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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
4、わたしのくろいほうせき

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久し振り





 その頃。

 黒いワンピースの少女は、南の大陸へと渡っていた。長い船旅を終えた船が港へと入る。

 ゆっくりと速度を落とした船は港の船着き場へと横付けされ、やがて大きな音を立てながら係留された。


 船員たちが慌ただしく動き始める。荷物を運び出す者、乗客を誘導する者、これから船へ乗り込もうとする者。港は人の声と足音、そして潮の香りで満ちていた。


「……やっと着いたわね」


 少女は船のタラップを降りる。

 黒いワンピースと紫色の長い髪を靡かせ、少女は最後の段を降りると、ゆっくりと桟橋へ足をつけた。


「さて……彼はどこにいるのかしら?」


 少女は首を傾げながら、港を見回す。しかし、当然ながら目当ての人物は簡単には見つからない。

 港には何人もの人々が行き交っている。船から降りてきた旅人。これから別の大陸へ向かう者。大きな荷物を抱えた商人。忙しそうに走り回る船員。

 少女はしばらくその光景を眺めていたが、やがて小さく息を吐いた。


「……ここはやっぱり、ギルドかしらね」


 そう判断した少女は、迷うことなく港を歩き始める。人探しをするなら、情報が集まりやすい場所へ行くのが一番だ。

 目的地は、この町の冒険者ギルド。少女の足取りに迷いはなかった。



+


 しばらく歩いた後、少女は大きな建物の前に立つ。

 剣と盾を象った看板。その下には、この港町の冒険者ギルドであることを示す文字が刻まれている。


「ここね」


 少女は扉へ手を伸ばした。

 ギィ…と、扉を開いて中へ入ると、そこには多くの冒険者たちがいた。

 酒を飲みながら談笑している者や掲示板の依頼書を眺めている者。仲間同士で次の仕事について話し合っている者。

 少女が入ってきたことに気づき、何人かがちらりと視線を向けた。だが、少女は周囲の視線など気にする様子もなく、まっすぐカウンターへ向かう。

 そこには一人の男性受付係が座っていた。少女の姿を見ると、男性は営業用の笑顔を浮かべる。


「いらっしゃい」


 少女はカウンターの前で足を止めた。


「少しいいかしら。人を捜しているのだけど」

「……ご依頼ですか?」

「いえ。依頼というわけではないわ」


 少女は少しだけ間を置く。


「……今、ここにジェイクという名前の男性はいないかしら?」

「ジェイクさん、ですか?」


 聞かれ、受付係は考えるように首を傾げる。


「ええと……」


 そして少女から視線を外し、ギルド内を見渡した。部屋の奥に視線を止め、指を伸ばす。


「あ、いました。あそこです」


 少女もその方向へ顔を向けた。

 部屋の奥。そこでは、一人の男が樽型のジョッキを片手に酒を飲んでいる。

 青い髪。鍛えられた大柄な体格。周囲の冒険者たちと比べても、一際目立つ姿だった。

 少女は男をじっと見つめる。


「……間違いないわね」

「お知り合いですか?」

「ええ。ありがとう」


 少女は受付係に礼を言うと、男のもとへ歩き出した。

 コツコツと靴音がギルド内に響く。そして、男の前で立ち止まると少女は小さく咳払いして口を開いた。


「ジェイク、お久しぶりね」

「あ?」


 声を聞いて、酒を飲んでいた男…ジェイクは手を止める。

 顔を向けた彼は驚きの声を上げることはなかったが、ただ、その目が大きく見開かれた。


「は?ルーン?」

「相変わらずのようで安心したわ」

「え、あー…。いやいやいや…。お前、どうしてここに?」


 ジェイクは目の前の少女を見つめる。少しだけ混乱しているようだ。


「貴方に依頼を持ってきたの」

「依頼?」


 眉をひそめる。


「……シオンたちも来てるのか?」

「いいえ。ここへは私ひとりで来たわ」

「ひとりで?」

「ええ。…あ、安心して。シオンたちには言ってきてあるから」


 その返事を聞いたジェイクは表情を変えた。警戒し、眉間に皺が寄る。

 妙だった。何故彼女はわざわざ一人で南の大陸まで来たのか。依頼なら近場にいるシオンかフィルに出せばいい。彼らには言えない秘密の依頼ならば話は別だが。


「…………」


 ジェイクは手元の酒を飲み干し、ジョッキをテーブルへ置く。


「ブルーテイルは?」

「フィルに預けてきた」

「そうか……」

「……なに?私がここにいるのが、そんなにおかしいかしら?」

「いや。別にそういうわけじゃねぇが…。…まぁ、いいや。んで、依頼ってのは何だ?」


 警戒は解けないが、ジェイクは諦めたように肩をすくめる。

