エーとアラタvs黒いワンピースの少女
黒い炎が、エーとアラタへ迫る。
「エー!」
アラタが叫ぶ。
「光の妖精よ!」
エーは剣を構えた。
同時に、彼女の周囲を飛んでいた妖精たちが一斉に光を放つ。
「お願い!」
エーの声に応えるように妖精たちが動いた。淡い光がエーとアラタの前へ集まり、薄い壁を作り出す。
「っ…!」
黒い炎がぶつかり、エーは歯を食いしばる。
炎は光の壁を激しく包み込んだ。
「エー!」
「…大丈夫!」
妖精たちが懸命に力を注ぎ込む。
やがて黒い炎が左右へ分かれ、二人の脇を通り過ぎていった。
地面が焼け焦げ、煙が立ち上る。
「アラタくん!矢を!」
「っ、」
エーの指示でアラタが弓を引き絞る。妖精の一匹がアラタの弓へと近づき、その矢に光を纏わせた。
「いけっ!」
弦が弾かれる。
光の矢が少女へ向かって飛んでいった。
「……!」
その勢いに少女は目を見開き、身を横へずらす。
矢が肩の横を瞬時に通り過ぎ、背後の木へ突き刺さった。少女は木に突き刺さった矢を見る。
「なるほど…。妖精の力、少し厄介ね。でも無駄よ」
「だったら何度でも撃つ!」
アラタは次の矢をつがえ、二本目、三本目と妖精の光を纏った矢が次々と放たれる。
少女は左右へ動きながら、それらをかわしていった。
「アラタくん!そのまま隙を見て射続けて!」
「お、おう!」
アラタの射撃に合わせてエーが走り出し、少女との距離を一気に詰める。
「はあっ!」
剣を振り下ろす。
少女は魔法陣を展開した。
剣が魔法の障壁に阻まれる。
「っ!」
エーはそのまま剣を押し込む。
少女の障壁に亀裂が入った。
「こんなもの……!」
エーがさらに力を込める。
妖精のサポートも相まって、障壁が砕けた。
「なっ……!」
少女が驚く。
その隙を逃さず、エーは踏み込んだ。剣が少女の腕を狙う。少女は後ろへ跳んでかわした。
「…やるわね。とても体調が悪いとは思えないわ」
「逃がさ、ない…っ!」
エーが追う。その背後からアラタの矢が飛んだ。少女は魔法陣をいくつも展開させ、矢を次々と防ぐ。
「調子に乗らないで!」
魔法陣が光る。
そこから黒い魔力の弾が飛び出した。
「っ!」
エーが剣を振る。
魔力の弾を切り払った。
「アラタくん!」
「分かってる!」
アラタはすぐに別の場所へ移動する。妖精たちも二人に合わせて飛び回っていた。
一匹はエーの周囲を守り、二匹はアラタの射撃を補助する。少女は二人と妖精たちを見渡した。
「(……思った以上に厄介ね)」
エーが前衛。アラタが後衛。
妖精たちが二人を補助している。
彼女たちは単純な二人組ではない。互いを信頼しているからこその動き。本当に厄介だった。
「なら……こちらも少し、やり方を変えましょうか」
少女は小さく息を吐き、足元に黒い魔法陣を浮かび上がらせる。
魔法陣から黒い光が放たれ、エーは身構えた。次の瞬間、地面から黒い光の柱がいくつも伸びる。
「うわっ!」
アラタが横へ飛ぶ。
エーも後ろへ跳んだ。
二人がいた場所を黒い光が貫いていく。
「アラタくん!」
「俺は平気!エーは!?」
「私も、ごほっ………だい、じょうぶ!」
二人が別々の場所へ逃れたことで連携が崩れた。
「そこね」
少女はその瞬間を突き、手を向ける。
黒い魔力がアラタへ集まった。
「っ!」
アラタは弓を構える。
矢を放つ。しかし、黒い魔力が矢を飲み込んだ。
「なっ……!」
魔力の塊がアラタへ迫る。
その前に妖精が飛び込んだ。
「!」
光が弾ける。
魔力は妖精によって軌道を逸らされた。
「た、助かった……!サンキュー!」
アラタは息を吐き、妖精に礼を言う。その隙に少女はエーへと向き直った。
「…だったら、貴女はどうかしら?」
「……!」
