途中参戦は苛つく
「シオンくん!?」
エーが思わず声をあげた。
ダリアンの槍がヴィーへと振り下ろされる。その一撃が届く寸前、横合いから剣が割り込んだ。
ガキィンッ!!と、鋭い金属音が森に響き渡り、銀色の刃が槍を受け止め、火花が散る。シオンの突然の乱入に、その場にいた誰もが目を見開いた。
「……また、人が増えましたか」
ダリアンはわずかに眉をひそめる。
「途中参戦は苛ついてしまうので、やめていただきたいんですがね!」
言い終えると同時に、ダリアンは槍を強く押し込んだ。
シオンは剣を傾け、その力を受け流す。だが、ダリアンは間髪入れずに槍を引き戻し、今度は横薙ぎに振るった。
シオンはそれを剣で弾き返し、数歩後ろへ下がる。
「シオン!ちょうどいい所に来た!そいつらを説得してくれ!」
ジェイクが声をあげる。
しかしシオンは彼の言葉に応じることなく、鋭い視線を向けた。
「……ジェイク。何故お前がここにいる。それに、そのルーンもどきは何だ」
「もどきって私のことかしら?」
シオンの言葉に、ルーンの姿をした少女が眉をひそめる。少女は不服そうにしていた。
その仕草も、声音も、顔立ちも。どこをどう見ても、彼女はルーンそのものだった。
「…………」
だが、シオンには違いが見えていた。
少女の体を覆う、黒い靄。それは彼の知るルーンには存在しないものだった。姿形が同じであっても、その身に纏う気配がまるで違う。
シオンは少女を警戒しながら、剣を構え直した。
「誰か、状況を説明しろ」
「あいつらは呪念石を狙ってて、それを今、俺たちが阻止してるところ」
ヴィーが答える。
その言葉に、シオンは一瞬だけ視線を動かした。
「呪念石を?」
「ああ。どうやらこいつら、どうしてもあれを手に入れたいらしいぜ」
ヴィーは刀を構えたまま、ジェイクたちを睨みつけた。
そこへ、アラタも近づいてくる。
「えーと……俺たちは、どっちの味方すればいいの?」
アラタはジェイクたちとシオンたちを交互に見た。突然の状況に、判断がつかないようだ。
シオンは答える代わりに、ヴィーの隣へと歩み寄る。その行動を見て、ジェイクは目を丸くした。
「おい!そっちの側につくのかよ、シオン!」
「……悪いな。呪念石を奪われるわけにはいかないんだ」
シオンは静かに答える。
「……つまり、貴方も敵になるのね」
少女が微笑みながら言った。
その表情に、シオンは剣の柄を握る手に力を込める。
ジェイクは眉をひそめ、小さく舌打ちした。
「ジェイクさん、あちらは四人となりました。対してこちらは三人のまま。少しだけ不利になりましたが、どうしますか?」
ダリアンが尋ねる。
「どうするっつわれても……」
ジェイクは髪を掻きながら、シオンたちを見渡した。
四対三。確かに不利だ。このまま戦いを続けても勝てないかもしれない。そう思っていると、少女がふいに目を伏せ、口元に笑みを浮かべた。
「ふふっ…。ちっとも不利な状況にはならないわ」
少女は楽しそうに言う。
すると彼女の足元に黒い魔法陣が展開され、それはジェイクとダリアンの足元にも同時に現れた。
「!」
「なんだ?」
二人は驚き、足元を見下ろす。
地面に描かれた魔法陣が、じわりと黒い光を放ち始めた。その光は瞬く間に二人の体を包み込む。
「……貴方たちに、私の力を分けてあげる」
「何?」
ジェイクが顔を上げる。
少女は答える代わりに、静かに呪文を唱え始めた。聞き慣れない言葉が森の中に響き渡る。
その瞬間、ジェイクとダリアンを包む黒い光が不気味に揺らめいた。まるで生き物のようにうねりながら、二人の体へと吸い込まれていく。
「っ、!?」
ジェイクの胸が、どくりと大きく鳴る。
「ぐっ……!」
彼は思わず胸元を押さえ、その場に片膝ついた。
「ジェイクさん!」
エーが声をあげる。
