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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
4、わたしのくろいほうせき

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嫌な相手





 ギルドを出ると、二人は町の中を歩き始めた。港町らしく、通りには多くの人が行き交っている。

 露店から漂う料理の匂い。荷車を引く商人。客を呼び込む店員。遠くから聞こえてくる船の汽笛。

 活気に満ちた街並みを歩きながら、ジェイクは隣を歩く少女へ視線を向けた。


「宝石を探せっつってもなぁ。手掛かりがあの絵一個だけって……ほぼ無理だろ」

「闇雲に探しても時間を無駄にするだけよ。効率よくいきましょう」


 頭を掻きながら言うと、少女は淡々と答える。


「効率っつってもな……」


 確かに彼女の言う通りだった。

 絵に描かれた黒い宝石。それ以外に手掛かりはない。

 どこにあるのか。誰が持っているのか。どんな名前の宝石なのか。何も分からない。


「この町に宝石に詳しい人はいないかしら?」

「詳しい奴なぁ……」


 ジェイクはしばらく考え、街並みへ目を向ける。


「この町には宝石店がいくつかあるが……」

「宝石店?」


 その言葉に少女は反応した。

 顎に手を添え、眉をひそめる。


「…行ってみる価値はありそうね。その宝石店に行きましょう」

「……まぁ、そうなるよな」


 そして、迷うことなく頷いて足を速めた。ジェイクは肩をすくめ、少女についていく。

 二人が最初に訪れた宝石店は、港から少し離れた場所にあった。大きな窓から店内が見える。中にはいくつものショーケースが並び、色とりどりの宝石が飾られていた。


「いらっしゃいませ」


 扉を開くと、チリンと小さなベルが鳴って店員が笑顔で出迎える。

 店内には、赤、青、緑、黄色。様々な色の宝石が、光を受けてきらきらと輝いていた。指輪やネックレスに加工されたものもあれば、原石のまま展示されているものもある。

 ジェイクはショーケースを一通り眺めたが、黒い宝石は見当たらなかった。


「流石に売られてはねぇか……」


 ぽつりと呟く。

 少女は店員へ顔を向け、口を開いた。


「少し聞いてもいいかしら?」

「はい。何でしょうか?何かお探しで?」

「そうではないわ」


 少女は懐へ手を入れ、一枚の紙を取り出す。そして、そこに描かれた絵を店員へ見せた。


「……この黒い宝石のこと、何か知らないかしら?」

「黒い宝石……ですか?」


 店員は紙を受け取る。

 絵をじっと眺め、首を傾げた。


「申し訳ありません。私には少し……」

「そう」


 少女は特に残念そうな顔もせず、別の店員にも尋ねる。だが、結果は同じだった。


「知りません」

「聞いたこともありませんね」

「このような宝石は扱ったことがないです」


 誰も知らない。

 結局、最初の店からは何の情報も得られなかった。

 そのあとも二軒目。三軒目。四軒目。街にある宝石店を二人は次々と回った。

 しかし、どの店でも結果は同じだった。


「すみません。知りませんね」

「このような宝石は初めて見ます」

「黒い宝石ならいくつか種類がありますが……この絵のものは分かりません」

「申し訳ありません」


 店を出るたびに、ジェイクの表情が険しくなっていく。そして、最後の宝石店を出たところで、ついに彼は大きく息を吐いた。



+



 街の広場。

 中央には噴水があり、その周囲にはベンチがいくつか置かれていた。

 ジェイクはそのうちの一つに腰を下ろし、背もたれに両腕を乗せる。


「だーもうっ!全然収穫ねぇじゃねぇか!」

「…………」


 彼の隣へ少女も腰を下ろし、小さく息を吐く。


「…なぁ。ほんとにその宝石ってあんのか?」


 ジェイクが空を見上げたまま尋ねた。


「あるわ。何度か実物を見ているもの」


 少女は即答する。


「でも、どこにあるのかは分からないわ」

「……クソ厄介」


 ジェイクは頭を抱えた。

 少女はそんな彼を横目に見ながら、顎に手を添える。


「……他に宝石に詳しい人っていないのかしら」

「…………」


 ジェイクはため息を吐いた。

 そして何気なく視線を逸らす。

 その瞬間。


「…………ん?」


 広場の向こうの黄色い屋根の建物。その近くを、一人の男が歩いているのを見た。

 白い服。姿勢の良い歩き方。

 遠目からでも分かる。よく目立つ。


「…………」


 ジェイクはその人物を見た瞬間、顔をしかめた。

 そして、ゆっくりと顔を再び空へ向ける。


「……(見なかったことにしよう)」


 関わりたくない。

 それがジェイクの本音だった。


 しかし──


