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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
4、わたしのくろいほうせき

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外に出たい





 朝食を終えたジェイクが部屋へ戻ってくると、少女は窓際に立っていた。小さな背中を向け、じっと窓の外を睨みつけている。


「……?」


 何をしているのかと近づき、横から顔を覗き込む。すると少女はぷくぅと頬を膨らませ、その顔のまま窓を睨みつけていた。


「むぅ……」

「……どうしたんだ?」

「窓からも出れない」

「窓?」


 ジェイクはきょとんとする。

 少女は返事をしながら、窓へ向けて掌をかざした。小さな魔法陣が展開され、そして「えいっ」と、ほとんどゼロ距離から魔法を放つ。

 しかし。――バチンッ!と、魔法は大きな音と共に窓のすぐ手前で弾かれた。淡い光が一瞬だけ散り、そのまま消滅する。


「……」


 少女は無言で窓を見つめた。


「…………」


 もう一度、試してみる。


 ――バチッ!


 やはり同じだった。


「むーー!!」


 少女は両手を握りしめ、地団駄を踏む。小さな体いっぱいに悔しさを表した。


「………」


 ジェイクも窓を眺める。

 どうやらこの部屋には、窓や扉といった出口だけを塞ぐのではなく、部屋そのものを包むように結界が張られているらしい。

 逃げ道は完全に封じられていた。


「わたしの宝石……、これじゃあ探しに行けない」


 少女がぽつりと呟く。

 声が震えていた。見れば、目尻には涙が浮かんでいる。

 ジェイクは一瞬だけ少女の顔を見つめた。そして何も言わずに手を伸ばし、ぽんと頭へ手を置く。


「……」


 そのまま、くしゃり。

 柔らかな髪を優しく撫でた。


「ぐすっ……」


 少女は鼻をすすり、少ししてから顔を上げる。


「……話、してきたの?」

「ああ。だが、駄目だった。あいつら全然人の話聞かねぇ」


 少女は俯く。

 ジェイクは窓へ手を伸ばし、鍵を外した。ガラッと窓を開けると、涼しい風が部屋へ吹き込んでくる。

 少女の髪が風に揺れる。外には朝の森が広がっていた。

 木々の隙間から差し込む陽光。葉を揺らす風。そして、その先に続いている森の道。

 少女はそれをじっと見つめた。


「わたし、……あの人、嫌い」


 ぽつりと呟く。

「あの人」が誰なのか。聞くまでもなかった。


「……とりあえず、なんとかしてお前もこの結界を通れるようにしないとな」

「わたしがまたお姉ちゃんの姿になれば、なんとかなると思うけど……」


 ジェイクは腕を組み、少女は自分の両手を見つめる。


「まだ、しばらくしないと魔力戻んない……でも、そんなに待つのやだ」

「うーん…」


 ジェイクは顎に手を添えた。

 結界を破る。それが無理なら、結界を通れるようにする。だが、ヴィーが張ったものなら、そう簡単にはいかないだろう。


「どうしたもんかねぇ……」


 二人は揃って頭を悩ませる。


「お困りのようですね」

「「……!」」


 その時、突然声がした。しかもすぐ近くから。少女とジェイクは同時に顔を見合わせる。

 今のは外からか?そう思ったジェイクは素早く窓へ近づき、身を乗り出して周囲を見渡した。

 木々。草むら。小屋の周囲。見える範囲すべてを目に映す。そして、視界の端に白いものが映った。


「………」


 その白を見つけた瞬間、ジェイクの顔が引きつる。気の所為だと思おうとするも、嫌な予感がした。

 ゆっくりと、そちらへ顔を向ける。


 そこに立っていたのは──。


「おはようございます」


 穏やかな笑顔を浮かべたダリアンだった。


「…………」


 ジェイクの顔に、あからさまな嫌悪が浮かぶ。

 ダリアンはそんなジェイクの反応を気にした様子もなく「失礼しますね」と、窓の縁へ足を掛け、ひょいと窓から部屋へ入ってきた。


「お前、なんでここに……」

「貴方たちを追ってきたんですよ」

「追ってきた?」

「ええ。どうしても諦められなくてね」


 聞くと、ダリアンは答える。

 相変わらずの穏やかな笑顔。

 ジェイクは露骨に顔をしかめた。


「……しつこい奴だな」

「それほどでも。よく言われます」

「褒めてねぇよ」


 ダリアンは軽く笑いながら部屋を見回す。そして、少女のところで視線を止めた。


「…………ふむ。少し見ない間に縮みました?」


 少しだけ首を傾げる。


「? わたしがわかるの?」

「ええ。もちろん」


 目を瞬かせた少女に穏やかに笑うダリアン。その笑顔が妙に自然で、少女は戸惑った。

 ダリアンは少女から視線を外すと、今度はベッドへ目を向ける。そこではルミーが気持ちよさそうに眠っていた。


「…………」


 ダリアンは何の前触れもなく子猫を抱き上げ、眠ったままのルミーを起こさないように扉へ向かう。

 そしてガチャリと扉を開け、そのままルミーを部屋の外へそっと移動させた。


「にゃ……?」


 床へ降ろされたルミーはすぐに目を覚ましたが、扉は閉められたあとで一足遅かった。

 扉へ駆け寄り、カリカリと小さな爪で扉を引っ掻く。


「にゃー。にゃー」

「これでよし」


 ダリアンは満足そうに頷くと、二人へ向き直った。


「ところで、貴方たちはこんな所で何をしているんです?」

「……」


 聞かれて、少女はこれまでのことをかくかくしかじかと簡単に話す。話を聞き終えると、ダリアンは「なるほど」と頷いた。


「それで、貴方たちは朝からそんな困り顔を浮かべていたのですね」

「この小屋に住んでる奴、ヴィーっていうんだが。そいつが結界を張ってくれたせいで、こいつは外に出られなくなっちまったんだよ」


 ジェイクが言葉を付け足す。


「……呪念石、探したい」


 少女がぽつりと呟き、ダリアンの目が少女へと向けられた。


「それなら、もう見つけましたよ」


 あっさりと告げられ、時間が止まる。

 少女とジェイクは、同時にダリアンを見た。


「は?」

「え?」


 二人の声が重なる。

 ダリアンは変わらぬ穏やかな笑顔で、もう一度告げた。


「呪念石。見つけました」

「…………」

「…………」


 二回言われ、その言葉は聞き間違いではないことがわかった。

 ジェイクと少女は顔を見合わせる。少女の瞳が大きく見開かれ、そしてジェイクもまた驚きを隠せずにダリアンへ視線を戻した。



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