ヴィーとエイルも、突然の出来事に目を見開いた。
「てめぇ、何してやがる!!」
ヴィーが少女へ向かって怒鳴る。
しかし少女はまるで気にする様子もなく、クスクスと笑っていた。
「ふふっ。せっかく私の味方をしてくれるんですもの。役に立ってもらわなくちゃね」
少女は呪文を唱え終える。
ジェイクとダリアンの足元にあった魔法陣が音もなく消えていき、しばらくしてジェイクはゆっくりと立ち上がった。
ダリアンもまた、何事もなかったかのように姿勢を正す。
「……!」
シオンは剣を握る手に力を込めた。
二人の周囲を漂う空気が、明らかに変わっている。先ほどまでとは違う。肌を刺すような、重く、冷たい気配。それは二人の体から溢れ出しているようだった。
エイルたちもその変化に気づいたのか、それぞれの武器を構え直す。
アラタは慌ててエーのそばまで走り、彼らの様子を見つめる。
「さあ。行きなさい、ジェイク、ダリアン。あの人たちに、貴方たちの強さを見せてあげて」
少女は髪をかきあげながら、優雅に告げた。
次の瞬間。ジェイクの姿が、その場から消える。
「っ……!」
シオンは目を見開く。
ジェイクはすでに、目の前まで迫っていた。腰を落とし、地面を強く蹴り上げた勢いのまま拳を振り抜く。
「っ!」
シオンは咄嗟に剣を構えた。
ガァンッ!!剣と拳が激突する。
シオンの体が、わずかに後ろへ押し込まれた。
「っ、……!」
歯を食いしばる。凄まじい力だった。剣を握る両腕に、ずしりと重い衝撃が走る。
もしも足を踏ん張っていなければ、そのまま後方へ吹き飛ばされていただろう。シオンは剣越しにジェイクを見据える。
「シオン。俺は今、最高に嬉しい気分なんだぜ」
ジェイクは口元を緩ませた。
「いつかお前と本気の勝負がしてぇと思ってたんだ。まさかこんな形で叶うとはな!」
楽しそうな声。
ジェイクの瞳が、真っ直ぐにシオンを捉える。その瞳は、鮮やかな赤に染まっていた。
シオンは一瞬、その色に目を奪われる。だが、すぐに剣を力任せに振り抜いた。
「っ!」
ジェイクの拳が弾かれる。
シオンはその隙に後方へと跳び、距離を取った。
視線を向けた先では、エイルとヴィーがダリアンと交戦している。槍を振るうダリアンの動きは、先ほどよりも鋭くなっていた。
エイルが銃で受け止め、ヴィーが横から刀を突き出す。しかし、ダリアンは二人の攻撃を巧みに捌き、余裕のある笑みを浮かべていた。
「おやおや。先ほどよりも、少しばかり動きがよくなりましたかね?」
「くそっ……!」
ヴィーが歯噛みする。
その様子を一瞥したシオンは、再び視線を戻した。
ジェイクの背後。黒い靄を纏った少女が、こちらを見つめている。
シオンが睨みつけると少女はその視線に気づき、にこりと微笑んだ。まるで、この状況を楽しんでいるかのようだ。
「………俺もだ、ジェイク」
シオンは静かに口を開く。
「俺も、お前とは本気でやってみたいと思っていた」
そして、剣先をジェイクへと向けた。
「っ、……そうでなくちゃな!探求者としてはよぉ!!」
その言葉を聞き、ジェイクの表情がさらに明るくなる。彼は拳と拳を強く突き合わせた。
ゴッと鈍い音が響き、再び構える。赤く染まった瞳が強く輝いた。
「そんじゃあ、やろうぜ!本気の殺し合いをよ!!ぶっ殺されても文句言うなよ!!」
ジェイクは大きく叫ぶ。
言い終えると同時に地面を蹴り上げ、一直線にシオンへと駆けた。
シオンもまた剣を構え直し、迫り来るジェイクを見据えて地面を強く蹴る。そして。
ガァンッ!!
衝撃が森を震わせる。
二人を中心に、鋭い風が吹き荒れた。木々の葉が激しく舞い上がり、地面の土が巻き上げられる。
互いに一歩も引かぬまま、剣と拳が何度もぶつかり合う。
シオンとジェイク。
二人の力が今、真正面から激突した。