「?」


 隣に座っていた少女も、その人物を発見してしまった。


「あれは……確か、清掃員だったかしら」


 少女は離れた場所にいるその人物を見つめて目を細める。

 ジェイクは顔を引きつらせ慌てて少女の頭を掴むと、そのまま無理やり視線を別方向へ向けさせた。


「!」

「あんま見んな。気づかれてこっち来るだろ」

「……気づかれては不味いの?」

「別に不味かねぇよ。……ただ、めんどくせぇだけだ」


 ジェイクは心底嫌そうな顔をし、それを見た少女はきょとんとする。


「おや。誰かと思ったら、ジェイクさんではありませんか」

「…………」


 その時、背後から声。ぴたりとジェイクの動きが止まった。

 聞き覚えのある声。聞きたくなかった声。先ほどまで離れた地点にいたのに、何故一瞬で近場まで来ているのか。化け物かと思いながらジェイクはゆっくりと振り返った。


「……ちっ。くそ」


 小さく舌打ち。

 そこに立っていたのは、一人の男だった。

 白い服を身につけ、姿勢正しく立っている。そして、こちらを見ながらにこにこと笑っていた。


 清掃員のリーダー。ダリアン。


「こんな所で何をしているのですか?」

「てめぇには関係ねぇだろ。ほっといてくれ」


 露骨に嫌そうな顔を浮かべ、ジェイクは言う。


「そうはいきません。貴方は僕の監視対象の一人ですから」


 ダリアンは笑顔を崩さない。

 その顔を見て、ジェイクは頭を抱えた。


「……………」


 二人のやり取りを少女は黙って見つめる。

 そして、ダリアンは彼女の方にも顔を向けた。


「おや。貴女も見たことありますね。確か、ルーンさん…でしたか」

「…………」


 少女はダリアンを見つめる。

 彼女は彼を知らない。ルーンの記憶からダリアンの姿は分かっていたが、その人物がどのような性格で、どのように話すのかまではまったく分からなかった。

 今、話し方と言葉遣いで彼がどのような人物なのかを一瞬で理解し、少女は眉をひそめる。


「ということは、フィルくんもここにいるのでしょうか?」

「あいつはここにはいねぇよ」


 ダリアンが辺りを見回すと、ジェイクが答える。


「……そうなんですか?それは残念。元気かどうか確認したかったのですが」


 ダリアンの眉尻が下がった。

 本当に残念そうだ。


「ってか。何でてめぇはここにいんだ?見廻りか?ご苦労なこったな」

「いえ。見廻りはもう終えています。…今は、"清掃"の帰りですよ」

「………へぇ」


 面倒そうに尋ねるとダリアンは首を横に振り、いつもの笑顔を浮かべる。

 ジェイクはそれに興味なさそうに返した。


「…………」


 少女は思う。

 黒い宝石についてダリアンにも聞いてみようか。

 しかし、彼に聞いても何も情報は得られないかもしれないが、もしかしたらということもある。

 ジェイクとダリアンの会話を聞きながら少し考え、少女は口を開いた。


「ねぇ」

「はい?」


 声を掛けると、ダリアンは振り向く。

 少女は懐から一枚の紙を取り出し、彼に見せた。


「この宝石について、何か知ってるかしら?」

「! おい!」


 ジェイクが声を上げる。しかし、もう遅い。

 ダリアンは少女から紙を受け取った。


「これは?」

「私たち、その宝石を探しているの」


 少女は淡々と説明する。


「何か知っていれば教えてほしいのだけど」

「やめろルーン。こいつが知ってるわけねぇだろ。時間の無駄だ」

「知っていますよ」

「ほら、知ら…………は?」


 横から口を挟んだジェイクの言葉が止まった。あまりにも自然な返答で聞き逃しそうになり、彼は目を見開く。

 その言葉には少女も驚いたようで、目を丸くしてダリアンを見つめた。


「本当?」

「ええ…。…たぶんですけど」

「たぶん?」

「これでも僕は、宝石マニアでしてね」


 ダリアンは頷き、紙に描かれた黒い宝石を眺める。


「家に戻れば……この宝石が載った本が見つかるかもしれません」

「…………」


 ジェイクと少女は、互いに顔を見合わせた。

 さっきまで何軒もの宝石店を回っても、何一つ手掛かりを得られなかった。それが。まさか、こんなところで。


「……マジかよ」


 ジェイクが呟く。

 ダリアンは穏やかな笑顔を浮かべたまま、紙を少女へ返した。


「僕でよければ、調べてみましょうか?」


 少女は紙を受け取る。

 その瞳に、初めてはっきりとした期待の色が浮かんだ。


「ええ。お願いするわ」


 ジェイクはそんな二人を交互に見つめる。


「……ったく。なんでよりにもよってこいつだよ」


 思わずため息が漏れた。

 だが。先ほどまで完全に途方に暮れていた状況からすれば、これは大きな前進だった。




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