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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
4、わたしのくろいほうせき

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見られてる?





 リリアと別れたシオンは、宿の二階へ続く階段を上る。廊下の突き当たりにある部屋の前で足を止め、扉を開いて部屋へ入った瞬間、『ピピッ』と、聞き慣れた電子音が響いた。

 見ると、ベッドの上でコロタマが小さく跳ねている。


『解析完了。解析完了。データをメモリーに保存したよ』


 そう言って、コロタマの体の一部がパカッと開く。収納口から先ほどの紙が姿を現し、取り出したカケラは再びそれを広げた。


「コロタマ。内容を簡潔に説明できるか?」

『ぬ。ちょっと待ってね』


 コロタマの目がピピピと点滅する。


『……ピピピ』


 そして、わずかな間を置いて解析結果を口にした。


『簡単に言うと、この文章は日記だよ。家族のこと、自分のこと、仕事のこととかが事細かく書いてある。でも、ほとんど家族』


 コロタマはころころと転がりながら続ける。


『この人の子供のことがほとんどだった。この日は息子がどうだったとか、娘がどうだったとか』


 カケラは眉をひそめ、顎へ手を添えた。


 シオンが持ってきたもの。

 それは、とある男が書いたとされる日記の写しだった。紙いっぱいにびっしりと書き込まれた文字。そこには、その男が過ごしてきた日々が細かく記されている。

 仕事のこと。家族との生活。子供たちの成長。一見すれば、どこにでもある一人の男の日記だった。


 しかし、その中に一つだけ。これまでシオンたちが追い続けてきたものと繋がる言葉が記されていた。


「……………」


 カケラはベッドへ腰を下ろし、難しい表情のまま文章を読み進める。その向かい側へ、シオンは腰を下ろした。

 しばらく二人の間に沈黙が続く。

 やがて、コロタマがカケラの隣へぴょんと跳ねた。


『ねえ』

「何だ?」

『ここに書いてある"黒い宝石"って、エイルが持ってるものと一緒?』

「……おそらくな」


 カケラの目が、ある一文で止まる。紙を持つ指に僅かに力が入った。


「今から、それを確かめに行く」


 コロタマはカケラの言葉を聞くと、ぴょん、ともう一度跳ねた。

 カケラは紙をシオンへ返し、深く息を吐く。


「ただの思い違いならいいが……そうではないだろうな。絶対に」

「…………」


 紙へ目を落とし、シオンは黙って荷物袋へ手を入れる。取り出したのは、これまで彼が単独で探し、手に入れてきた宝石たちだった。

 紫。白。青。緑。いずれも小さな宝石でありながら、その内部には普通の鉱石とは明らかに異なる力が宿っている。

 四つを掌へ並べた瞬間。淡い光が、それぞれの宝石から漏れ始めた。まるで互いの存在を感じ取っているかのように。


『宝石!宝石!』


 コロタマが嬉しそうにシオンの隣へ移動する。目のセンサーをぱちぱちと点滅させながら、宝石をじっと見つめた。


『……あれ?』


 首を傾げるように体を少し傾ける。


『赤いのがないよ?』

「赤の宝石はドワーフの村にある」

『ドワーフ?』


 コロタマの目が再び点滅する。


『……ピピ。物を作るのが得意な種族?』

「ああ」


 シオンは頷く。

 コロタマは納得したように、ころん、と体を一回転させた。


「その宝石たちも、エイルに保管して貰わないとな」


 カケラは四つの宝石を見つめる。

 そう言って、荷物袋を肩へ担ぎ、立ち上がった。


「さて、そろそろ行こう。夜までに彼のもとへ着いておきたい」

「……わかった」


 その言葉に再び頷き、シオンも宝石を荷物袋へ戻して立ち上がる。


『精霊の森!張り切って行こー!』


 コロタマもベッドからぴょんと飛び降りた。そのまま、ころころと扉へ向かって転がっていく。

 カケラとシオンは顔を見合わせ、そして、後を追うように部屋を出た。



+


 宿を出ると、町は先ほどよりも賑わっていた。ちょうど昼時になったためか、通りには大勢の人が行き交っている。

