ドレス完成
「終わったー!!」
家庭科室に、マキノの声が響き渡る。
彼女の目の前に立っているのは二体のマネキン。一体は純白のウェディングドレス。もう一体は、きちんと仕立てられた灰色のタキシードを身に纏っていた。
「はー。我ながら最高の出来!」
その出来栄えを見つめ、マキノは満足そうに頷く。その声を聞きつけ、他の生徒たちも作業の手を止めてぞろぞろと集まってきた。
「わぁ……!」
「すごーい!」
「これ、マキノとルーンが作ったの?」
「他の教室の子も手伝ってたみたいよ」
「着てみたーい!」
ウェディングドレスをとタキシードを囲み、それを目にした女子生徒たちから次々と声が上がる。
家庭科室は、あっという間に賑やかな空気に包まれた。
「これであとは……」
そんな様子を少し離れたところから眺めながら、マキノは持ってきていた手提げ袋へ手を伸ばす。中から取り出したのは、いくつものアクセサリーだった。
ペンダント。イヤリング。その他にもドレスに合わせられそうな装飾品がいくつかある。
「何これ?」
隣に立っていたルーンが尋ねる。
するとマキノは満面の笑みを浮かべ、次々とテーブルの上へアクセサリーを並べていった。
「ウェディングドレスだけだと、ちょっと寂しいかなって思って。だから、家にあったアクセサリーをいくつか選んで持ってきたの!」
マキノは嬉しそうに説明する。
「…………」
ルーンはテーブルの上を見つめた。
青。黄色。緑。桃色。色とりどりの宝石が埋め込まれたアクセサリーが家庭科室の照明を受けてきらきらと輝いている。
「ルーンちゃん、どれがいい?」
「……これ、全部貴女の?」
「うん。綺麗でしょ?このペンダントとかドレスにもぴったりだし、ルーンちゃんにも似合うと思うの!」
マキノは黄色い宝石の埋め込まれたペンダントを手に取った。
「………ペンダントは間に合ってるわ」
ルーンは首を横に振り、自分の胸元へ手を添える。そこには、一つのロケットペンダントが光っていた。それはいつの間にか自分の首に掛かっていたものだ。
以前、自分がおかしくなってしまった時にフィルが身につけてくれたものだと説明を受けている。今は安全になったとはいえ決して油断はできない。そのため、これは絶対に外すなとエーから何度も念を押されていた。
「そう?じゃあ、イヤリングは?」
マキノは黄色いペンダントを袋へ戻し、今度は二つのイヤリングを手に取る。
青色の宝石と、桃色の宝石。どちらも涙の雫のような形をしたティアドロップイヤリングだった。マキノは二つを交互に眺める。
「ルーンちゃんなら、この青いのが似合いそうだけど……」
「あのドレス、もしかしてマキノが着るの?」
そんな話をしていた時、ドレスを見ていた女子生徒の一人がマキノへ声をかけてきた。
「ううん。私じゃなくて、ルーンちゃんが着るんだよ。サイズもルーンちゃんに合わせて作ってあるし」
「えっ、ルーンが着るの?」
首を横に振ると、女子生徒の目が大きく見開かれる。
「え?」
「ルーンが着るの?」
「このドレス、ルーンが着るの!?」
その驚きは彼女だけではなく、話を聞いていた他の生徒たちも同様だった。
「やだ、それ絶対似合うじゃん!」
「ルーンがドレス着たところ、早く見てみたい!」
「どんな感じになるんだろう!」
「じゃあ、このタキシードも誰かが着るってことか?」
「誰だ?」
「……俺かな?」
「そんなわけないだろ」
「でも、ルーンさんって恋人いるみたいだから普通に考えてその人じゃない?」
「は!?待ってくれよ!彼氏いんの!?」
「あ。その人、知ってるかも。よく広場でルーンさんと一緒にいる人でしょ?」
「え、誰!?」
「だから、あの人だって!」
あちらこちらから好き勝手な声が飛び交う。それを聞いたルーンは眉間を押さえた。
「……別に恋人じゃないわよ」
話がどんどん妙な方向へ進んでいる。小さく呟いたルーンの横でマキノは楽しそうに笑っていた。
「何だか凄く賑わっていますね」
そこへ、新たな声が加わる。
振り返ると、ケインが家庭科室の入口に立っていた。手にはクリーム色のファイル。その上には、いくつかの紙束が重ねられている。
「先生!」
マキノが声をあげる。
「先生、ドレスとタキシードが完成したんです!見てください!」
「?」
彼が近づくと、マキノはドレスとタキシードを指差した。
その言葉を聞いたケインはきょとんとしながらも、生徒たちの間を抜けて二体のマネキンの前まで歩いていく。
「おー……」
そして、感心したような声が漏れる。
純白のウェディングドレス。その隣には、それに合わせて仕立てられた灰色のタキシード。
ケインは二つを交互に見つめた。
「これはこれは。素晴らしい出来ですね」
「本当ですか!?」
「ええ。タキシードもよく出来ています」
「! ありがとうございます、先生!私たち、頑張りました!」
「そのようですね」
担任教師から褒められ、マキノは嬉しそうに口元を緩ませる。彼女の笑顔を見て、ケインは頷いた。
そして、持っていたクリーム色のファイルへ視線を落とす。
「……では、私も約束を守らないといけませんね」
「約束?」
ルーンは首を傾げる。
踵を返し、ケインはマキノのところまで戻ってくると手にしていたファイルを差し出した。
「これは?」
「許可証です」
「…許可証?」
マキノは首を傾げながらファイルを開く。中には、一枚の紙が挟まれていた。
紙には細かな文章がびっしりと書かれている。その下には、ケインの名前。そして拇印。
「!」
文章を読み進めたマキノの目が大きく見開かれた。
「先生、これ!」
その紙に記されていたのは、村にある教会の使用許可だった。
「教会の使用許可証?どうして教会の使用許可証なんて……」
ルーンも紙を覗き込む。
「マキノさんに頼まれていたんですよ。ドレスが完成したら、行きたい場所があると」
「それが、教会?」
「はい」
言いながら、ケインは穏やかな笑みを浮かべる。
「折角ウェディングドレス着るんだもん!雰囲気出さなきゃ!」
「…………」
力強く言うマキノ。
それを聞いて、ルーンは黙った。
確かに。ウェディングドレスと言えば結婚。結婚と言えば教会。
そう考えれば、マキノの発想そのものは分からなくもない。分からなくもないが。
ルーンは目を細めてマキノを見る。
「……何もそこまでしなくてもいいんじゃないかしら?」
「雰囲気は重要だよ、ルーンちゃん!このこと、ショウコちゃんとフィルさんにも伝えなきゃ!」
マキノは即答した。
許可証を両手で持ちながら、彼女は目をきらきらと輝かせる。
「…………」
ルーンはそんなマキノを見つめ、小さく息を吐いた。
家庭科室には未だに生徒たちの楽しそうな声が響き、それは授業終了のベルが鳴るまで止むことはなかった。




