シオンvsジェイク
剣と拳が激しくぶつかり合い、鋭い金属音が森に響き渡る。
シオンはジェイクの拳を剣で受け止める。ジェイクはその刃を押し込むように力を込めたが、彼は一歩も引かなかった。
「ははっ!いいねぇ!」
ジェイクは楽しそうに笑う。
「お前と戦うのは面白ぇ!」
「……そうか」
シオンは短く返し、ジェイクの拳を弾き返した。直後、剣を横薙ぎに振るう。
ジェイクは上体を反らしてそれをかわすと、すかさず踏み込んだ。低い姿勢から繰り出された拳が、シオンの腹部を狙う。
シオンは剣の柄を下げて受け止めた。ドンッ!と衝撃が腕に伝わる。シオンは歯を食いしばりながら、後ろへと押し戻された。
「っ……!」
「おらっ!」
ジェイクはそのまま追撃する。
右拳、左拳。休む間もなく繰り出される攻撃をシオンは剣で受け流し、時には身を捻ってかわしていく。
だが完全にかわすのは難しく、彼の拳が腹部や腕にかすることが増えていた。
「(……これが、あの呪いの力か)」
ジェイクの瞳は赤く染まっている。その体からは、黒い魔力がかすかに漂っていた。
「どうした、シオン!守ってばっかりじゃねぇか!」
「………」
シオンは地面を蹴る。
一気に距離を詰め、剣を振り下ろした。ジェイクは拳を引き、剣の側面へと叩きつける。
ガキィンッ!!
刃が弾かれる。
しかしシオンはその勢いを利用して体を回転させ、返す刃を繰り出した。ジェイクは身を屈め、紙一重でかわす。
「おっと!」
「まだだ!」
シオンはさらに踏み込む。
剣が幾度も空を切り、ジェイクの拳がその隙間を縫うように迫る。
互いに攻撃を繰り出しながら、どちらも決定的な一撃を与えられない。
二人の戦いは、まさに互角だった。少し離れた場所では、ダリアンとエイル、ヴィーの戦いが続いている。だが、シオンの意識は目の前の相手に集中していた。
「はあっ!」
シオンが剣を振り抜く。
ジェイクは両腕を交差させて受け止めた。
「っ、ぐ……!」
地面がわずかに沈む。
ジェイクはそのままシオンを押し返し、勢いよく拳を振るった。
シオンは剣を立てて防ぐ。衝撃で体が後方へと滑った。
「……くっ!」
「まだまだぁ!」
ジェイクが笑いながら迫る。
その瞳は、赤い光をさらに強く放っていた。
「もっと本気を出せよ、シオン!」
ジェイクは拳を握りしめる。
「俺は今、最高に気分がいいんだ!こんなに体が軽いのは初めてだぜ!」
「……そうか」
シオンは静かに答えた。
「なら、少しはその力の使い方を考えたらどうだ」
「何?」
ジェイクが眉を動かす。
シオンは剣を構えたまま、彼の足元へ視線を落とした。
「(力は増している。だが……)」
ジェイクの動きには、わずかな癖があった。強力な一撃を放つ直前、必ず右足に体重が乗る。そして、攻撃を終えた後には、ほんの一瞬だけ動きが止まる。
力が増したことで、攻撃の勢いも大きくなっている。だが、その分だけ動きに隙が生まれていた。
そこを突ければ。シオンは息を整える。ジェイクはそんな彼を見て、口元を緩ませた。
「なんだよ。急に静かになったな」
「……少し、考えていただけだ」
「へえ?」
ジェイクは腰を落とす。
「じゃあ、考える暇もねぇくらい攻めてやるよ!」
地面を蹴り、一直線に突っ込む。
シオンは動かない。ジェイクの拳が迫る。その瞬間、シオンはわずかに体をずらした。
拳が頬の横を通り過ぎる。
「なっ……!」
ジェイクの目が見開かれた。
シオンは剣の柄で、ジェイクの腕を押し上げる。続いて、がら空きになった脇腹へ剣の柄を叩き込んだ。
「ぐっ!」
ジェイクの体がよろめく。
シオンは追撃せず、すぐに距離を取った。
「……おい。今のは、何だ?」
ジェイクは脇腹を押さえながら、シオンを見つめた。その表情には驚きが浮かんでいる。
シオンは答えない。ただ、剣を構え直した。
「……来い」
「…………。へっ」
少し考え、ジェイクは口元を緩める。
「なるほどな。そういうことかよ」
彼は両拳を握りしめる。
「お前、俺の動きを見てやがったな?」
「…………」
「ははっ!さすが!特S級様は伊達じゃねぇなぁ!!」
ジェイクは再び地面を蹴った。
今度は、先ほどよりも慎重に距離を詰めてくる。
シオンは剣を構え、相手の動きを見極めた。拳が迫る。剣が受け止める。
