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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
4、わたしのくろいほうせき
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和解





 午前の授業が終わり、学び舎は昼休みの賑わいに包まれていた。教室のあちこちでは友人同士が昼食を広げ、談笑する声が飛び交っている。

 そんな中、フィルは自分の席で日記帳を静かに読み続けていた。ページをめくるたびに、かすかな紙の音だけが耳に届く。


「フィル」

「?」


 そこへ、不意に声が掛かった。

 顔を上げると、目の前には修介が立っている。


「何読んでるんだ?」


 そう尋ねながら、修介は前の席の椅子をくるりと回し、背もたれを前にして腰を下ろす。両腕を背もたれへ乗せ、頬杖をつきながら興味深そうに日記帳を見つめた。

 フィルは軽く背もたれへ身を預ける。


「何かボロそうな本だな」

「本じゃないよ。これは日記」

「日記?……お前の?」


 修介は首を傾げる。


「いや。誰の日記かはわからないんだ」


 フィルは首を横へ振った。

 その言葉を聞くなり、修介は「ふーん」と呟き、フィルの手から日記帳をひょいと抜き取る。


「あっ」


 止める間もなく、修介はページをぱらぱらとめくり始めた。


「ふーん」


 しばらく目を走らせたあと小さく息を吐き、もう一度同じ言葉を口にして日記を閉じる。


「……授業中も読んでたよな、これ」

「……見てたのか?」

「隣からパラパラ音が聞こえたら見たくもなるって。真剣な顔してたからどんな面白いもんかと思ったら……」


 肩をすくめながら、ぱさり、と日記帳を机へ戻した。


「難しそうなの読んでんだな」


 そのまま大きな欠伸を一つ。

 背もたれへだらりと体重を預ける。


「…………」


 そんな修介を見つめながら、フィルは昨日の放課後を思い返していた。



+


 授業を終え、帰宅しようと校門へ向かっていた時だった。


「フィル」


 後ろから呼び止められて振り返ると、そこには修介が立っていた。


「修介…」


 また嫌味でも言われるのだろう。

 そう思っていたフィルだったが、その予想は大きく裏切られる。


 突然、修介は無言で頭を下げてきた。

 そして、自分がこれまで取ってきた態度を謝罪したのだ。


「…………」


 あまりに突然のことに、フィルは言葉を失った。

 理由を尋ねると、修介はぽつりぽつりと語り始めた。


 黒い花から溢れ出した煙に飲まれた時のことは、はっきりとは覚えていない。けれど、自分を助けようと必死になっていたフィルの姿だけは、ぼんやりと記憶に残っていた。


 胸の奥に積もっていた嫉妬。

「一番にならなければならない」という重圧。

 その弱さを煙につけ込まれ、自分は暴走した。

 その思いは止まらず、フィルへと襲い掛かり、命まで奪おうとしてしまった。


 それでもフィルは最後まで諦めず、自分を助けてくれた。

 もしあの時フィルがいなければ、自分はあのまま戻って来られなかったかもしれない。


 その想いが日に日に大きくなり、修介は謝らずにはいられなかったのだという。


「…………」


 フィルも、まったく何も思わなかったわけではない。

 修介の刺々しい言葉に、心が引っ掛かることもあった。

 だが、それだけで彼を嫌いになったことはなかった。

 だからこそ、フィルは彼のその謝罪を素直に受け入れた。



+


 それ以来、修介は以前のような嫌味を口にしてはこなくなった。

 今はこうして、ごく普通に話しかけてくる。


「……ってか」


 すると、修介がふと思い出したように口を開いた。


「ルーンは今日も休みなのか?」

「? …ああ。今日は大事を取って休みだよ。修介と同じで、彼女も大変だったからさ」

「んー」


 フィルは静かに答える。

 修介は腕を組み、天井を見上げた。


「今日こそは会えると思ってたんだけどなぁ」


 少し間を空けて、ちらりとフィルを見る。


「……本当は来てるけど、来てないって嘘吐いてるわけじゃないよな?」


 その疑いの視線に、フィルは呆れたように息を吐く。


「そんなことしないよ。どうしてそんな嘘吐くんだ?」

「いや。こうして喋ってるけどさ、俺らって一応ライバルだし。彼女に会わせたくなくて、とか」

「……そんな理由で嘘は吐かない」


 修介の言葉に答える。いつもより少し低い声だった。

 フィルは日記帳を手に取り、鞄へしまう。

 修介はその変化に気付かぬふりをして、それ以上は触れずに肩をすくめた。


「まぁ、会いたいとかそういうのは抜きにしてもさ」


 そして、少し真面目な表情になる。


「彼女にも礼を言いたいんだよ」

「礼?」

「直接じゃなくても、フィルと同じで助けてくれたわけだし」


 その言葉にフィルは少しだけ目を細め、いつかルーンが言っていた言葉を修介に投げかけた。


「"仲良くなるつもりはない"って言ってたけど?」

「え?……ははっ。めっちゃ嫌われてるな、俺」


 修介は間の抜けた声を漏らし、頭を掻きながら苦笑する。

 その言葉に落ち込む様子はなく、むしろどこか楽しそうだった。


「……でも。俺、そういう冷たい対応されんのスゲェ好きだから問題はない!」


 満面の笑みで言い切る修介に、フィルは思わず目を丸くする。


 以前、クラスメイトが言っていた言葉を思い出した。


『修介は普通に話せば良い奴』


 その時は半信半疑だったが、今なら少しだけわかる気がした。



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