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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
4、わたしのくろいほうせき

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本当にそれは本物?





 ダリアンの家は広場から少し離れた場所にあった。街の喧騒から少し外れた通りに建つ、こぢんまりとした家。家の扉を開け、彼に続きジェイクと少女も中へと足を踏み入れる。


「どうぞ」

「お邪魔するわ」


 中へ入ると視界に映ったのは、いかにも一人暮らしの男性が住んでいるといった部屋だった。

 家具は必要最低限。それほど広くもなく、かといって窮屈でもない。一人で暮らすには十分な広さだった。

 部屋の隅にはいくつかの箱が積まれ、棚には本が並んでいる。その中には掃除道具なども置かれていたが、それ以上に目立っているものがあった。


 本。とにかく本が多い。

 しかも、その多くが宝石や鉱石に関するものだった。


「……本当に宝石マニアなんだな」

「ええ。昔から好きなんですよ」


 ジェイクが部屋を見回して呆れたように呟くと、ダリアンは穏やかに笑い「少し待っていてください」とそう言って部屋の奥にある扉を開けて離れていった。


「何か手掛かりが見つかるといいわね」


 少女が呟く。


「まぁ、見つからなかったら…また別の方法を考えるしかねぇな」


 ジェイクは肩をすくめた。

 それからしばらくして、ダリアンが戻ってくる。


「お待たせしました」

「…………」

「…………」


 戻ってきたダリアンの姿を見て、二人は無言になる。彼は両腕いっぱいに本を抱えていた。

 一冊や二冊ではない。十冊か、それ以上はあるだろうか。


「……おい。何冊持ってきたんだ」

「このあたりですと、このくらいでしょうか」


 ダリアンは本をテーブルの上へ置いた。ドサドサと何冊もの本が積み重なる。


「………多すぎだろ」


 ジェイクが呆れた声を漏らし、口元を引きつらせた。


「…あー…こん中から探すのか?」

「根気がいるけど、探すしかないわ」


 少女も積み上げられた本へ目を向ける。その表情には躊躇いはなく、一番上にあった本を手に取ると目前の椅子に座った。

 ダリアンも向かいの椅子へ座り、本を手に取る。少女から借りた紙を横に置き、それを横目に見つめながら本を開いた。


 パラパラパラ……。

 ページをめくるたびに、様々な宝石の絵が目に飛び込んでくる。

 赤。青。緑。透明。白。黄色。

 色だけではなく、宝石の形や硬度、産出する場所、性質、加工方法などなど、そこには細かな説明までびっしりと書かれていた。


「これ…かなり詳しく載っているのね」


 少女が感心したように言う。


「ええ。なかなか素晴らしいでしょう?」


 ダリアンは別の本を開きながら、にこにこと笑いながら答えた。


「これなら、見つかる可能性はゼロではないのかもしれないわね」

「……こりゃ長くなりそうだな」


 ジェイクもため息を吐き、椅子へ腰を下ろす。そして彼も、一冊の本へ手を伸ばした。



+



「………………」


 しばらくして、部屋は静かになる。

 聞こえるのは、ページをめくる音だけ。


 パラ…パラ……。


「…………」


 ジェイクはテーブルへ頬杖をつきながら、本を眺める。


「ふぁ……」


 欠伸が出て、目を擦る。

 本を読む。ページをめくる。

 また読む。またページをめくる。


「…………」


 正直、退屈だった。

 ジェイクにとって、本を読むという行為そのものが久しぶりだった。

 まともに本を読んだ記憶など、子供の頃に絵本を読んだ時にまで遡る。


「……ほんと、何十年ぶりだよ」


 小さく呟きながらページをめくる。


「…………」


 ちらりと隣を見ると、少女もまた本をじっと見つめていた。

 真剣な眼差し。ページを追う瞳。

 時折、指先で文章をなぞる。

 その横顔は、ジェイクの知っている少女・ルーンそのものだった。


「…………」


 ジェイクはしばらく彼女を見つめる。

 似ている。顔も。声も。仕草も。話し方も。この少女は間違いなくルーンだ。ルーンにしか見えない。


 なのに──


「…………」


 ジェイクの眉間に、僅かに皺が寄る。

 この少女は、本当に自分の知っているルーンなのだろうか。その疑念は、ギルドで顔を合わせた時から消えていなかった。

 むしろ、こうして一緒にいることで強くなっている。


 "シオンたちには言ってきた"

 少女は確かにそう言った。だが。


「…………」


 ジェイクは再び本へ視線を落とす。

 どう考えてもおかしい。シオンたちなら、こんなことを許すはずがない。

 ジェイクの記憶では、ルーンは以前、カフルエルというダークエルフの男に殺されかけている。そんなことがあったばかりなのだ。

 それなのに、一人で南の大陸まで来る。そんな危険な行動をシオンたちが黙って見送るとは思えない。


 特にフィル。そしてホワイト。

 二人が黙っている姿など、ジェイクには想像できなかった。


「…………」


 自分だって、その場にいたら止める。

 それほどのことだった。


「…………」


 ジェイクは本を読むふりをしながら、隣の少女をもう一度横目で見つめる。

 やはり、何かがおかしい。

 だが、どこがおかしいのか。それが分からない。


「(聞いたところで、…だしな)」


 それで、彼女が素直に答えるとも思えなかった。


「………?」


 じっと見つめていると、少女がふと顔を上げる。視線がぶつかり、無言となり、やがて少女は首を傾げた。


「……何?」

「……いや。別に」


 ジェイクは顔を逸らす。

 そして、何事もなかったように本へ視線を戻した。

 パラッ。と、ページをめくる。


「…………」


 少女もジェイクをしばらく見つめていたが、すぐに再び本へ目を戻した。


「…………」


 ページをめくるジェイクだが、頭の中には先ほどの疑念が残ったまま。

 やはり。気にするべきか。


「…………」


 もう一度。

 ジェイクは少女を見る。

 その横顔を見つめながら、彼は考え続けた。



+



「…………」


 そんな二人の様子を、ダリアンは本の向こうから見ていた。

 少女を見る。ジェイクを見る。そして、また少女を見る。


「…………」


 どうやら何か事情がある。それは間違いなさそうだった。

 ジェイクは彼女を気にし、少女もまたジェイクを気にしている。

 二人の間には何かある。では、それは何なのか。


「…………」


 ダリアンは考える。

 そもそも。どうして二人は黒い宝石を探しているのだろう。探し出して、一体どうするつもりなのか。

 コレクションにするのか。それとも売るのか。あるいは……。


「…………」


 ダリアンの目が少し細くなる。

 壊す。そんな可能性だって、ないとは言い切れない。もちろん、そんなことをするようには見えない。

 だが、だからこそ気になる。


「…………」


 知らないことがある。

 謎がある。その謎が目の前に存在している。ダリアンにとって、それは放っておけないものだった。

 気になったことは、最後まで確かめなければ気が済まない。どうしても知りたくなる。

 知識欲。好奇心。それは彼の性格そのものだった。


「…………」


 ダリアンは本へ目を戻す。

 だが、文字は頭に入ってこない。

 視界の端には、ジェイクと少女がいる。

 黒い宝石と謎の絵。そして、二人の間にある何か。


「…………」


 知りたい。もっと知りたい。

 あの宝石は何なのか。

 なぜ彼らは探しているのか。

 どうして彼らは互いを気にしているのか。


「…………」


 ダリアンの頭の中は、いつの間にかそのことでいっぱいになっていた。



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