しかし、今度はシオンが押し負けることはなかった。ジェイクの攻撃を受け流し、空いた隙へと剣を滑り込ませる。ジェイクは身を捻ってかわしたが、剣先が服の端をかすめた。
「っ……!」
ジェイクはすぐさま後退する。
彼は自分の服を見下ろした。
「おいおい…。さっきより、当たるようになってきてねぇか?」
「……気のせいじゃないか」
シオンは淡々と答える。
「嘘つけ!」
ジェイクは笑いながら拳を構えた。だが、その笑みの奥にはわずかな焦りが滲み始めていた。
シオンの動きが変わる。先ほどまでは受け止めるだけだった攻撃を、今は正確に見切っていた。それだけではない。ジェイクが攻撃を繰り出すたびにシオンは少しずつ立ち位置を変えていた。
気づけば、ジェイクは思うように踏み込めなくなっていた。
「……くそっ!」
ジェイクが拳を振るう。
シオンは剣を傾け、拳を横へと流した。そのまま一歩踏み込み、剣の柄をジェイクの胸元へと押し当てる。
「ぐっ!」
ジェイクの体が後ろへ傾いた。
シオンはすかさず剣を引き、足払いを仕掛ける。
「っ!?」
ジェイクは体勢を崩し、地面に片手をついた。すぐに体を起こして後方へ跳ぶ。
「……ははっ」
ジェイクは息を吐きながら笑った。
「なるほどな。そうやって俺の力を利用してるわけか」
「……力任せに振り回すだけじゃ勝てない。お前なら、そんなことくらい分かっているだろう」
シオンは剣を構えて答える。
「……ああ。分かってるさ。けどよ……今は、そんなこと考えてらんねぇんだわ!」
ジェイクは赤く染まった瞳を細めた。彼の体から、黒い魔力が勢いよく噴き出す。
彼は両拳を強く握りしめた。
「この力があれば、お前に勝てる!」
「……その力は、お前自身のものじゃない」
「うるせぇ!今は俺の力だ!だったら、使い切るまでやるだけだろうが!」
ジェイクは叫んだ。
地面が砕ける。ジェイクはこれまで以上の速度で突進してきた。
拳が迫る。シオンは剣で受け止めた。凄まじい衝撃が走る。シオンの足元に亀裂が広がった。
「っ……!」
腕に重い負荷がかかる。
ジェイクはさらに力を込めた。
「押し切ってやる!」
シオンは歯を食いしばった。
「(……確かに、力は強い)」
ジェイクの拳を受け止める剣がわずかに押し込まれる。だがシオンは焦らなかった。
ジェイクの足元を見る。右足に体重が乗っている。そして、拳を振り抜くために肩が大きく開いていた。
「(……だが、それだけだ)」
シオンは剣をわずかに傾けた。
ジェイクの拳が刃の上を滑る。
「なっ……!」
その瞬間、シオンは体を回転させた。ジェイクの勢いを利用し、その腕を外側へと流す。
そして剣の柄を握り直し、ジェイクの手首を強く打ち払った。
「ぐあっ!」
ジェイクの拳が弾かれる。
シオンはそのまま一歩踏み込み、ジェイクの胸元へ剣を突きつけた。
「……これで終わりだ、ジェイク」
「っ……!」
ジェイクは目を見開いた。
剣先は彼の胸元でぴたりと止まっている。あと一歩でも動けば、突き刺さってしまう距離だった。
ジェイクは拳を握りしめ、赤い瞳がシオンを睨みつける。
「……まだだ」
彼は歯を食いしばる。
「まだ、終わってねぇ……!」
ジェイクは強引に体を捻り、剣先から逃れようとした。
しかし、シオンはそれを逃さない。剣を引くと同時にジェイクの足元へ踏み込み、彼の腕を掴んで体勢を崩した。
「なっ……!」
ジェイクの体が宙に浮く。
次の瞬間、地面へと叩きつけられた。
「ぐっ……!」
ジェイクは地面に倒れ込む。
シオンはすぐに距離を取り、剣を鞘へ戻した。そして、再び動き出す前に荷物袋から黒い箱を取り出し、彼に向ける。
側面にゆっくりと不気味に現れた口が牙を剥き出しにしてパカッと開き、それはジェイクの体に纏わりついた黒い魔力を吸い込んでいった。
「くっそ…!」
悔しそうに顔を歪め、ジェイクは顔を上げる。
「……なあ、シオン」
「……何だ」
「久し振りに燃えた」
ジェイクは口元を緩めた。
「お前と本気で戦えて、最高に楽しかったぜ」
シオンはわずかに目を伏せる。
「……俺もだ」
そう答えるとジェイクは小さく笑う。げふっと箱がげっぷをし、黒い魔力をすべて吸い込み終えると、ジェイクは目を閉じて気を失った。




