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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
4、わたしのくろいほうせき

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どこかで見た景色





 コンクリートの建物を離れ、木造の小屋へと戻る道。木々の間を歩きながらアラタは前を行くシオンたちを眺めていた。

 しばらく無言で歩いていたが、ふと気になったことを口にする。


「んで、これからお前らはどうするんだ?」


 そう聞かれ、シオンとカケラは顔を見合わせた。


「私は戻る。これでも忙しい身なのでな」

「へぇ。……シオンも?」

「ああ」


 カケラが頷きながら答えると、シオンも頷く。


「君はどうするんだ?」

「俺?俺はシオンについてくさ。そばにいるって決めたし」


 逆に尋ねられ、アラタは少しだけ目を丸くしたが口元を緩ませて答えた。それは、あまりにも迷いのない返答だった。


「これからは、お前が何をしようが何処に行こうが、ずっと付いてくからな!」

「…………ああ」


 宣言されたシオンは、あからさまに面倒そうな表情を浮かべ、もう一度頷く。

 そんなシオンの反応を見たアラタは満足そうに歯を見せて笑った。



+



「エイル。これを預かってほしい」

「ん?」



 精霊の森の出口。その直前で足を止め、シオンはエイルに声をかけた。振り返ると、シオンは懐からいくつかの宝石を取り出す。

 紫。白。青。緑。これまでに手に入れてきた宝石たちをエイルへ差し出した。受け取った宝石を見つめ、彼は目を見開く。


「これは……!」


 四つの宝石はまるで互いの存在を確かめ合うかのように、ほのかな光を放っていた。


「ん?なんだ、それ?」


 アラタが横から顔を覗かせる。

 その問いにシオンはエイルの掌に乗る宝石を見つめたまま答えた。


「これは、カラーの落とし物だ」

「落とし物?」

「『なり損ない』とも言うがな」

「…………へぇ」


 腕を組みながら答えたシオンにアラタは軽く頷く。理解したのかしていないのか。その表情からはいまひとつ判断できない。

 そこへ、ころころとコロタマがアラタの足元まで転がってくる。その場でぴょんと跳ね、ピピッと電子音を鳴らした。


『アラタ。理解放棄?』

「ん…。…うん。頭のためにもその方がいいな」

『ピピ』


 少し考えてそう言うと、コロタマがどこか納得したように鳴く。

 その会話を聞きながらエイルは小さく息を吐き、宝石を眺めた。


「残りの赤の宝石は?」

「ドワーフの村にある。代々から伝わる神聖なものらしくてな。一度手にしたが、返した」

「なるほど…。…わかった。これは黒の宝石とは違う。別の場所に保管しておこう」


 シオンの言葉を聞いて、エイルは頷いた。

 その瞬間──パァッ!と、突然、森全体が眩い光に包まれる。


「な、なんだ!?」

『わっ!わっ!』


 アラタとコロタマが同時に声を上げた。

 風が吹き抜ける。木々が大きく揺れ、草花が一斉に波打った。その向こうでは、森のあちこちで小さな光が舞い始める。

 妖精たちだ。楽しそうに飛び回り、くるくると踊っている。


『わぁ……!』


 コロタマがぴょんぴょん跳ねた。

 木々の隙間から差し込む光。舞い上がる葉。草花の間を駆け抜ける風。妖精たちの笑い声。

 そのすべてが一つになり、森そのものが祝福しているようだった。


 アラタは呆然と周囲を見渡す。


「……すげぇ」

「これは、世界樹の加護だ」


 カケラが静かに言った。


「世界樹の……?」

「……毎度毎度、律義なものだな」


 シオンも空を見上げる。

 その声には、ほんのわずかに柔らかなものが混じっていた。


「だが、そのおかげで私たちは今こうしていられる。感謝すべきだ」


 カケラはそう言うと、被っていたフードを脱いだ。世界樹のある方角へ向かって一礼する。風が彼の髪を揺らした。

 シオンはそんなカケラを一瞥すると短く息を吐き、先に歩き始める。


「じゃあ、道中気をつけろよ」


 エイルが声をかける。


「また何かあればここを訪ねるかもしれない。その時は頼む」

「ああ」


 そして、カケラもシオンの後を追って歩き始める。

 コロタマも、


『エイル、ばいばい!』


 と、別れを告げ、ころころと転がっていった。


「…………」


 だが、アラタだけはその場に立ち尽くす。

 先ほどまでの明るい表情は消え、眉をひそめ、腕を組んで、じっと森を見つめていた。

 そんな彼の様子にエイルは首を傾げる。


「どうした?あいつら行っちまったぞ?」

「………ああ」


 返事はする。

 しかしアラタは動かない。

 エイルはしばらく彼を見つめていたが、そこでふとアラタの周囲に漂っている妙な気配に気づいた。

 殺気とは違うが、それに近い。鋭く静かな気配だった。その発生源はアラタの胸元。


「…なぁ。…お前、武器とか持ってるか?」

「え?」


 眉をひそめて聞くと、アラタは顔を向けた。


「胸のところ。何か入ってるだろ」

「……」

「見せてくれないか?」

「………どうして?」

「確認だよ。すぐに返す」

「………」


 アラタは少し迷った。

 だが、やがて上着の内ポケットへ手を入れる。

 取り出したのは、一丁の銃。

 エイルが受け取った瞬間、周囲の気配がさらに強くなった。


「お前、これを何処で?」

「何処でって…。それは貰ったものだ。今の俺に必要なものだからって」

「誰に?」

「誰かは言えない。『言うな』って釘刺されてっから」

「…………そうか」


 エイルはそれ以上追及しなかった。

 銃をアラタへ返し、受け取ると彼はそれを内ポケットへ戻す。そして、また森を眺めた。


「……この景色に何かあるのか?」


 再び、エイルが尋ねる。


「そういうわけじゃない。……だけど、この景色……どっかで見たなって思って」

「どこか?」

「ああ」

「それは変だ。この景色は、この森でしか見られない」

「そうなのか?……じゃあ、何で見覚えがあるような気がするんだろ。ここに来たのは初めてなのに」


 驚いたように目を瞬かせ、もう一度森を見る。

 アラタの声は、先ほどまでとは違っていた。困惑。自分でも理解できない記憶への戸惑い。


「考え込むのはいいが、それは森を出てからにしてくれないか?」

「……?」

「早くしないと、シオンたちにどんどん置いてかれるぞ」

「…………あ!」


 エイルが腕を組んで言うと、アラタは目を見開いた。

 慌てて振り返る。先を見ると、すでにシオンたちの姿は小さくなっていた。


「やべっ!…じゃあな、エイル!」


 アラタは慌てて走り出す。

 森の出口へ駆けていき、そのままシオンたちの後を追って精霊の森を出ていった。


「…………」


 エイルはその背中を見送る。

 アラタが森の外へ出た瞬間、森を包んでいた光が消えた。

 風が止まり、妖精たちも姿を消す。揺れていた木々も、いつもの静けさを取り戻していく。


「…………」


 エイルはしばらく森を眺めていた。


「……ふあぁ」


 そして、気が抜けたか大きく欠伸をする。


「さて……戻るか」


 そう言いながら踵を返す。

 すると、ふわりと風が吹いた。

 木々の葉が揺れ、その向こうから何かの声が風に乗って届く。


「…………」


 足を止めて耳を澄ますと、もう一度声が聞こえた。声を聞くとエイルの口元がわずかに緩み、再び歩き出す。

 その背中を、木漏れ日が静かに照らしていた。



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