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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
4、わたしのくろいほうせき

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船の上で





 翌日。港町へ戻った少女とジェイクは、真ん中の大陸へ向かう船のチケットを購入した。

 船は大きな汽笛を鳴らし、ゆっくりと港を離れていく。やがて町の景色が遠ざかり、視界いっぱいに青い海が広がった。


「…………」


 少女は甲板の手すりに手をかけ、船の進行方向をまっすぐ見つめる。潮風が吹き抜け、長い髪が風に煽られ、後ろへ流れていく。

 その隣では、ジェイクが手すりに背を預けて腕を組んでいた。


「…………」


 しばらく二人とも口を開かなかった。聞こえてくるのは、船が波を切る音と風の音だけ。

 やがて、ジェイクが海を眺めながら口を開いた。


「あの大陸に行くのも久し振りだな」

「ええ」

「精霊の森に行くとして……行き方は知ってんのか?」

「だいたいはね」

「……へぇ」


 少女は短く答える。

 ジェイクはそれ以上追及しなかった。

 少女はまた海の向こうを見つめ続ける。

 精霊の森への行き方。それは頭に入っている。だが。実際に、その森へ足を踏み入れたことはない。


「…………」


 少女は静かに目を細めた。

 そして、父親のことを思い出す。

 父親は一度だけ、精霊の森へ行ったことがあった。それを知ったのは、つい最近のこと。

 父親は森へ行ったことを家族の誰にも話していなかった。いや。母親には話していたのかもしれない。

 少なくとも自分と兄には知らされていなかった。


「…………」


 なぜ父親は、そこへ行ったのか。

 その理由は今なら分かる。

 あの人は。どうしても、自分と兄の手から黒い宝石を引き離したかったのだ。

 呪念石。それは自分と兄、二人にとって決して手放すことのできないものだった。

 けれど。だからこそ、父親はそれを二人から遠ざけた。


「(精霊の森…)」


 そこには強力な結界が張られている。

 森そのものだけではない。森の中に存在するものさえ、外部から感知されない。呪念石を隠すには、これ以上ない場所だった。

 あそこなら。誰にも見つけられない。誰にも気づかれない。安全だ。父親はそう考えたのだろう。


「…………」


 我が父親ながら、よく考えついたものだと少女は思う。

 呪念石を隠した。そのおかげで。自分と兄、リースレッドの仲は戻った。離れていた家族の関係も、少しずつ元へ戻った。

 また以前のように。仲睦まじい家族として暮らせるようになった。


 だけど──。


「…………」


 少女の表情から、僅かに笑みが消える。


 そのおかげで。

 ──“わたし”は生まれた。


 ルーンの中で。

 ずっと眠っていた“わたし”は少しずつ成長し、そして、とうとうルーンの中から出てくることができた。

 今、こうして自分の足で立ち、自分の目で世界を見ている。自分の声で話している。それができるようになったのは、ルーンの父親が呪念石を精霊の森へ隠してくれたからだった。


「…………」


 だから、感謝しなければならない。

 自分を生んでくれたこと。

 ルーンと一緒に、自分を愛してくれたこと。

 自分を精霊の森へ導いてくれる道を残してくれたこと。


「ふふっ」


 少女の口元から、小さな笑みがこぼれる。


「…………」


 ジェイクはその声を聞き、隣へ視線を向けた。

 少女は海を見つめながら僅かに笑っている。


「…………」


 何がそんなに可笑しいのか。

 ジェイクには分からなかったが、それほど気にはならなかった。


 それよりも。


「…………」


 やはり。この少女は自分の知っているルーンではない。ジェイクはそう確信していた。

 顔も。声も。姿も。間違いなくルーンだ。だが、何かが違う。

 ルーンという少女を知っているからこそ、その違いが分かる。言葉遣い。仕草。物事に対する反応。何より、彼女から感じる言葉では説明できない違和感。


「…………」


 最初に会った時から、ずっとそうだった。それでもジェイクは、そのことを本人へ告げるつもりはなかった。

 もし「お前は本当にルーンなのか?」と、そう尋ねたら。警戒され、この少女は自分から離れていってしまうかもしれない。

 それは避けたかった。

 この少女を一人にしてはいけない。そんな予感が、ジェイクの中にはあったからだ。

 だから。しばらくは黙っている。

 それが今のジェイクにできることだった。


「…………」


 しばらく海を眺めたあと、ジェイクは口を開く。


「……おい」

「何?」


 少女が顔を向ける。


「……腹、減ってないか?」

「?」


 一拍置いて聞いた。

 少女は首を傾げる。


「平気よ」


 そう答え、柔らかく笑う。


「気にしてくれてありがとう、ジェイク」


 その笑顔を見て、ジェイクは黙り込んだ。


「…………」


 何故、この少女はルーンの姿をしているのか。自分に近づいてきた理由は何なのか。

 呪念石を手に入れて、いったい何をしようとしているのか。

 分からない。何一つ。


「…………」


 ジェイクは目を逸らさず、少女の姿を見つめ続ける。


「…………」


 そして、心の中で考えた。


「(なんとかして、シオンたちと連絡が取れればいいんだがな…)」


 自分一人では判断できないことが多すぎる。できれば、この少女について知っていることを話し、どうするべきか相談したい。

 真ん中の大陸へ到着するまでには、まだ時間がある。それまでに何か考えておかなければ。


「……………」


 ジェイクは眉をひそめる。

 隣では、楽しそうに少女が海を眺めていた。



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