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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
3、ダークエルフ
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行く手を阻む友人たち





 図書室を飛び出したフィルとルーンは廊下を駆け抜けていた。


 廊下のあちこちには黒い花。花弁はゆっくりと揺れ、その中心からは黒い煙が絶え間なく噴き出している。煙は床を這うように広がり、不気味な気配を廊下全体へと染み渡らせていた。

 それを目にしたルーンは、思わず表情を曇らせる。


「これが黒い花……。なんだか不気味ね」


 前を走るフィルも視線だけを花へ向け、小さく頷いた。


「そこから噴き出てる煙を浴びたら、突然生徒たちがおかしくなったんだ。さっきのルーンみたいに、瞳を赤くさせて襲い掛かってきた」

「赤い瞳……」


 ルーンは小さく呟き、少しだけ考え込むように俯く。


「ねぇ、さっきまでの私はどういう状態だったの?」

「え?」


 不意の質問に、フィルの足がわずかに緩む。


「あー……ええと……」


 何と説明すればいいのだろう。

 頭の中には、先ほどまでのルーンの姿が浮かぶ。

 冷静でありながら容赦なく魔法を放ち、自分へ何度も攻撃を仕掛けてきた少女。そして、それだけではない。ここ数日の彼女は、以前よりずっと積極的で、どこか遠慮というものがなくなっていた。


「なんていうか…。色んな意味で好戦的だったというか、積極的だったというか……」


 フィルは眉をひそめる。

 口にしてみても、どこか違う気がする。もっと適切な言葉があるはずなのに、それがどうしても見つからない。

 真剣な顔で頭を悩ませているフィルの様子を見て、ルーンは不思議そうに首を傾げた。


「っ……!」


 その時、右手に鋭い痛みが走る。

 刻印が熱を帯びるように疼き、フィルは反射的に足を止めた。ルーンも立ち止まり、不安そうに振り返る。


「どうしたの?」


 フィルは返事をせず、ゆっくりと前を見据えた。

 廊下の先に、人影が二つ。

 一人は男子生徒。もう一人は女子生徒。二人とも顔を伏せたまま、静かに立ち尽くしていた。

 しかし、その姿を見間違えるはずがない。


「あれは……ショウコと修介?」


 ルーンがぽつりと呟く。

 二人は何も答えず、ただルーンたちの進む道を塞ぐように立っているだけだった。

 その静寂を裂くようにさらに奥から靴音が響き、ゆっくりと、一人の女性が姿を現す。


「!」


 フィルとルーンの表情が同時に険しくなる。

 修介たちの前へ歩み出たのは、シエルだった。彼女は二人の前へ立つと、穏やかな笑みを浮かべる。


「こんにちは、フィル。お嬢さんも」


 その笑顔とは裏腹に漂う威圧感に、フィルは一歩前へ出てルーンを守るように立つ。

 それを見て、シエルは小さく肩を揺らして笑った。


「あの人の読みは外れたわね……でも」


 視線がルーンの胸元へ向く。

 そこでは、ペンダントが淡く光を放っていた。


「戻ったのは一時的みたいね。そのペンダント、中身は何なのかしら?」


 問い掛けられても、フィルは何も答えない。ただ盾も構えず、鋭く彼女を見据えていた。

 その視線を受けても、シエルは気にした様子もなく肩をすくめる。


「……まぁ、何でもいいけれどね。壊してしまえば同じだし」


 そう言って、彼女は杖を高く掲げた。

 足元に青白い魔法陣が広がり、冷気が一気に廊下を満たして無数の氷の刃が空中へ現れる。

 同時にフィルの右手の刻印が激しく疼き、光が弾け、盾が姿を現した。迷うことなくそれを構える。


「氷よ。行きなさい」


 次の瞬間、無数の氷刃が雨のように降り注いだ。

 ルーンは魔法陣を展開させ、自分とフィルの体に防御壁を張る。フィルも盾を襲い来る氷刃に合わせた。

 ガガガガガッ!と、鋭い衝突音が廊下へ響き渡る。氷は盾に弾かれ、床へ砕け散った。


「あら、防がれちゃった」


 残念そうな口調のシエル。だが、その声は楽しそうだった。


『次は手を貸さないからな。自力でやれ』


 フィルの頭の中へ低い声が響く。

 それだけ告げると、刻印は静かになった。


「…………」


 フィルは小さく息を吐く。

 助けはもうない。

 ここからは、自分自身の力で戦わなければ。


「カッコいい盾ね。貴方にぴったり。うっとりしちゃうわ」


 シエルは頬へ手を添え、うっとりと目を細める。

 頬を赤らめながら微笑む姿は、まるで本当に見惚れているかのようだ。


「でも、私にばかり気を取られちゃ駄目よ。嬉しいけれどね」


 笑みは消えない。

 その瞬間、刻印がぶるりと震えた。


「!」


 咄嗟にフィルは身体をひねる。

 直後、頭上を刀が勢いよく振り下ろされた。避けきれなければ、一撃で斬られていただろう。

 ほぼ同時に、ルーンの目の前へ拳も突き出される。彼女も紙一重で身をかわし、大きく後方へ跳んだ。

 二人は互いに距離を取り、素早く周囲を見回す。


「ルーン!」

「私は平気よ!」


 短く言葉を交わした直後、ルーンは再び迫る拳を身をひねってかわす。攻撃している相手を見て、その表情を曇らせた。


「……っ、ショウコ!やめて!」


 拳を振るっていたのはショウコだった。

 ショウコは何も答えない。

 赤く染まった瞳のまま、感情を失ったような表情で拳を振るい続ける。


「ショウコ!」


 叫びにも反応はない。

 ただ機械のように攻撃だけを繰り返していた。

 一方のフィルも盾を構え直し、目の前の相手を見据える。


「……修介」


 フィルの前には修介。

 修介は刀を静かに構え、無言のまま立っている。かと思えば、その体が一気に踏み込んだ。


「っ、」


 鋭い斬撃がフィルへ襲い掛かる。

 盾と刀が激しくぶつかり合い、火花が散った。



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