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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
4、わたしのくろいほうせき

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まさか君は





 森の奥に、張り詰めた空気が漂う。

 エイルは二丁の銃を構えたままジェイクたちを睨みつけ、その隣ではエーが苦しそうに胸元を押さえていた。

 ジェイクは少女を背後に庇い、ダリアンはいつもの穏やかな表情を浮かべている。


 誰も動こうとしない。

 互いに相手の出方を窺う時間が、しばらく続いた。


「お前ら、この中に何があるのかわかってんだろうな!」


 先に沈黙を破ったのはエイルだった。鋭い声が森に響き渡る。

 それを聞いたダリアンは、隣にいるジェイクへ小声で呟いた。


「どうやら、僕たちの目的をエーさんが現れたことでバレてしまったようですね」

「…………」


 ジェイクは面倒そうに息を吐いた。

 できることなら、こんな場所で揉め事など起こしたくない。しかし、目の前の男は銃を構えたまま、こちらを一歩も通す気がない。

 話し合いで解決できるかと思ったが、それは無理そうだった。


「あれは、わたしの宝石なの!わたしの宝石かえして!」


 そのとき、ジェイクの背後から少女が叫んだ。小さな身体を乗り出し、エイルに向かって必死に訴える。


「わたしの宝石なの!返してよ!」

「……君は……」


 少女の顔を見たエイルは、眉をひそめた。そして次の瞬間。ハッとしたように目を見開く。

 見覚えがある。いや、正確には、見覚えがあるどころではなかった。

 エイルはこの少女を、何度も見ていた。夢の中で。黒い宝石の前に立ち、微笑んでいた少女。


 夢の中の光景は、いつも曖昧だった。何もない空間の中に浮かぶ黒い宝石。その前に佇む少女。そして、彼女の傍らにいた、もうひとりの少女。

 何度も繰り返し見た光景だった。

 目の前にいる少女は、その夢に現れた少女と同じ顔をしていた。今はもうひとりの少女の姿は見当たらないが、見間違うはずがなかった。


「エイルさん?」


 隣にいたエーが、不思議そうに首を傾げる。

 エイルはハッと我に返った。息を呑み、銃を握る手に力がこもる。


「……君は、何故あれを求める?」


 エイルは少女に銃口を向けたまま、低い声で尋ねた。


「ひっ……!」


 少女はびくりと身体を震わせ、ジェイクの服を掴む手にぎゅっと力が入る。

 それでも、彼女はエイルから目を逸らさなかった。


「……あ、れは……」


 声が震える。

 けれど、少女は必死に言葉を紡いだ。


「わたしの宝石なの!」


 その声には、恐怖だけではない強い感情が込められていた。


「……ぱ、ぱぱが、わたしの宝石取っちゃって……それで、どこかに隠したの!そ、それが……たぶん、ここにあるの!」

「……何?」


 少女は叫ぶように言った。エイルの片眉が上がる。父親が宝石を隠した。その言葉に、彼の脳裏をある人物の姿がよぎる。

 かつて、エイルはひとりの男から呪念石を預かった。男は、子供たちには内緒で持ってきたのだと話していた。

 黒く、不気味な輝きを放つ石。その力はあまりにも強大で、容易に扱えるものではなかった。だからこそエイルは呪念石を封印し、この森の奥に隠した。


「……!」


 まさか。

 エイルは少女の顔を見つめた。


「まさか……君は彼の……」


 ぽつりと、言葉が漏れる。


「エー!」


 その時、森の向こうからまた別の声が響いた。エイルが顔を向けると、ヴィーがこちらへ駆け寄ってくる。その肩にはルミーの姿もあった。


「……ヴィー!」


 エーは彼の姿を見た途端、ホッと胸を撫で下ろした。

 ヴィーはエーの前で足を止める。


「エー、大丈夫か?」

「……うん。大丈夫」


 エーは小さく頷いた。

 ヴィーの肩にいたルミーが、エーへ向かって身を乗り出す。


「にゃあ」

「ルミー。ちゃんと伝えてくれたのね。偉いわ」

「にゃあっ」


