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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
3、ダークエルフ
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先生になった気分





「はい。それじゃあルーンちゃん。そこに座って」


 エーに促され、ルーンは保健室の中へ足を踏み入れた。

 校舎の騒ぎが少しずつ落ち着きを取り戻した今、保健室には静かな空気が流れている。


「(保健室なんて、初めて来たわ)」


 ルーンは室内を見回した。

 どこか薬品の香りが漂い、整然と並ぶ棚や白いカーテンが目に入る。

 言われるまま移動式の丸椅子へ腰掛けると、向かいにエーが座った。


 ルーンがここへ連れて来られた理由は一つ。体内に残る黒い花を浄化するためだった。

 他の生徒たちは制服の上から魔法を施すだけで十分だったが、ルーンは違う。彼女の体内にある黒い花は彼女の体に深く根を張っており、直接肌へ触れて浄化しなければ取り除けないという。

 そのため、人目のある場所では難しく、誰もいない保健室が選ばれたのだった。


「……なんだかこうしてると、先生になった気分ね」


 ふふっと柔らかく笑うエー。

 その言葉を聞きながらルーンは制服を脱ぎ、丁寧に膝の上へ畳んで置いた。


「へぇ。ルーンちゃんって、肌白くて綺麗ね。羨ましいわ」

「……羨ましがられるようなものじゃないわ」


 ルーンは小さく首を振る。

 肌を褒められることなんて、ほとんどない。むしろルーンにとってはエーやフィラーラたちみたいな肌の色こそ羨ましいと思っていた。


「そう?でも、私は好きよ。ルーンちゃんの肌」


 エーは穏やかに微笑む。その声に偽りは感じられなかった。

 ゆっくりと手を伸ばし、ルーンの胸元へそっと掌を重ねる。淡い水色の魔法陣が掌の下へ広がり、ひんやりとした感触が肌へ伝わった。


「すぐに終わるから、少し我慢してね」

「……本当にこの方法で、花が取り除けるの?」


 不安そうに尋ねるルーンへ、エーは優しく頷く。


「もちろん。信じて」


 目を閉じ、静かに詠唱を始める。

 保健室へ小さな呪文の響きが満ちていった。


「…………っ」


 最初は冷たいだけだった。

 けれど次の瞬間。胸の奥へ鋭い痛みが走る。


「……っ、あっ……!」


 息が詰まる。

 心臓を掴まれたような苦しさ。

 それだけではない。

 身体の奥で何かが蠢き始めた。

 まるで異物が必死に逃げようともがいているような感覚。

 痛みは少しずつ強くなっていく。


「………何、これ」


 ルーンは苦しげに顔を上げた。

 見ると、エーの表情が変わっている。穏やかだった顔は険しく引き締まり、額には汗が浮かんでいた。


「どうか……したの?」

「っ……少し待って」


 エーは息を整えながら答える。


「……これじゃ駄目かも。ごめんね、ルーンちゃん。ちょっと強くする」

「え?」


 返事を待つ間もなく、魔法陣の光が一段と強く輝いた。


「……あぁっ!」


 短い悲鳴が漏れる。

 ルーンは慌てて片手で口を押さえた。


「っっっっ……!!」


 わかる。胸の奥にある黒い花が暴れている。苦しそうに、必死に抵抗している。

 それは、エーの浄化が確かに効いている証拠だった。だが、その代償はあまりにも大きい。


「んっ……んん……!んんんっ!!」


 経験したことのない激痛が全身を駆け巡る。

 涙が自然と溢れ、頬を伝って零れ落ちた。


「な……に……っ、ん、ああっ!?」


 耐えられない。

 もうやめてほしい。

 震える手を伸ばし、ルーンは弱々しくエーの腕を掴んだ。その腕もまた、小刻みに震えている。


「っ、」


 エーも苦しそうだった。

 額から汗が流れ落ち、呼吸も荒くなっている。


「きゃあっ!!」


 その瞬間だった。

 パチンッ!と、鋭い破裂音が保健室へ響き渡る。


「っ!?」


 何かに弾き飛ばされたようにエーの手が離れた。その勢いのまま二人とも椅子から転げ落ちる。

 ガシャン、と倒れた椅子が床を滑る音が続いた。


「っ……は、……は……っ、あ……」


 仰向けに倒れたルーンは胸を押さえ、必死に呼吸を繰り返す。

 荒い息が喉を震わせる。

 胸の奥では、なお黒い花が暴れ続けているのがはっきりと分かった。


 苦しい。痛い。

 胸元へ手を当てると、エーから託されたペンダントが淡く光を放っていた。


「ごほっ……」


 エーはゆっくりと上体を起こし、小さく咳き込む。汗が額から滴り落ち、床へ小さな染みを作った。

 だが、休むことなく立ち上がり、すぐにルーンの傍らへ膝をつく。


「ルーンちゃん……っ」

「は、……はぁ……っ。ごほっ……くるしっ……」


 苦しげな声に、エーは唇を噛み締める。震える手を再びルーンの胸元へ添えた。


「カフルエル……一体、ルーンちゃんに何をしたの?」


 その声には戸惑いと焦りが滲んでいた。

 静かに呪文を紡ぐ。

 今度は先ほどよりもさらに強い魔力が掌へ集まっていく。

 眩い光が一気に広がり、二人の姿を包み込んだ。


 次の瞬間。

 保健室全体が、白い閃光に染め上げられた。



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