫んだ。

 足元に魔法陣が展開する。

 そこから黒い炎が噴き出し、二人へ迫った。

 シオンが剣を振るい、刃に弾かれ軌道を逸らした炎は壁へ激突する。


「この宝石は君のものじゃない!」


 エイルが言い放つ。


「君はこの宝石に心を操られて、そう思い込まされているだけだ!」

「うるさい!!」


 少女が叫び、頭上に無数の魔法陣が浮かび上がった。

 直後、それらが一斉に輝き、無数の炎が狙いも定めずに放たれる。


「光よ!」


 エイルが呪文を唱える。

 自分とシオンの前に結界が展開され、飛来した炎を次々と弾き返した。ドンッ、ドンッ、と衝撃が連続する。

 やがて炎が途切れ、その向こうでは少女が二人を睨みつけていた。その瞳は、いつの間にか真っ赤に染まっている。


「その宝石は私のものだ!」


 少女は叫ぶ。


「ぱぱのでも、お兄ちゃんのでも、あんたらのものでもない!!わたしのなんだ!!」


 震えるほど強く拳を握る。

 シオンは少女を見据えた。

 そして、剣を構え直して床を蹴る。


「……!」


 剣先を少女へ向け、シオンはそのまま振り抜いた。

 刃が体へ届く。このまま斬り裂く。そう思い、柄を持つ手に力を込めた。その寸前。少女の全身を黒い靄が包み込んだ。


「!?」


 シオンの剣が空を切る。

 次の瞬間には、少女の姿はそこになかった。


「消えた……?」


 シオンは足を止める。

 エイルも辺りを見回した。

 少女の姿はない。気配すら、完全に消えている。

 二人はしばらく警戒を続けたが、どこからも攻撃が来る様子はなかった。


「…………」


 シオンは剣を下ろし、鞘へ収める。


「呪念石は無事か?」

「あ、ああ」


 聞かれ、エイルはガラスケースへ目を向けた。


「ケースは直さないと駄目だが、中の鎖と呪念石は無事だ」

「そうか……」


 シオンは頷いて、少女が消えた場所へ視線を戻す。

 どうして突然、消えた?

 もう呪念石を手に入れられないと判断して、諦めたのだろうか。


 いや──。


「…………」


 シオンは先ほどの少女の言葉を思い返す。

 あの激しい叫び。真っ赤に染まった瞳。呪念石への執着。とても諦めたようには見えなかった。


「だったら……何故だ?」


 答えはない。

 シオンはガラスケースへ近づき、その中に封じられた黒い宝石を見つめる。

 幾重もの鎖に守られた呪念石は、奪われずにただ静かにそこにあった。


「…………」


 考えても、今のシオンには答えを導き出せなかった。



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