少女の手から黒い炎が放たれる。
エーは剣を振るい、炎を切り裂く。しかし、切り裂いたはずの炎が二つに分かれ、左右からエーへ迫ってきた。
「っ!」
エーは咄嗟に後ろへ跳ぶも、炎の一部が肩をかすめた。
「あっ…!」
「エー!」
アラタが叫ぶ。
「大丈夫!かすっただけ!」
エーはすぐに立ち上がった。
息が荒くなる。
少女は口元を緩ませた。
「……ふふ。頑張らなくてもいいのよ。もう限界が近いのでしょう?」
「まだ……!」
「強がっても無駄」
少女の周囲に魔法陣が増えていく。一つ。二つ。三つ。その数は次第に増えていった。
「エー、気をつけろ!」
アラタが矢を放つ。
少女の魔法陣が次々と光り、矢を防いだ。
「くそっ!」
アラタはさらに矢をつがえる。
だが、今度は少女の魔法が先に放たれた。黒い光弾がアラタへ殺到する。
「うわっ!」
アラタは走りながらかわし、妖精たちも必死に彼を追って光の障壁を作る。
しかし、一つ、二つと障壁が砕かれていった。
「はぁ……はぁ……!」
アラタは息を切らす。
少女の攻撃が明らかに激しくなっていた。
最初は自分たちが押していたのに、いつの間にか立場が逆転している。
「……なんだよ、あの女っ!」
アラタは舌打ちをしながら少女を睨みつけた。エーもまた、剣を握りながら少女を見つめる。
少女は静かに立っている。その周囲には黒い靄が漂っていた。
「そろそろ終わりにしましょう」
少女が手を掲げる。
「……!」
エーの表情が強張った。
空気が変わる。今までよりも比べものにならないほど濃密な魔力が少女の周囲へ集まっていった。
地面に巨大な魔法陣が広がり、森の木々がざわめく。妖精たちが怯えるようにエーとアラタの周囲へ集まった。
「何だ?」
顔をあげ、アラタが呟く。
「アラタくん……!妖精たちを集めて!」
「!」
エーは叫んだ。
二人の周囲に妖精たちが集まる。
光が一つに重なり、二人を包むように巨大な光の壁が生まれた。
その向こうでは少女が静かに呪文を唱え始める。一節。また一節。聞いたことのない言葉が森の中へ響いていく。
「……お願い」
エーは剣を握りしめる。
「光の妖精よ…!私に力を!!」
妖精たちが一斉に光を放った。
少女が目を開く。
「──終わりよ」
魔法陣が黒く輝いた。
次の瞬間、巨大な黒い奔流が放たれる。
「っ……!」
エーとアラタは目を見開いた。
黒い魔力が森を覆い尽くすように押し寄せてくる。
妖精たちの光の壁が正面からそれを受け止めたが、光の壁に亀裂が入った。
「……障壁が!」
アラタが声を震わせる。
「頑張って…!!」
エーが剣を突き立て、必死に耐える。妖精たちも力を振り絞る。それでも黒い魔力は止まらない。
ピシピシッ。光の壁に亀裂が広がっていく。そして、パリンッと大きな音と共に光の壁が砕け散った。
「っ!?」
黒い魔力が二人を包み込む。
「きゃあああ!」
「うわあああ!!」
妖精たちが二人の周囲を飛び回る。それでも、少女の魔法を止めることはできなかった。
やがて黒い奔流が消える。その場に残されたのは、地面に倒れたエーとアラタ。二人の武器は少し離れた場所へ落ちていた。
妖精たちも力を失い、弱々しく宙を漂っている。
「…………」
少女は静かに二人を見下ろした。
「……これで、邪魔をする人はいなくなったわね」
呟き、建物へと視線を向ける。
そして少女は倒れているエーたちを通り抜け、建物の扉の前へ。
黒い炎を放ち、取手に取り付けられた錠前を焼き切ると、ゆっくりと扉を開けて中へと入っていった。
その一方。少し離れた場所では、シオンとジェイク、そしてヴィーたちの戦いがまだ続いている。
誰もまだ、この戦いの決着には気づいていなかった。