 エーは嬉しそうに微笑み、ルミーを胸に抱きしめた。その様子を見ていたヴィーは周囲を見渡す。

 銃を構えたエイル。武器を持たないジェイクたち。そして、建物の前に漂う緊張感。


「……今、どんな状況なんだ?」


 ヴィーが尋ねると、エイルは短く答えた。


「こいつらが呪念石の眠る場所へ入ろうとしていた。だから止めた」

「なるほど……」


 簡単に説明すると、ヴィーは納得したように頷いた。ジェイクたちへ視線を向ける。

 足元に魔法陣が展開させて武器を召喚すると、ヴィーはそれを手に取って静かに構えた。淡い光の中から現れたのは、一振りの刀。


「……あちらさんがどんどん増えるんですが、どうしましょうか?」


 ダリアンが軽い口調で言う。

 ジェイクは拳を握りしめ、前へ出た。


「どうもこうもねぇよ。話し合いで解決できる雰囲気じゃねぇのはわかんだろ?」


 そう言って、ジェイクは身を構える。拳を前に突き出し、エイルたちを見据えた。


「仕方ありませんね。では、僕もご協力いたしますよ」


 ダリアンは小さく息を吐き、彼の足元にも魔法陣が展開される。

 光の中から現れたのは、三叉の槍だった。彼はそれを手に取ると、くるりと器用に振り回し、槍の刃をエイルへ向ける。

 その穏やかな表情からは、先ほどまでの柔らかな雰囲気が消えていた。


「おじちゃん!わたしもやる!」

「駄目だ。お前は下がってろ」


 少女もジェイクの隣へ飛び出そうとするも、ジェイクはすぐさま彼女を止めた。

 しかし、少女は首をぶんぶんと振って「嫌だ!」と叫ぶ。


「おい……」

「ここにあるのは、わたしの宝石だもん!わたしの宝石を取り戻すのを邪魔する人、わたし自身が何とかするの!」


 少女はジェイクを見上げ、強い口調で言った。小さな拳をぎゅっと握りしめる。その瞳には先ほどまでの怯えはなかった。

 ジェイクは困ったように眉をひそめた。


「だからって、お前を戦わせるわけにはいかねぇだろ」

「でも……!」

「駄目なもんは駄目だ」


 ジェイクが言い切ると、少女は悔しそうに唇を尖らせた。

 その様子を見ていたダリアンが、ふとジェイクへ顔を向ける。


「まぁまぁ、いいじゃありませんか。本人がやりたいと言っているんです」

「だが……」

「わたし、おじちゃんたちの助けになるよ!だからお願い!わたしもやる!」


 少女はジェイクの服を掴み、必死に訴えた。ダリアンは彼女の頭に手を置くと、優しく微笑む。


「ほら。やる気十分じゃないですか。彼女に危険がないよう、僕たちが守ればいいだけの話です」

「…………」


 ジェイクは眉間に皺を寄せた。

 ダリアンを見て、少女を見る。

 再びダリアンを見る。

 そして、深く息を吐いた。


「……わかった」

「!」

「ただし、俺らの前には絶対に出るな。わかったな」

「……うん!わたし、頑張る!」


 少女の顔がパッと明るくなり、嬉しそうに拳を握りしめる。足元に魔法陣が展開され、淡い光が少女の体を包み込んだ。

 光の中で彼女の姿が変わっていく。光が消え、そこに立っていたのは先ほどまでの少女ではなかった。

 落ち着いた雰囲気を纏う、ルーンの姿だ。


「……さぁ。やりましょう。私の宝石を取り戻すわ」


 ルーンの姿となった少女は顔を上げ、ジェイクの隣に立つとエイルたちを見据える。


「……お前、その姿になると口調も変わるんだな」

「……私はそんな喋り方じゃないって指摘されたの。だから変えたのよ。それに、こうでもしないと貴方を騙せないでしょう?」

「……それもそうだ」


 少女が少し不満そうに答えると、ジェイクは肩をすくめた。

 確かに先ほどまでの少女の喋り方では、ルーンの姿をしていてもすぐに正体がバレてしまうだろう。


「…………」


 ジェイクはふと、本物のルーンのことを考えた。


――私はそんな喋り方じゃない。


 そう言って、眉をひそめるルーンの姿。

 想像するとどうにも可笑しく、ジェイクの口元が緩んだ。


「……何?」

「いや、何でもねぇ」


 ジェイクは小さく笑いながら、再び前を向く。

 その先では、エイルが二丁の銃を構えていた。



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