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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
4、わたしのくろいほうせき

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精霊の森へ





 真ん中の大陸。港町。


 船着き場で船を降りた少女とジェイクは、その足で迷うことなく精霊の森へと向かった。

 二人が辿り着いたのは、どこにでもありそうな森の入口。木々が並び、鳥の声が聞こえる。一見しただけなら、ただの森にしか見えない。

 少女は森を前にして立ち止まった。そして、ゆっくりと片手を前へ伸ばして掌を森へ向ける。すると、空気が僅かに震えた。

 何もないはずの空間に薄い光の膜が浮かび上がる。それは森全体を覆うように広がっていた。


「ここね。……貴方は下がっていて」


 少女はそう言うと、指先を僅かに動かした。

 次の瞬間。パキンと、ガラスが砕けるような音が響く。目の前にあった光の膜が細かな粒子となって崩れ、森の奥へと消えていった。

 同時に。二人の目の前に広がる景色が僅かに変化する。


「…………」


 ジェイクは目を細めた。

 さっきまでと同じ森。木々も、草も、地面も変わっていない。

 なのに。どこか違う。

 二人はそのまま森へ足を踏み入れた。


「………ここが、精霊の森?」


 ジェイクは周囲を見渡す。


「なんか、あんま変わってないように見えるが」

「そうでもないわ。よく見てみれば、違いがわかるはずよ」


 少女は前を向いたまま答えた。


「…………」


 ジェイクは言われた通り、周囲を注意深く観察する。

 木々。草花。森の中を流れる風。

 何もかも、一見すると普通だった。


 けれど──


「……」


 ジェイクは、ゆっくりと息を吸う。

 空気が澄んでいた。先ほどまでいた森とは明らかに違う。肺の奥まで、冷たく綺麗な空気が入ってくる。

 風が吹き、木々の葉が擦れ合う。

 その音が、まるで誰かが楽しそうに笑っているように聞こえた。


「……妙な森だな」


 ジェイクが呟いたその時、視界の端を何かが横切る。


「……!」


 ジェイクの目が見開かれた。

 それは蛍のように光り輝く、小さな何か。目で追っていくと、森の奥へ飛んでいき、木々の向こうへ消える。


「……何だ、今の?」

「妖精よ」

「妖精?」

「ええ。あちこちにいるわ。ほら」

「…………」


 少女が指を差す。

 ジェイクがそちらを見ると、木々の間で淡い光に包まれた何かがいくつも飛び回っていた。

 それは群れを成していて、その光の中には小さな人の姿が見える。背中から羽根を生やした、人型の生き物。彼女たちは楽しそうに笑いながら、木々の間を飛び回っていた。


「あれが妖精なのか?」

「ええ。初めて見た?」

「……ああ」


 ジェイクは光…妖精たちを見つめる。


「世界のどっかにいるってのは知ってたが……」


 実際に見るのは初めてだった。

 妖精たちはジェイクたちを気にする様子もなく、楽しそうに飛び回っている。

 その光景を横目に、二人は森の奥へと進んだ。

 歩く。ただひたすらに歩く。

 特に立ち止まるようなものはない。妖精の姿を何度か見かけることはあったが、それ以外には目立ったものはなかった。


「…………」


 少女は迷いのない足取りで進んでいき、ジェイクもその後ろを追う。

 やがて二人は森の中腹部まで辿り着いた。


「…………」


 ジェイクは辺りを見渡す。

 木。木。また木。どこを見ても同じような景色が続いている。


「なんもねーな」


 ぽつりと呟く。

 その声に、少女が足を止めた。


「…………」


 少女も周囲を見渡す。

 そして少しだけ眉をひそめ、顎に手を添えた。


「…………」


 ジェイクも足を止めて、少女を見つめる。険しい表情で悩んでいる様子の少女を見つめ、彼はなんとなく嫌な予感を覚えた。


「……おい。まさか迷ってないよな?」


 恐る恐る尋ねる。

 少女はジェイクの方を見て、首を横に振った。


「いいえ、大丈夫よ。迷ってはないわ。ちゃんと目的地に向かってる」


 そこまで言って、少女は再び森へ視線を向ける。


「……だけど」

「だけど?」

「森全体が、私たちを警戒してる」

「なに?」


 ジェイクの表情が険しくなる。

 彼も周囲へ視線を巡らせた。

 風。木々。草むら。さっきまでと何も変わっていない。

 でも。確かに何かが違った。

 ほんの僅かな違和感。

 誰かに見られているような。

 森そのものが、こちらを観察しているような。


「……私が『異物』だってわかっているのかしら」


 ぽつりと少女が呟く。

 ジェイクは彼女を横目で見つめた。


「…………」


 と、不意にジェイクの表情が変わる。

 何かを感じた。


「…………」


 ゆっくりと顔を向ける。

 右。誰もいない。

 左。何もない。

 木々の間。草むら。

 やはり、誰もいない。

 だが。


「……」


 確かに何かがいる。

 ジェイクは拳を握った。


「どうしたの?」

「……何かいる」

「!」


 それを聞いて、少女も周囲へ目を向けた。

 ジェイクは呼吸を整え、意識を研ぎ澄ます。

 音。風。気配。全てを感じ取ろうとする。


 そして。


「……!」


 視界の端を、きらりと何かが通った。

 ほんの一瞬だけ光ったように見え、ジェイクはそちらへ顔を向ける。


「……ジェイク」

「お前は下がってろ」


 少女が何か言うより先に、ジェイクは片手を出して制した。

 少女を自分の後ろへ置き、そして一歩。足を進める。拳は握ったまま。いつでも動けるように体を構える。

 視線の先。木々の向こう。そこに何かがいる。それだけは確かだった。だが、姿が見えない。


「…………」


 ジェイクは慎重に進む。

 一歩。また一歩。

 相手もこちらを警戒しているのだろう。こちらから仕掛ければ、相手も動く。相手から仕掛ければ、こちらも動く。

 どちらが先に手を出すか。

 それだけで、この先の展開は大きく変わる。


「…………」


 ジェイクは息を殺した。


「っ!」


 そして動いた。

 先に仕掛けたのは、向こうだった。

 木々の間から何かが飛び出す。

 あまりにも速い。


「なっ……!」


 ジェイクの目の前へ、一瞬で姿が現れる。

 何かが振り下ろされた。


「っ!」


 ジェイクは反射的に拳を振り上げ、迎え撃つ。


「……!」


 だが、拳と、それがぶつかった。

 重い。想像していた以上の衝撃が腕を伝う。

 ジェイクは歯を食いしばる。しかし相手はびくともしなかった。


「……なっ」


 拳を受け止められた。

 いや、違う。こちらの拳が完全に止められている。

 ジェイクは目を見開いた。


「!」


 そこで初めて、彼は相手の顔を見る。


「………お前っ!」


 赤と白の髪。

 鋭い瞳。手には刀。

 相手もまた、ジェイクの顔を見て目を見開いていた。


「てめぇは…」


 二人の視線が交差する。

 一瞬。森の音が遠ざかったように感じられた。

 ジェイクはゆっくりと拳を下ろし、敵意を解く。


 目の前に立っていた男。

 ジェイクへ攻撃を仕掛けてきたその人物は、ヴィーだった。



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