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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
4、わたしのくろいほうせき
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スノードーム!





 西の大陸にある深い森にひっそりと佇むダークエルフの集落。その一角にあるルーンの家は、今日も静かな時間に包まれていた。


「……今、戻った」


 玄関の扉が開き、カケラが家へ戻ってくる。キッチンではリースレッドが焼きたてのパンを並べていた。

 彼は一瞬だけカケラへ視線を向け、短く返事をすると再び手元へ意識を戻す。


「……………」


 カケラは腕に抱えていた紙袋を食卓へ置き、中から買ってきた食材をひとつずつ取り出した。

 真っ赤なトマトから始まり、つやのあるナス。りんごやグレープフルーツ。パスタやパン、とうもろこし。そして、瓶に入ったソーダ。

 取り出したものを見つめながら、買い忘れたものはないかと確認する。


『カケラ。カケラ』


 そこへ、ころころと軽い音を立てながら銀色の球体が床を転がってきた。

 球体はカケラの靴へ小さくぶつかると、少しだけ後ろへ転がり、二つの楕円形の目をぱっとその体に浮かび上がらせる。


『おかえり。おかえり』


 目がバチバチと瞬きを繰り返し、ピピピと電子音を鳴らしながら、球体はにっこりと笑った。

 そのままカケラの周囲を嬉しそうにくるくる回り、ぴょんと跳ねて食卓の上へ着地する。目のセンサーを点滅させ、並べられた食材を一つひとつ確認した。


『カケラが買ってきたもの。トマト。パスタ。りんご。グレープフルーツ。なす。パン。ソーダ。ソーダ。ソーダ。ソーダ。とうもろこし』

「あと、これも」

『ぬ?』


 カケラは球体の隣へ小さな置物を置く。それは透明な丸い球を乗せた不思議な飾りだった。

 球体は目をぱちぱちと瞬かせ、それをじっと見つめる。


『これなーに?』

「これはスノードームだ」

『すのーどーむ?』


 初めて目にするものだったのだろう。球体は不思議そうに首を傾げるように体を少し傾けた。

 カケラはスノードームを手に取り、そして小さく振る。その瞬間、透明だった球の中へ色彩が広がった。白い粒が雪のように舞い上がり、小さな世界が幻想的な景色へ変わる。


『わっ!わっ!』


 球体は勢いよく飛び跳ねる。

 ころころとスノードームの周りを回りながら、嬉しそうに電子音を鳴らした。

 やがて雪がゆっくりと降り積もり、球の中は再び透明へ戻っていく。


『わー!』


 目をきらきらと輝かせ、球体はまたぴょんぴょんと飛び跳ねた。


「……テーブルの上で跳ねるな」


 近くまで歩いてきたリースレッドが静かに注意し、球体の動きを空中で止める。


『……はい』


 彼の手に収まった球体は、しゅんとして悲しそうに目を垂れさせた。


「……パンは焼けたのか」

「ああ。お前の分も焼いた」


 頷き、リースレッドは焼き上がったパンを入れたバスケットを食卓へ置く。

 丸いパン。四角いパン。細長いパン。香ばしい香りが部屋いっぱいに広がった。


『リースレッドが焼いたパン。今日もおいしそう。カケラも、ご飯作る?』

「そうだな」

『今日のカケラのご飯。トマトパスタ?』

「……ああ」

『トマトパスタ!ボク好き!』


 嬉しそうな電子音を響かせると、球体はぴょんとリースレッドの手から飛び降り、そのままころころとキッチンへ向かっていく。

 カケラも必要な食材を抱え、その後に続いたが、その途中。


「リースレッド」


 振り返り、静かにリースレッドの名を呼ぶ。

 椅子へ腰掛け、パンを食べ始めようとしていた彼は顔を上げた。


「これを食べたら、私はまた少し出掛ける」

「……今度はどこに行くつもりだ?」

「悪いが、それは言えない」


 カケラは淡々と答える。


「なるべくすぐ戻るようにするが、念のため、またいつものように結界を張っておく。結界がある間は外へは出るな」

「…………」


 それだけ告げると、カケラは再びキッチンへ歩き出した。

 リースレッドは何も言わず、ただその背中をじっと見送る。

 以前にも同じようなことがあり、その時もカケラは行き先を告げず、結界だけを残してどこかへ向かった。

 一体、何処へ行っているのか。

 そして、何をしているのか。


「……(まぁ、あまり興味はないがな)」


 思いながら、リースレッドはパンを一口かじる。焼きたての香ばしさが口いっぱいに広がった。

 ゆっくりと飲み込むと、リースレッドの視線はバスケットの奥へ向く。そこには、先ほどカケラが買ってきたスノードームが静かに置かれていた。


 夕陽が窓から差し込み、透明な球をやわらかく照らす。

 さきほどまで雪が舞っていた小さな世界は、今は何事もなかったかのように静かだった。


 その静けさを見つめながら、リースレッドはもう一口、焼きたてのパンを口へ運んだ。



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