 食事を求めて店へ向かう者。荷物を抱えて走る商人。家族連れの旅人。港から運ばれてきた荷物を運ぶ人々。様々な声が重なり合い、ラ=パープルの町は活気に満ちていた。


 カケラたちは人の流れに紛れ、町の出入り口へ向かって歩いていく。


『人、いっぱい!人、いっぱい!』


 その途中、コロタマが嬉しそうにぴょんぴょんと跳ね始めた。


「はぐれないように付いてくるんだぞ。また、気づいたらいないなんてことにならないようにな」

『うん!ボク、しっかりカケラとシオンのあとに付いてく!』


 カケラは歩きながら言う。

 コロタマは元気よく返事をすると、ぴょんと、ひときわ高く跳ねた。

 カケラはその姿を見て、ほんの僅かに口元を緩ませる。そして、深く被ったフードを整えた。


「………待て」


 その時、シオンの声が響く。

 カケラは足を止め、振り返った。

 シオンはその場に立ったまま周囲を見渡していて、先ほどまでとは明らかに違う。


「どうした?」

「……誰かに見られている」

「何?」


 言われて、カケラの表情も変わる。シオンは視線だけを動かし、周囲を警戒していた。


「コロタマ、探れるか?」

『ピッ。がってん!』


 元気よく返事をして、コロタマがシオンの足元へ転がっていく。

 その場で停止すると、目のセンサーが淡く光った。


 ピピピ…と、小さな機械音が響く。

 コロタマはそのまま周囲を見渡した。右。左。前。後ろ。上。三百六十度。隅から隅まで、目を光らせる。


『!』


 やがて、ある一点へ視線を向けた瞬間、コロタマがぴょんと高く跳ねた。


『見つけたよ、怪しい人』

「……どこだ?」

『あっち。じっとボクたちを見てる』

「コロタマ。あまり見ていると気づかれる。すぐに目を逸らせ」

『わかった』


 カケラが低い声で言う。

 コロタマは素直に視線を外した。

 カケラとシオンは互いに顔を見合わせる。二人とも、険しい表情を浮かべていた。


「一体、誰だ?」

「さあな」


 シオンは低く答え、先ほどコロタマが見ていた方向へ一瞬だけ目を向ける。


「……だが、この殺気めいた気配……気をつけておいた方がよさそうだ」


 その声には警戒が滲んでいた。

 カケラは頷き、コロタマはぴょんと跳ねる。そして彼らは警戒を解かぬまま、再び町の出入り口へ向かって歩き始めた。




+


 人混みの中へ、シオンたちの姿が少しずつ消えていく。


 コロタマが見ていた方向。

 そこには一軒の酒場があった。

 昼間だというのに、すでに多くの客が出入りしている。


 その二階。通りに面した一室の窓際に、一人の男が立っていた。男は両目に当てていた望遠鏡をゆっくりと下ろす。

 その視線の先には、町の出入り口へ向かって歩いていく二人と一体の姿があった。


「……やっぱ、この距離にいても気づかれたか」


 男は窓の外を眺めながら小さく呟き、望遠鏡を机の上へ置く。

 口元には、楽しげな笑みが浮かんでいた。


「さすがシオン。一筋縄ではいかないな」


 くつくつと喉を鳴らす。


 男は懐へ手を入れた。取り出したのは、一冊の手帳。かなり使い込まれているらしく、表紙には細かな傷がいくつもついていた。

 手帳を開くと、途中には何枚もの付箋が貼られていた。そのうちの一つを指で摘まみ、ページを開く。


 そこには一人の青年の似顔絵が描かれていた。

 紺色の髪。鋭い目。似顔絵のそばには、その人物に関する情報がページいっぱいに書き込まれている。

 行動。交友関係。過去の出来事。これまでに訪れた場所。それは、男が長い時間を掛けて調べ上げた努力の成果だった。


 男はそのページへ視線を落とす。

 そして、指先でシオンの似顔絵を軽くなぞった。


「……ま、でもそうでなくちゃ"追いかける側"としては面白くない」


 男は手帳を閉じる。

 窓の外では、シオンたちの姿が人混みの向こうへ消えていった。


「さて、どこまで追いつけるかな?」


 口元を緩ませる。


「……ゲーム開始と行きますか」


 そう呟くと、男は再び望遠鏡へ手を伸ばし、遠ざかっていく彼らの姿を追うように、そのレンズが静かに動いた。



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