↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
4、わたしのくろいほうせき

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

266/355

世界樹のある大陸へ





『カケラとお散歩!お散歩!』


 弾むような声が、港に響いた。

 銀色の球体が、ぴょんぴょんと軽やかに跳ねながら船のタラップを降りていく。

 そのあとを追うように、最小限にまとめた荷物を肩へ担ぎ、黒いフードを深く被ったカケラがゆっくりと歩みを進めた。


 西の大陸からやって来た二人が降り立ったのは、世界樹が天へ届くようにそびえる"真ん中の大陸"。その玄関口とも言える港町、ラ=パープルだった。

 船着場には旅人や商人、水夫たちが行き交い、荷車の軋む音と人々の笑い声が絶え間なく響いている。潮風が町を吹き抜け、魚と木材、それに焼き立てのパンの香りまで運んできた。


『カケラ。シオン捜す?シオン捜す?』


 タラップを降り切った球体…コロタマが、ぴょこんと振り返る。

 太陽の光を浴びた銀色の体は鏡のように輝き、眩しいほどの光を放っていた。


「いや。あいつとは待ち合わせをしている。捜す必要はない。このまま宿へ向かうぞ」

『了解!宿!宿!』


 その言葉にカケラは短く答える。

 ころころ。と、今度は飛び跳ねる代わりに地面を転がり始めたコロタマを先頭に、二人は港町を歩き出した。

 石畳の道を抜け、人通りの多い通りを進み、やがて見慣れた宿の前へ辿り着く。

 カケラが扉を押し開けると、頭上のドアベルがチリンと澄んだ音を鳴らした。静かな店内へ、その音が心地よく響く。

 数秒後、カウンターの奥から一人の女性が姿を現した。


『セシル!セシル!』


 コロタマは嬉しそうに転がり出し、そのまま勢いよくカウンターへ飛び乗る。

 コロタマの姿を見ると、女性は目を丸くした。


「……コロタマ?」

『カケラもいるよ!カケラもいるよ!』

「ん?」


 言われて、入口へ目を向ける。

 そこにはフードを外し、静かに一礼するカケラの姿があった。近づいてきた彼にセシルはカウンターへ肘をつき、少し驚いたように笑う。


「……あんたが来るなんて珍しいじゃないか」

「少し、用があってな。……シオンはまだ来ていないようだな」


 カケラは荷物を足元へ置きながら答えた。


「シオン?何だ、あいつも来るのか?」

『カケラ。シオン。用事。精霊の森に用事』


 ころころ、とその場で回りながらコロタマが補足する。


「精霊の森……。ああ、なるほど。あんたの用事って言えば、そういうことになるか」


 セシルは納得したように肩をすくめた。そう言って近くの棚から宿泊者名簿を取り出し、カウンターへ置く。


「しばらく泊まるのか?」

「いや」


 カケラは名簿へ名前を書きながら静かに首を振った。


「長居はできない。事情があってな。用が済めば、すぐに戻る」

「相変わらず忙しい奴だね」


 苦笑しながらセシルは鍵を取りに奥へ向かう。

 その時、チリンと再びドアベルが鳴った。同時に柔らかな女性の声が店内へ響く。


「こんにちはー」

『!』


 その声にコロタマはぴたりと動きを止めると、勢いよく入口へ転がっていった。


『リリア!リリア!』

「きゃっ!」


 両手いっぱいに荷物袋を抱えた女性は、足元へ飛び込んできた銀色の球体に驚いて小さく声を上げる。


「……コロタマ?え、どうしてここに?」

『カケラもいるよ!カケラもいるよ!』

「?」


 先ほど、セシルにも伝えた言葉をコロタマは言った。

 言われるまま視線を向けた女性…リリアは、そこに立つ見知った青年を見つけると納得したように微笑み、小さく頭を下げる。


「セシルさん。頼まれていた荷物、届けに来ました」


 そして、少しふらつきながらもカウンターまで歩き、抱えていた荷物袋をそっと置いた。

 ガチャン。と、中から金属同士が触れ合う重たい音が響く。


『リリアが持ってきたもの。フライパン。包丁。ペティナイフ。フルーツナイフ。お鍋。お鍋。お鍋。フライパン』

「確認ありがとう、コロタマ」


 コロタマの目がピピッと淡く光り、リリアは笑みをこぼした。

 鍵を持って戻ってきたセシルは袋からフライパンを取り出し、柄を握る。コンコンと軽く底を叩くと、澄んだ金属音が鳴った。


「うん、悪くない。十分使えそうだ」

『悪くない出来。悪くない出来』

「ちょっと待ってな。代金を持ってくる」


 満足そうに頷き、彼女は鍵を置いて再び奥へ向かう。店内には束の間、静かな時間が流れた。

 その沈黙を破り、リリアはカケラに声を掛ける。


「……カケラさんがここにいるなんて珍しいですね」

「少し、精霊の森に用があってな」

「精霊の森、ですか?」


 顔を向け、リリアは不思議そうに首を傾げる。カケラは小さく頷くだけで、それ以上は喋らなかった。

 そこで、チリンと三度目のドアベルが静かに鳴り響く。二人の視線が自然と入口に向いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。