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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
4、わたしのくろいほうせき

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教会を探索





 ルーンたちは手分けをして敷地内を見て回る。

 ルーンとフィルは教会の内側。

 マキノとショウコは教会の外側。

 それぞれ担当を分け、どこに何があるのかを確認した。


「きゅうっ、きゅうっ」


 教会内を見て回ってしばらく経ち、ブルーテイルは小さな足でとてとてとルーンとフィルの少し前を歩いていた。

 ふさふさの尻尾を揺らしながら気になるものを見つければ近づき、しばらく眺める。そしてまた歩き出し、別のものを見つければ今度はそちらへ。そんなことを繰り返しながらブルーテイルは実に楽しそうに教会の廊下を歩き回っていた。


「ふふ。興味津々ね、ブルーテイル」

「きゅうっ」


 ルーンが微笑むと、呼ばれたのが分かったのかブルーテイルは振り返る。そしてすぐにまた別の場所へと歩いていく。

 ルーンとフィルはそんなブルーテイルを眺めながら周囲を見渡した。


「この教会、外で見た時は思わなかったけど結構広いのね」

「村の中でも一、二を争うほどの大きな建物だってケイン先生に聞いたけど……なるほど納得だな」

「きゅうっ」


 二人が話している間にもブルーテイルは忙しなく動き回る。

 置かれている植木鉢。花壇。石造りの柱。その一つ一つへ近づいては鼻をひくつかせた。


「きゅ?」


 そして、しばらく歩いたところでブルーテイルはぴたりと止まる。


「ブルーテイル?」


 足を止めたブルーテイルにルーンが声をかける。見ると、ブルーテイルはひとつの扉を見つめていた。


「きゅうっ」


 そしてその扉へ近づき、前足を上げて扉を爪でカリカリと引っ掻き始める。


「きゅう。きゅうっ」

「ブルーテイル」


 ルーンは慌てて駆け寄り、ブルーテイルを抱き上げた。


「傷つけちゃ駄目よ」

「きゅう」


 抱き上げられたブルーテイルは、扉を見つめたまま小さく鳴く。


「ここが気になるのか?」


 扉に近づき、フィルが尋ねる。


「きゅうっ!」


 ブルーテイルは元気よく鳴いた。

 ルーンとフィルは顔を見合わせ、フィルが扉の取っ手に手を掛ける。

 ゆっくりと回すと、カチャリと音を鳴らして扉が開いた。鍵は掛かっていないみたいだ。扉を押し開けると、その瞬間、眩い光が差し込んでくる。


「……っ」


 フィルは目を細めた。

 扉の向こうにあったのは、中庭だった。

 大理石の階段が下へと続き、その先には石畳。庭の中央には一本の大きな木がそびえ立っている。

 木の周囲には色とりどりの花が植えられ、吹き抜けになった天井からは陽の光が差し込み、風が自由に通り抜けていた。


「きゅうっ!」


 ルーンの腕の中でブルーテイルが鳴き、彼女の腕から飛び降りた。

 大理石の階段を軽快に駆け下り、石畳を駆け抜けてまっすぐ大きな木へ向かっていく。


「ブルーテイル!」


 ルーンは慌てて後を追う。

 フィルもその後を追った。


「きゅうっ!きゅうっ!」


 木の根元まで辿り着くと、ブルーテイルは嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる。


「この教会、こんなのもあるのか」


 感心したように呟くフィルを通り過ぎ、ルーンも木の根元まで歩いて頭上を見上げる。高く、かなりの大木だった。

 吹き抜けの天井から入り込んだ風が木の葉を揺らしている。さわさわと優しい葉擦れの音が中庭いっぱいに響いていた。


「…………」


 ルーンは手を伸ばし、大樹の幹へそっと触れる。


「……?」


 すると、ほんのりと温もりのようなものが掌へ伝わってきた。


「……ここの雰囲気、どこか似てるな」


 その温度に首を傾げていると、フィルがぽつりと呟く。気にはなるが、ルーンは彼の方に顔を向けた。


「似てるって?」

「いや。アーバンの城にもさ、こんなような中庭があるんだよ」


 フィルは木を見上げる。


「アーバン城に?」

「ああ。こんなでっかい木は流石にないけど、花とか池とか……似てるっていうか、そのままっていうか……」


 フィルは少し考える。


「……そういえば、ここのシスターが、この教会は北の大陸にある城をイメージして建てられたって言っていたわ。もしかしたら、その城って……アーバン城のことなんじゃないかしら?」


 ルーンは先ほどのシスターの言葉を思い出した。


「そうなのか?」


 そう言うと、フィルは少し驚いた顔をしてもう一度中庭を見渡す。


「……ああ。だから似てるって感じるんだな」


 そして納得したように頷き、左手首へ目を落とした。そこには銀色のブレスレットが嵌められている。

 アーバン国の王である証のブレスレット。サクヤと母さんは元気にしているかなとフィルは少しだけ思った。


「きゅうっ」


 その時、ブルーテイルが小さく鳴き声をあげる。


「ん?」


 顔を向けるとブルーテイルは大樹を見上げ、そして、ぴょんと幹へ飛びついた。

 次の瞬間、ブルーテイルはまるでリスのように素早く木を登り始め、あっという間に高い場所へ。


「ちょっと、ブルーテイル!」


 ルーンが声を上げる。

 しかしブルーテイルは止まらず、やがて遥か上空で枝分かれした幹の上へちょこんと乗った。


「……登ってっちゃったな」

「…………」


 フィルは言い、ルーンは目を丸くする。

 ブルーテイルの周囲で木の葉が揺れる。さわさわ。さわさわ。音を聞くと、ブルーテイルの耳がぴくぴくと動いた。


「きゅっ」


 ブルーテイルが鳴く。

 風が吹き、葉が揺れる。


「きゅうっ」


 また鳴く。また葉が揺れる。

 まるで、ブルーテイルと木の葉は会話をしているかのようだった。

 それを見て、ルーンとフィルは顔を見合わせる。


「ブルーテイル!降りてきて!」


 ルーンが呼びかける。


「…………」


 返事はない。


「ブルーテイル!」


 もう一度呼ぶ。

 それでもブルーテイルは振り向かなかった。揺れる木の葉に夢中になっているようだ。


「……聞こえてないみたいだな」

「まったく……」


 ルーンは困ったように腕を組む。

 そして、息を吐いた。


「……仕方ないわね。マキノたちには悪いけど、しばらくここにいましょう」

「いいのか?」

「ええ。ブルーテイルが飽きるまでね」

「……まぁ、そうするしかないか。置いてくわけにもいかないもんな」


 彼女の言葉にフィルは頭を掻く。

 二人は揃って大樹を見上げた。


「きゅうっ」


 高い枝の上から、またブルーテイルの鳴き声が聞こえてくる。

 さわさわ。木の葉が風に揺れた。


「きゅっ、きゅうっ」


 それに合わせるように、ブルーテイルが楽しそうに鳴く。


「……いつ終わるのかしら?」

「気長に待つしかないな、あれは」


 ルーンとフィルは顔を見合わせ、大樹の根元へ腰を下ろす。頭上では木の葉が揺れて、その間から差し込む陽の光が二人の足元へ淡い影を落とした。


 しばらくの間、二人は何も言わず、木の上で葉と戯れるブルーテイルの鳴き声を聞いていた。



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