表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
3、ダークエルフ
238/266

防いでばかりじゃ





「修介!」


 甲高い金属音が廊下に響く。

 振り下ろされた刀を盾で弾き返し、フィルは目の前の少年へ必死に呼び掛けた。


「修介!しっかりしろ!」


 しかし返事はない。

 修介は赤く染まった瞳でフィルを見据えたまま、何事もないかのように刀を構え直す。

 その無機質な姿に、フィルは苦々しく息を呑んだ。次の瞬間には再び刀が振り下ろされる。


「っ、」


 盾で受け止める。

 横薙ぎの一閃を身を屈めて避ける。踏み込んできた修介を押し返し距離を取るが、休む間もなく次の斬撃が迫ってきた。


 避けて、防ぐ。

 避けて、防ぐ。

 その繰り返しだった。


「(くそ、どうすれば止められる……っ)」


 攻撃すれば傷つけてしまう。

 だからといって防戦一方では終わりが見えない。

 焦りだけが募っていく。


 少し離れた場所では、ルーンがショウコの猛攻をかわし続けていた。

 拳を紙一重で避け、後ろへ飛び退き、体をひねる。その動きには迷いがあった。

 反撃しようと思えばできるはずなのに、相手がショウコだからか攻撃できない。そのもどかしさが、彼女の動きにはっきりと表れていた。


「っ!」


 ガキィンッ!


 再び刀と盾が激突する。

 腕へ重い衝撃が走る。

 もう何度、この刀を受け止めただろう。押し返した拍子に視線が修介の足元へ落ちる。

 そこには、黒い花が妖しく咲いていた。ゆらゆらと花弁を揺らしながら、黒い煙を吐き続けている。


「……ちっ」


 フィルは小さく舌打ちした。

 元凶はあれだ。あれをどうにかすれば修介とショウコは元に戻るのか。試したいが、今は近付くことすらできない。


「逃げてるだけじゃ何も解決しないわよ?」


 楽しげな声が響く。


「……ほらほら。攻撃しなきゃ」


 その声は、離れた場所から戦いを眺めていたシエルだった。その余裕に満ちた笑みに、ルーンは眉をひそめる。


「炎よ!」


 彼女は素早く魔法陣を展開し、炎の魔法を放った。一直線に飛んだ炎はシエルへ迫る。

 しかし透明な結界が現れ、触れた瞬間に炎は霧散した。


「あら。私にじゃなくて、お友達にやらないと。見ていてつまらないわ」


 シエルは肩をすくめる。

 そう言うと、ゆっくり杖を掲げた。


「しょうがないわね……だったら、やる気が出るようにしてあげましょうか」


 足元へ魔法陣が広がる。

 杖にはめ込まれた宝石が妖しく輝き始めた。

 フィルとルーンは修介とショウコの攻撃をかわしながら、その光景を見つめる。

 直後、修介が一瞬で間合いを詰めてきた。


「なっ!?」


 さっきまでとは比べものにならない速さだった。ルーンの前でもショウコの拳が連続で繰り出される。

 攻撃の回数も速度も、一気に増していた。


「くっ……!」


 これまでなら避けられたはずの攻撃が、体を掠める。


「!」


 修介の刀がフィルの頬を浅く切り裂いた。熱い痛みが走り、一筋の血が流れる。

 同時にショウコの拳がルーンの肩を捉え、体が大きく揺らいだ。


「ふふっ。これでどうかしら?」


 シエルは満足そうに微笑む。

 ルーンは痛みに顔をしかめながら、鋭く彼女を睨みつけた。


「貴女……どういうつもり!?」

「どういうって?」


 シエルは首を傾げる。


「こんなことして、一体何を考えてるの!?貴方とカフルエルは……一体ここで何をしようとしているの!」


 ルーンの叫びに、シエルは静かに周囲を見回した。

 廊下に咲き乱れる黒い花。漂う黒い煙。その景色を眺めながら、小さく呟く。


「そうね……簡単に言えば、実験かしら」

「実験?」


 ルーンは眉を寄せる。

 その間にもショウコの拳は止まらない。必死に避けながら、ルーンは耳を傾けた。


「あの人はね、この世界で実験をしているの」


 シエルは足元の黒い花を一輪摘み上げる。


「呪いを知らない人間たちが呪いに支配されたらどうなるのか。どのように動き、どんな最期を遂げるのか」


 摘んだ花を指先で弄びながら、彼女は淡々と続ける。


「……旧世界での実験は面白かったって聞いているわ。最終的には、その結果を用いて世界を滅ぼせたそうよ」


 花を積み重ねるように持ち上げ、口元を緩ませる。


「そして今回も、彼は実験を繰り返して少しずつ力を付け、世界樹を殺し、世界を滅ぼそうとしている。ここの生徒たちは、そのための実験体よ」


 その言葉に、フィルの表情が強張る。


「なんだよそれ……。そんなことのために修介もショウコも……ルーンも、ここの生徒たちも、みんなおかしくなったっていうのか?」

「貴方たちにとっては"そんなこと"なのでしょうね」


 シエルの表情から笑みが消え、冷たい瞳が二人を射抜く。


「……でも、私たちにとってはそんなことじゃない」


 一瞬、怒りにも似た感情がその声に滲んだ。


「世界樹はあの人たちを見捨てた。見捨てて、世界の嫌われ者にした。復讐したってかまわないでしょ?」


 静かな声が廊下へ響く。


「世界の……嫌われ者……」


 その言葉が胸へ突き刺さる。

 ルーンの脳裏に、断片的な記憶が浮かんだ。


 かつて自分たちダークエルフはシーカと呼ばれた種族だった。

 世界樹の恩恵を受けられず、それを恨み、呪いの種を生み出した者たち。

 その種は世界を混沌へ陥れ、ついには世界樹さえ滅ぼした。


「……っ」


 胸の奥が締め付けられる。

 鈍い痛みが走り、ルーンは思わず眉をひそめた。

 シエルはそんな彼女を静かに見つめる。


「貴女にならわかるでしょ、お嬢さん?」


 その一言に、ルーンは息を呑んだ。


「今、まさに世界に嫌われている種族である貴女なら、あの人の気持ちがわかるはず」


 体が固まる。思考が止まる。

 その一瞬の隙を、ショウコは見逃さなかった。


「っ!」


 拳がルーンの腹部へ深く突き刺さる。


「かはっ!」


 衝撃で体が宙へ浮き、そのまま床へ叩きつけられた。


「ルーン!」


 フィルは思わず叫び、彼女へ顔を向ける。


「ごほっ……!」


 腹部を押さえながら、ルーンは苦しそうに体を起こす。しかし、ショウコの動きは止まらない。

 無表情のまま拳を振り上げ、そのまま容赦なくルーンへと振り下ろした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