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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
4、わたしのくろいほうせき

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遠くまで行くな





 夕暮れの森を、エーは重い足取りで歩いていた。何度も立ち止まりながら、それでも小屋を目指して進む。

 体はまだ本調子ではなく、胸の奥には鈍い違和感が残っていた。


「…………」


 そして、ようやく木々の向こうに小屋が見える。


「あ……」


 小屋の前には、一人の男性が立っていた。ヴィーだ。彼は扉の前を行ったり来たりしている。

 腕を組んだかと思えば森の方を睨み、また数歩歩いては立ち止まる。何度も同じことを繰り返し、明らかに落ち着きを失っている人の動きをしていた。


「っ、……ヴィー!」


 エーは歩く速度をあげて、彼に声を掛ける。


「!」


 その声を聞き、ヴィーは勢いよく振り返った。エーの顔を見た瞬間、彼の目が見開かれる。

 そしてヴィーは一目散にエーのもとまで駆け寄り、その両肩を強く掴んだ。


「おま……!何処まで行ってんだよ!俺は小屋の外にいろとは言ったが、遠くまで行けとまでは言ってねぇだろ!」


 怒鳴る声。エーは思わず目を瞬いた。けれど、掴まれた肩から伝わる手の力が微かに震えている。


「……ごめん。すぐに戻ろうと思ったんだけど…私、倒れちゃったみたいでさ……さっき起きたんだ」

「は?倒れた?」

「うん。それで……私が起きるまで看病してくれた人がいたんだけど……」


 エーは、先ほど起きたことを話した。

 まず倒れたこと。目を覚ますまでダリアンという男性が付き添ってくれたこと。そしてそのダリアンという男性が、呪念石を探しているということ。

 順番に話していく。


「…………」


 話を聞き終えたヴィーは、しばらく黙った。やがて腰へ手を当て、大きく息を吐く。


「なるほど。そのダリアンって奴が、もう一人の呪念石捜索者か」

「でも、あの人……ただ呪念石を見たいだけって言ってた。だから、危険はないと思う」

「まぁ、見たいってだけなら問題ねぇのは確かだが……あれを見て、それで終わると思うか?」

「…………」


 腕を組んで、ヴィーは言う。エーは黙った。

 呪念石。その名前を聞いただけで、二人の表情が重くなる。

 呪念石の恐ろしさは、二人とも知っていた。あれは単純に、触れた者へ害を与える石ではない。

 触れなくても。ただ目にするだけでも。人の心の隙間へ入り込み、そして少しずつ思考を支配していく力を持っている。


「呪念石はヤベェ石だ。興味を持った時点で、支配は始まってるって考えた方がいい」

「…………」

「だから、そのダリアンって男も。あのガキも。…おっさんにも注意が必要だ」


 ヴィーは低い声で言い、指を三本立てる。


「ジェイクさんも?」

「……ああ。あのおっさんも呪念石を探しに来たひとりだ。安全とは言えねぇだろ」

「……あまり、知ってる人を疑いたくないな……」


 眉尻を下げて、エーはぽつりと呟く。


「ごほっ」


 すると、小さく咳が出た。

 その音を聞いた瞬間、ヴィーは表情を変え、エーへ手を伸ばす。


「……!」


 ひやりとした指先。エーは少し驚いた。


「…………」


 ヴィーは額へ触れたまま、じっとエーを見る。

 その顔からは怒りは消えていた。


「……ちょっと熱いな」

「そう?」

「ああ。倒れたってのは本当みたいだな。……ったく。外に出たらお前いねぇからビビった」

「…………」


 指先を離したヴィーは眉を寄せ、小さく息を吐く。


「…あんま、心配させんじゃねーよ」


 ヴィーは視線を逸らす。

 その言葉は酷く小さかった。


「ごめんね」


 エーは黙って彼を見つめ、そして口を開く。


「謝るくらいなら、勝手に遠くまで行くな」

「……うん」


 ヴィーはもう一度、エーの顔を見て彼女の頭に触れた。ポンと軽く叩き、それから、気を取り直すように話を少女の方へ戻す。


「…にしても、ほんのちょっとしかそばにいなかったはずなのにぶっ倒れるって、…あのガキ、どんくらいの量の呪い持ってんだよ」

「……あの子、今どうしてるの?」

「大人しく寝てる。おっさんもな」

「ジェイクさんも?」

「ああ」


 エーは小屋を見た。


「私、戻っても大丈夫かな?」

「……んー。とりあえず、呪いが他の部屋に漏れ出ないように結界は張ったが、入ってみてどうなるかだな」


 ヴィーは腕を組んで、同じく小屋を見る。


「もし小屋に入って、またぶっ倒れそうになるんだったら……仕方ねぇ、今夜は野宿だ」

「えっ」


 少しだけ間を置いて言うと、エーの顔が分かりやすく引きつった。それは嫌だとはっきり告げると、ヴィーは肩をすくめて息を吐く。

 そして二人は小屋へ向かった。ヴィーが扉を開け、エーは少しだけ身構える。入った瞬間では体に異変はない。


「…………」


 そのまま中へ入って、しばらく待つ。

 胸が苦しくなる様子はなく、吐き気もない。エーはゆっくりと息を吸った。


「……はぁ」


 安堵の息が漏れる。

 肩から力が抜けた。


「なんとか大丈夫そうだな」


 ヴィーも小さく息を吐く。

 その声にも、僅かに安堵が滲んでいた。


「うん」


 エーは胸へ手を当てる。

 まだ完全ではないが、ここにいること自体は問題はなさそうだった。

 でも。と、エーは自分の部屋の方へ顔を向ける。


「…私の部屋は使えないんだよね」

「今日はな」

「なら、私どこで寝るの?リビング?」

「ここに寝られるとこなんかねぇよ。……普通に考えて、俺の部屋だろ」

「え」


 ヴィーが答えると、エーの動きが止まった。


「なんだ。不服か?」

「別にそういうわけじゃないけど…。……うーん。まぁ、しょうがないか」

「なんかすげー嫌そうだな」


 エーは少し考え、渋々頷く。

 その反応にヴィーは眉をひそめた。


「野宿よりはマシだと思うが?」

「……それはそうだけど。ごほっ」


 エーは小さく息を吐き、また咳をひとつ。


「…大丈夫か?」

「うん」


 胸に手を当てる。

 その手にはダリアンからもらったハンカチが握られ、未だにそれは濡れたままだった。



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