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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
3、ダークエルフ
235/263

これでいい…はず





 視界に少しずつ色が戻ってくる。

 灰色だった本棚も散らばった本にも元の色彩が宿り、それと同時にフィルの瞳も白銀から澄んだ蒼色へと戻った。


「……はぁ」


 長く息を吐く。

 ルーンの胸に添えていた手を静かに離し、その場へ腰を下ろした。

 全身から力が抜けていく。

 一気に疲労が押し寄せ、このまま床へ倒れ込んでしまいたい衝動に駆られた。

 だが、まだ終わってはいない。


「マキノ!」

「あ、はい……!」


 フィルが声を張ると、はっと我に返ったマキノが返事をした。


「ペンダント……探してきてくれないか」

「ペンダント?」


 一瞬だけ首を傾げたものの、すぐに思い当たったように目を見開く。

 フィルがルーンへ渡そうとしていた、あの銀色のロケットペンダント。


「あっ!」


 マキノは踵を返し、急いで部屋の中へ駆け戻った。

 散乱した家具や本を避けながら、部屋中を見渡していく。


「あった!」


 床に落ちていた銀色の輝きを見つけると、それを拾い上げ、すぐさまフィルのもとへ。


「フィルさん!」


 差し出されたペンダントを受け取り、フィルは小さく微笑んだ。


「ありがとう」


 そして、眠ったままのルーンへ視線を落とし。


「……これで、いいはず」


 そう呟きながら、そっとロケットペンダントを彼女の首へとかける。

 銀色のそれは胸元で静かに揺れた。

 その様子を見つめながら、マキノは不思議そうに首を傾げる。


「フィルさん、それって……」

「うん」


 フィルはペンダントを見つめたまま頷く。


「目が覚めてみないとわからないけど……これがあれば、ルーンの中にある花は大人しくなるはずなんだ」

「花?」

「あー……。オレも、まだよくわかってないんだけどね……」


 困ったように眉尻を下げる。

 エーから聞かされたことを信じるしかない。

 それ以上の説明は、フィルにもできなかった。


「きゅう……」


 ブルーテイルが心配そうに鳴きながら、ルーンの頬へそっと顔を擦り寄せる。

 その小さな仕草に、図書室はようやく静けさを取り戻した。



+



 それから数十分後。

 ルーンの指先がぴくりと動き、ゆっくりと瞼が開いた。


「……ん」


 ぼんやりとした視界。

 頭の中にも薄い霧がかかったようで、意識はまだはっきりしない。

 ゆっくりと体を起こそうとすると、視界の先にフィルの姿が見えた。誰かと話しているらしく、小さな声だけが耳へ届く。

 何を話しているのかまでは聞き取れない。


「きゅうっ!」


 すぐ近くで元気な鳴き声が響いた。

 ルーンはゆっくりと顔を向ける。

 横向きになっていた自分の体の上には、ブルーテイルがちょこんと乗っていた。

 目覚めたことが嬉しいのか、小さな体をぴょんぴょんと弾ませている。

 その鳴き声に気づき、フィルが振り返った。


「!」


 目を開けたルーンを見た瞬間、彼は大きく目を見開く。


 そんなに驚くことだろうか。

 そう言おうとして口を開くも、しかし出てきたのは掠れた咳だけ。


「ルーンちゃん!」


 今度は別の声。

 フィルの向こうからひょこっと顔を覗かせたのはマキノだった。

 その瞳には今にも零れ落ちそうな涙が浮かんでいる。


「……まきの?」


 掠れた声で名前を呼ぶ。

 フィルに支えられながらゆっくりと体を起こし、辺りを見渡した。


「……ここ、図書室?」


 壁には大きな亀裂。

 倒れた本棚。散乱した本。

 それは見慣れた図書室とは思えないほど無残な光景だった。


「……なんでこんなボロボロなの?」

「……ルーン、覚えてないのか?」


 フィルが静かに尋ねる。


「?」


 ルーンはきょとんと首を傾げた。

 覚えていない。

 その言葉の意味がわからない。

 考え込もうとした、その時。


「ルーンちゃん!」

「わっ!?」


 勢いよくマキノが飛びついてくる。

 フィルを跨ぐようにしてルーンへ抱きつき、その体をぎゅっと抱き締めた。


「よかったぁ……!」


 震える声が耳元で響く。

 ブルーテイルも嬉しそうに鳴きながら二人の周りを飛び跳ねていた。

 そんな光景を見つめるルーンは、ただ目を丸くするばかり。

 その瞳はもう禍々しい赤ではなく、澄んだ紫色が静かに輝いていた。


「…………」


 その色を見届けたフィルは、ようやく胸の奥の緊張を解いて口元を緩ませた。



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