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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
4、わたしのくろいほうせき

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日記帳を戻す





 放課後。校舎内に残っていた生徒も少なくなり、学び舎は昼間よりもはるかに静まり返っていた。

 ルーンとフィルは約束通り図書室へ向かう。二人が足を止めたのはダークエルフに関する資料が保管されている部屋の前。

 ルーンが鍵を取り出して扉を開ける。中へ入ると、フィルが日記帳を持ちながら周囲を見渡した。


「ルーン。これ、どこにあったんだ?」

「分からないわ。たぶん、落ちてきたの」

「落ちてきたということは、本棚の上にあったのか?」


 フィルは本棚を見上げる。

 その上には、ガラス製のケースに収められた書物が整然と並んでいた。

 並んだケースの中に、一箇所だけ不自然な空白がある。


「……ああ。たぶん、そこにあったんだな」


 呟くと、フィルは手を伸ばす。

 だが、背伸びをしても指先は本棚の上に届かなかった。


「駄目だ。届かない」

「台を持ってくるわ」

「頼む」


 頷き、ルーンは部屋を出る。

 脚立のようなものはないかと周囲を見渡し、ほどなくして壁際に置かれた小さな脚立が目に入った。ルーンはそれを持ち上げ、部屋へ戻る。

 フィルのもとへ運び、脚立を本棚の前に置いた。


「これなら届きそうだ」


 フィルが脚立に足を掛ける。

 一段、二段と上がり、最上段で本棚に片手を添えた。もう片方の手を伸ばす。


「……届いた」


 今度は余裕だった。

 空いていた場所へ、フィルは日記帳を戻す。


「やっぱり、ここだったみたいだな」


 その位置から考えると、この日記帳も本来はガラスケースの中に保管されていたのだろう。


「これでよし」


 フィルは脚立から降り、軽く息を吐く。

 ルーンは本棚の上を見つめた。


「…………」


 ぽつんと置かれた日記帳。

 名残惜しそうな視線。

 フィルはそれに気づいたが、何も言わず脚立を持ち上げた。


「んー……。少し不自然だけど、仕方ないか」


 脚立を部屋の隅へ運びながら、本棚の上を見上げる。

 ガラスケースとガラスケースの間に、ぽつんと置かれた一冊の日記帳。確かに違和感はあった。

 しかし、今はそれを気にしても仕方がない。


「それじゃ、帰ろう」

「………ええ」


 フィルは部屋を出ていく。

 ルーンも続こうとしたが、もう一度だけ本棚の上を振り返った。


「…………」


 日記帳。

 あの中には、まだ解き明かせていない謎が残されている。

 黒い宝石。兄と妹。

 そして最後に記されていた「捨てる」という言葉。


「…………」


 この部屋の鍵は持っている。

 司書の目を避ければ、再びここに入ることもできるだろう。そうすれば、もう一度読める。そう思った。


「ルーン」


 扉の方からフィルの声がする。


「今、行くわ」


 ルーンは返事をし、ようやく部屋を後にした。扉を閉め、鍵を掛ける。カチャリと小さな音が響き、そして二人は学び舎を後にした。

 夕暮れの道を歩きながら、ルーンは一度だけ背後を振り返る。すでに学び舎の姿は遠い。


 頭の中には、未だあの日記帳が残る。


「……………」


 ──黒い宝石。


 その正体を知りたい。

 その思いを胸にルーンはフィルを追いかけ、家へと帰った。




+


「ん?」


 学び舎から帰宅すると、門扉の近くに誰かが立っているのが見えた。


「……誰かいるわね」


 ルーンが目を凝らす。

 そこに立っていたのはシオンだった。その隣には、もう一人見知らぬ人物。しかし遠目では判別できない。

 ルーンたちが近づくと、シオンがこちらに顔を向けた。


「帰ったか」

「シオン、おかえり。用事は済んだのか?」


 フィルが声を掛ける。


「……ああ」


 短く答えるシオン。


「その人は?」


 ルーンは隣の人物へ視線を向ける。

 赤い髪の活発そうな青年。彼はルーンとフィルを交互に見て、にこりと笑った。


「はじめまして。俺はアラタ。お前たちのことはシオンから聞いている。……これからよろしくな」


 明るい声。


「…………」

「…………」


 ルーンとフィルは顔を見合わせた。


「これからよろしく……?」


 ルーンが首を傾げる。


「……アラタは新しい仲間だ」

「は?」


 シオンは淡々と告げた。

 フィルは目を丸くし、ルーンも驚いたようにシオンを見る。


「仲間?」

「ああ」


 あまりにも当然のような口調だったため、二人はしばし言葉を失った。


「それより、日記帳はどうした?」

「あ、ああ。問題ない。元の場所に戻してきた」

「……それでいい」


 答えると、シオンは頷く。


「……シオンが戻すように言ったの?」

「ああ。あの日記帳はカフルエルとは無関係だからな」

「カフルエルって?」

「カフルエルは、私たちが現在追っている敵の名だ」


 疑問に思ったのかアラタは首を傾げた。

 その問いに答えたのはシオンではなく、背後から聞こえた強い口調。

 振り向くと、そこにはターナが立っていた。彼女は足音を響かせながらこちらに近づいてくる。


「……誰だ?」


 ターナはアラタを見て眉をひそめた。


「新しく入った仲間だ」

「俺はアラタ。よろしく」

「…………そうか」


 シオンが簡潔に答え、アラタが再び笑顔で名乗る。

 ターナはしばらく彼を見つめが、それだけ言うと興味を失ったように軽く頷いた。


「ターナさん、どこかへ行っていたんですか?」


 フィルが尋ねる。


「ああ。カフルエルが以前拠点としていた場所を突き止めたのでな。調査に行っていた」

「何か分かったか?」

「いいや。何も。痕跡すらなかった」


 シオンが聞くと、ターナは腰に手を当てた。


「あそこにはエーとヴィーも入ったと聞いている。恐らく奴らが完全に消したのだろう。……ありがたいことだ」


 舌打ちしてそう吐き捨てると、ターナは肩をすくめて息を吐く。

 その後もぶつぶつと不満を漏らし、家の中へ向かって歩いていった。


「……あれがターナか。気の強そうな人だな」


 その背中を見送り、アラタは呟く。


「私たちも行きましょう」


 そしてルーンたちもターナの後に続き、家の中へと入った。

 扉を開けた瞬間、奥からフィラーラの元気な声が響いた。



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