 その言葉を聞いた少女はジェイクの向かいにある椅子を引き、静かに腰を下ろした。


「簡単に言うわね。私と一緒に、とある宝石を探してほしいの」

「あ?」


 ジェイクの片眉が上がる。


「宝石って、またカラーか?」

「いいえ。カラーとは別の宝石よ」


 そう言うと、ルーンは服の懐へ手を入れた。取り出したのは、一枚の紙。それをテーブルの上へ広げる。


「……これを見て」

「なんだこりゃ?」


 ジェイクは紙を覗き込んだ。

 そこに描かれていたのは、一枚の絵。宝石。子供。そして男。どう見ても、それは子供が描いた絵だった。


「これが、その宝石よ」

「…………」


 ジェイクは絵を手に取る。

 描かれている宝石は大きく、黒く塗りつぶされていた。

 その横には楽しそうに笑っている一人の子供。その隣に立つ男は無表情だった。


「この宝石を探してほしい。…報酬は、貴方の働き次第かしら」

「……ずいぶん曖昧だな」


 ジェイクは絵から目を離さずに言った。


「この宝石、何かあるのか?」

「さぁ。わからないわ」

「わからないって……」

「私も、その宝石についてはよくわからないのよ」

「…………」

「ただ……」


 少女は視線を落とし、胸に手を添える。


「何でか惹きつけられるの」


 その声は静かだった。


「この宝石は、なんとしても手に入れなければ駄目だって。そう思ったのよね」

「…………」


 ジェイクは黙り込む。

 彼女の言葉には、どこか説明のつかないものがあった。

 理屈ではない。ただ、本人の中に確かな確信がある。そんな言い方だった。


「……お前、よくそれで俺に依頼出せたな」


 呆れたようにジェイクは言い、少女に紙を返す。


「それで、どうかしら?この依頼、受けてくれる?」

「…………」


 受け取った紙を懐に戻し、少女は小さく首を傾げた。

 ジェイクは眉間を押さえ、息を吐く。


「……もし断ったらどうなるんだ?」

「そうね……。もしそうなったら、貴方に酷いことをされたって、ギルド中に言いふらすかしら」

「っ……!」


 少女は少し考え、そして淡々と告げた。

 それを聞いたジェイクは目が大きく見開き、一瞬、言葉を失う。


「お、お前な……」


 少女は何事もなかったかのように座っている。ジェイクは口元を引きつらせながらそんな彼女を見つめた。

 長い付き合いだ。だからこそ、目の前の少女がどういう人間なのかを彼はよく知っている。

 冗談だとしても笑えない。だが彼女なら本当にやりかねない。そう思わせるだけの説得力があった。


「…………はぁ」


 ジェイクは深く息を吐く。

 完全に降参したように肩を落とし、そしてカウンターの方へ顔を向けた。


「おーい!酒、おかわり!」


 ジェイクは空になったジョッキを持ち上げる。

 そして少女へ視線を戻した。


「わーったよ。やればいいんだろ。やれば」

「……貴方なら、そう言ってくれると信じていたわ」

「……ったく。んな脅し文句、どこで覚えたんだ?」


 ジェイクは呆れたように頭を掻く。


「あら。脅すなんて、人聞きが悪いわね。そんなこと、私が貴方にするわけないでしょう?」


 少女は不思議そうな顔をして答えた。


「……はっ。脅しは脅しでも、本人がそう思ってなきゃ脅しにならねぇってか」

「どういう意味かしら?」

「そのまんまだよ」


 乾いた笑いを漏らし、ジェイクはクツクツと笑う。

 その直後、受付係の男性が新しい酒を運んできた。二つ目の樽型のジョッキが、どん、とテーブルへ置かれる。ジェイクはそれを手に取った。


「……じゃあ、依頼成立ってことでいいんだな?」

「ええ」

「宝石の手がかりは、この絵だけか?」

「今のところはね」

「……難儀な仕事になりそうだな」

「そうね。でも、やらなきゃだわ」


 少女は淡々と答える。

 ジェイクは彼女を一瞥した。

 一体何を考えているのか。なぜ、この宝石を探しているのか。なぜシオンたちを置いてまで、一人でここまで来たのか。

 聞きたいことはいくつもあったが、今は聞いても何も答えてくれないだろう。

 そう判断し、ジェイクはジョッキを口元へ運んだ。


「……まぁいい。んじゃ、久しぶりの大仕事。張り切ってやろうかね」


 ジョッキを大きく傾け、酒を一気に流し込む。


「…………」


 少女はそんなジェイクの姿を黙って眺めた。

 彼女の胸元。服の内側には、先ほどの一枚の紙がしまわれている。

 そこに描かれた黒い宝石。そして、笑う子供と無表情な男。

 あの絵が示しているものを少女は知っている。けれど、それをジェイクに語るつもりはなかった。


 今はまだ。必要な時が来るまでは。




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