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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
4、わたしのくろいほうせき

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とんでもない呪い






 森の中を駆けていたヴィーは、感じ取った気配の正体を確かめるため、木々の間を抜けた。何者かがこの精霊の森へ入り込んでいる。それだけは間違いなかった。だからこそ警戒していた。

 森の中腹付近へ進み、気配のする場所へ辿り着いた時。木の陰に隠れてしばらく気配を押し殺し、タイミングを見計らい先制攻撃を仕掛けた。けれど、それは意味がなかった。


「お前……っ、なんでここに……?」

「……それはこっちの台詞だ。何してんだ、おっさん」


 目の前にいたのが見知った顔だったからだ。

 ヴィーは眉をひそめ、握っていた刀に込めていた力を抜くとそのまま刃を引く。


「ここはおっさんみてぇな一般人が来ていい場所じゃねぇぞ」

「……俺はただ依頼されてついてきただけだ」

「依頼?」


 ヴィーはきょとんとして、頭の上に疑問符を浮かべる。

 するとそこで、ジェイクの背後から黒いワンピースを着た少女が姿を現した。


「こんにちは、ヴィー」

「…………っ」


 声を聞き、その姿を見るとヴィーの瞳が大きく見開かれる。


 一瞬だけ、呼吸を忘れた。


「……、…ルーン?」

「驚いたわ。まさかこんな所で貴方に会えるなんて」

「……………」


 彼女は、ヴィーへ向かってにっこりと微笑む。ヴィーは少女の姿をまじまじと見つめ、刀を握る手に力を込めた。

 見た目は完全に彼もよく知っている少女。少なくとも、外見だけならそう見える。


「…俺も、まさかここで会うなんてな。学び舎はどうした?」

「休暇願いを出してきたの。心置きなくこの場所へ来られるようにね」

「そうか……」


 だが、ヴィーの中にある何かが警告していた。この少女とは会話をするな。近づくなと。


「……おっさん。…ちょっと」


 ヴィーは眉をひそめ、ジェイクの腕を掴んだ。強引に引っ張り、彼はそのまま少女から距離を取る。


「おいっ」


 ジェイクが驚いて目を見開いた。

 ある程度離れたところで、ヴィーはようやく腕を離す。


「ちょ、何だ……っ?」

「おい。……何だ、あれは?」

「ん?あれって……あいつのことか?」


 ジェイクが振り返る。

 少女の姿を見ようとすると、あんま見るなとヴィーに止められた。


「……あいつがどうかしたのか?」

「おま……、あれ見てなんとも思わねぇのかよ!」


 ヴィーは小声で怒鳴りながらジェイクを見る。


「…………」


 ジェイクは彼を見つめて少し黙った。

 そして、ぽつりと呟く。


「……お前、何かあいつから感じるのか?」

「あ?」

「俺は何もわからん。ただ…妙な感じはしてる」


 ジェイクはもう一度、少女の方を見る。

 そのあとも彼は自分が感じている違和感を、かくかくしかじかと説明した。全てを聞き終えたヴィーの表情が徐々に険しくなる。


「……なるほど。おっさんも薄々は感じ取ってたんだな」

「……あいつは、一体何なんだ?」

「さあな。俺にもわからん。ただ、あいつの中から、とんでもなく強い呪いの気配を感じる」

「呪いだと?」


 ヴィーは頷き、少女を見る。

 ジェイクの表情も彼と同様に険しくなった。


「……一応聞いておくが。おっさんたちは、ここに何しに来たんだ?」

「…………」


 聞かれて、ジェイクは答える。

 その言葉を聞いた瞬間、ヴィーの表情が強張った。


「呪念石?おい待て。呪念石を探しに来たのか?」

「そうだ」


 声が低くなる。

 ジェイクは彼の反応を見て、目を細めた。


「……その反応、やっぱここにそれがあんだな」

「……おっさん。ここへは依頼されて来たって言ってたな。…悪いことは言わねぇ。さっさとその依頼破棄して帰れ」

「は?」


 ヴィーは真剣な顔でジェイクを見る。

 ジェイクは眉をひそめ、頭の上に疑問符を浮かべた。


「どういう意味だ?」

「あれは、」


 ヴィーは答えようとする。


「何をこそこそ話しているの?」

「…………!」


 だが、そこですぐ近くから少女の声がした。二人の肩が同時に跳ね、ジェイクが慌てて振り返る。

 いつの間にか、少女がすぐ後ろまで来ていた。


「私には内緒のお話かしら?」


 首を傾げ、少女は口元を緩める。

 笑っている。それなのに。ヴィーには、その笑顔が妙に不気味に感じられた。


「……ああ、悪い。ちょっと男同士の話があったからさ。な、おっさん?」

「………ああ」


 ヴィーが答える。

 視線を向けると、ジェイクはそれに合わせるように頷いた。


「…そう」


 少女もヴィーとジェイクの顔を交互に見てきょとんとするも、特に疑う様子もなく、小さく頷く。


「おっさんに聞いたが。呪念石を探してるらしいな」


 魔法陣で刀を消し、ヴィーは少女に聞いた。


「ええ。……知っているの?」

「まあな」

「どこにあるの?」

「さあな。この森にあるって言われてるが、場所まではわからん」

「そう……」


 肩をすくめるヴィーに、少女は考えるように呟く。


「にゃあ」

「?」


 その時、小さな鳴き声が響いた。

 ヴィーの肩に乗っていた子猫…ルミーが体を起こし、ぴょんと跳ねて、そのまま少女の頭の上へ着地する。


「…………!」


 少女は目を丸くした。

 手を伸ばして、頭の上に乗ったルミーへ触れる。さわさわとした柔らかな毛並みが掌へ伝わった。


「…………」


 少女の表情が、ほんの少しだけ硬くなる。


「なんだこいつ?」


 ジェイクもルミーを見る。


「そういや、おっさんは会うの初めてだったな」

「にゃあ」

「こいつはお前のか?」

「いや。こいつはエーの猫だ」

「……へぇ」

「…………」


 ヴィーは首を横に振った。

 少女は黙っていた。そして、ルミーからゆっくりと手を離す。


「…………」


 その顔は歪んでいた。


「……どうした?」

「…なんか、変な感じ」


 ジェイクが聞くと、少女は自分の胸へ手を当てる。


「もしかして、猫駄目なのか?」

「………んんっ」


 ヴィーが続いて聞くも、少女は体をふらつかせその場にしゃがみ込んだ。


「っ……」

「おい、どうした?」


 ジェイクも慌ててしゃがみ、少女の顔を覗き込んで肩に触れる。


「大丈夫か?」

「…………」


 少女は答えない。

 胸元を押さえたまま、苦しそうに眉を寄せていた。


「にゃあ」


 ルミーは少女の頭の上から動かず、小さな声で鳴き続ける。


「にゃあ、にゃあ」

「…………」


 ヴィーも動かなかった。

 少女をじっと見つめている。

 その目には、先ほどまで以上の警戒が浮かんでいた。



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