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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
4、わたしのくろいほうせき

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少女たちを追って





 朝の食事を終え、皿を洗ったエーは濡れた手を布で拭きながらヴィーの部屋へ戻ろうと歩いていた。


「にゃあ。にゃあ」

「……?」


 廊下の先から聞こえてきた鳴き声に彼女は足を止める。視線を向けると、そこには一匹の小さな猫がいた。


「え、…え!?なんでルミー、外に出てるの!?」


 驚き、エーは目を見開く。

 ルミーはエーの部屋の扉の前に座り込み、前足で扉をカリカリと引っ掻いていた。


「にゃあ。にゃあ」

「ルミー!」


 エーは慌てて駆け寄ると、ルミーを抱き上げる。腕の中に収まったルミーは、それでも扉のほうを気にしていた。


「にゃあっ」

「どうしてここに…。自分で出ちゃった……って、そんなわけないよね?」


 エーはルミーの顔をじっと見つめ、頭の上に大きな疑問符を浮かべるように首を傾げる。

 ルミーは先ほどまでジェイクたちがいる部屋の中にいたはずだ。それなのに、なぜ外にいるの?


「…………」


 エーは部屋の扉を見る。

 中を確かめたいが、この向こうにはあの少女がいる。強い呪いを纏った黒いワンピースの少女。

 彼女の体に宿る呪いの力が強すぎるせいで、エー自身は部屋の中へ入ることができない。もし入れば、体が呪いに蝕まれてまた倒れてしまう可能性がある。

 ヴィーがいれば、代わりに中を見てきてもらえるのだけど。


「……ヴィーは今いないし……」


 しかし、生憎とヴィーは小屋を出ている。

 つまり、今のエーには部屋の中を確認する手段がなかった。


「にゃあ。にゃあ」


 鳴き声をあげ、ルミーがエーの顔を見上げてじっと目を合わせてくる。その瞳は"扉を開けて"と訴えているようだった。


「にゃあ」


 エーは眉尻を下げる。


「……仕方ない、か」


 しばらく迷ったあと、エーは扉へ向き直る。

 ほんの少しくらいなら大丈夫。何か異変があったとしても、すぐに離れれば問題ない。

 そう自分に言い聞かせながら、恐る恐る取っ手へ手を伸ばした。


「ジェ、ジェイクさーん。入りますよー」


 返事はない。


「…………」


 エーは息を呑み、ゆっくりと扉を開いた。


「にゃあ」


 腕の中にいたルミーがぴょんと飛び降り、そのまま部屋の中へ駆け込んでいった。


「…………え?」


 扉が完全に開かれる。

 部屋の中には誰もいなかった。


「…………」


 エーは目を見開く。

 ジェイクも黒いワンピースの少女もいない。部屋はもぬけの殻だった。開いた窓から朝の風が吹き込み、カーテンを揺らす。


「どうして……どこへ行ったの?」


 エーは呆然と呟き、慌てて窓へ駆け寄った。身を乗り出して外を確認する。

 小屋の周囲には、ヴィーが張った結界がある。しかし、破られた跡はない。結界そのものに大きな異常は見られなかった。


 エーは眉をひそめる。


「結界が……上手く機能しなかったのかな?」


 いや、そんなはずはない。

 ヴィーが張った結界は強力だ。

 あの少女が、普通にそこを抜けられるとは思えない。


「絶対に……この部屋からは出られないはずなのに……」


 エーは窓から離れた。

 その足元へ、ルミーが戻ってくる。


「ルミー、ついてきて!」

「にゃあ」


 すぐにエーは小屋を飛び出した。

 外へ出ると、魔法陣を展開する。


「光の妖精よ。私に力を貸して」


 呪文を唱えると、淡い光が森の中へ広がった。その光に誘われるように無数の小さな妖精たちがエーの周囲へ集まってくる。

 一匹の妖精がエーの頭上を旋回したあと、空高く舞い上がった。続いて、ほかの妖精たちも森の四方へ散っていく。


「…………」


 エーは深く息を吐いて、静かに目を閉じた。

 意識を集中させる。すると、頭の中へ次々と映像が流れ込んできた。

 森。木々。朝の光。妖精たちの目を通して見える、広大な森の景色。


「一体、どこに……」


 エーは必死に視界を追った。

 北。南。東。西。けれど、どこにもいない。


「まだ、そんなに遠くへは行っていないはず……」


 自分に言い聞かせる。

 大丈夫。きっと、すぐに見つかる。


「にゃあ」


 足元からルミーの鳴き声が聞こえた。


「……!」


 その直後、妖精の一匹が見ている景色に何かが映る。

 森の木々の間。遠くに、誰かの背中が見えた。

 小さくて、はっきりとは分からない。けれど、エーにはその背中に見覚えがあった。


「…………」


 目を凝らす。間違いない。

 あれはジェイクだ。


「……いた!」


 エーは目を開き、すぐさま魔法陣を解く。

 戻ってきた妖精たちへ口元を緩ませて礼を言い、エーはルミーを抱き上げた。


「ルミー、お願いがあるの」

「にゃあ?」


 エーは懐から小さなメモ帳とペンを取り出した。そして、紙に勢いよく文字を書き始める。

 時間がない。ペン先を走らせ、書き終えると一枚を破り取った。


「これを、ヴィーが戻ってきたら渡してくれる?」

「にゃあ」


 エーは紙をルミーに持たせる。


「お願いね」

「にゃあ」


 ルミーは紙を咥えた。


「……急がないと」


 そしてエーは森の奥へ目を向け、その場から走り出す。

 小屋から遠ざかっていくエーの背中を、ルミーはしばらく見つめていた。



+



 それから数分後。森の中から、ヴィーが戻ってきた。彼が小屋へ近づいたその時、ルミーが駆け寄る。


「にゃあ!」

「ん?」


 ヴィーはきょとんとした。

 ルミーは彼の足元で立ち止まると、口に咥えていた紙を見せるように顔を上げる。


「ルミー?どうした?」

「にゃあ。にゃあ」

「…………?」


 ヴィーはしゃがみ込み、ルミーの口から紙を取った。

 広げてみると、そこには急いで書いたらしい殴り書きの文章が並んでいた。

 少し癖のある文字。ヴィーには、それを書いた人物がすぐに分かった。


「これ、エーの字じゃねぇか」


 ヴィーは紙へ視線を落とす。

 そして。


「…………ん!?」


 文章を読み、目を見開いた。

 書かれていた内容を読み進めるにつれ、ヴィーの表情が険しくなっていく。


「…………」


 最後まで読み終えると、ヴィーは紙をくしゃりと握りしめた。


「……ったく、あいつら……っ!!」


 慌てて小屋の中へ駆け込む。

 そのままエーの部屋へ向かい、扉を開けた。


「…………」


 誰もいない。

 ジェイクも。あの少女も。

 部屋には、静かな空気だけが残されていた。開いた窓から風が入り込んでいる。


「……くそっ!」


 ヴィーは踵を返した。

 小屋の外へ飛び出し、周囲を見渡す。

 目的はひとつ。呪念石。ジェイクたちが探していたもの。

 ヴィーは地面を蹴り、森の奥へ向かって走り出す。その後ろをルミーも懸命に追いかけた。


「にゃあ!」


 朝の静かな森に、ヴィーの足音とルミーの鳴き声が響き渡る。

 目的地は呪念石のある場所。エイルの小屋だ。



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