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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
3、ダークエルフ
231/264

助けたのは





「っ、」


 ルーンの手が離れる。

 首を締めつけていた力がふっと消え、解放されたマキノはその場へ崩れ落ちた。


「げほっ……!ごほっ、ごほっ!」


 両手を床につき、何度も激しく咳き込みながら空気を貪るように吸い込んむ。

 苦しかった。荒い呼吸を少しずつ整えながら、ゆっくりと顔を上げる。

 その視界に映ったのは、自分を庇うように立つ一人の少年の背中だった。


「何やってるんだよ!殺す気か!?」


 少年…フィルはルーンの手首をしっかりと掴み、険しい表情で睨みつけている。

 その怒声にも、ルーンは表情を変えなかった。


「…………」


 冷たく光る赤い瞳で、静かにフィルを見つめ返す。


「きゅうっ!」

「え……?」


 可愛らしい鳴き声が響く。

 気付くと、小さな青い獣がマキノの膝へ飛び乗っていた。ブルーテイルだった。

 心配そうに顔を覗き込み、小さな鼻先を彼女へ擦り寄せる。


「きつねくん……?」


 マキノは驚きながらも、その柔らかな頭へそっと手を置いた。


「助けてくれたの?」

「きゅうっ!」


 元気よく返事をするように鳴く。

 その小さな命の温もりに触れた瞬間、張り詰めていた糸が切れた。


「…………っ」


 涙が溢れる。

 肩を震わせながら、マキノは静かに嗚咽を漏らした。

 あと少し遅ければ殺されていた。その恐怖が今になって胸へ押し寄せてくる。


「…………冗談よ。本気でやると思ったの?」


 ルーンは口を開いた。

 フィルの手を軽く振り払い、くすりと笑う。


「それで?貴方も私に何か用なの?」


 首をわずかに傾ける。

 フィルはじっと彼女を見つめた。

 そして懐から、小さな銀色のロケットペンダントを取り出す。


「…それは?」

「受け取ってくれないか」


 掌に乗せ、静かに差し出す。

 ルーンはペンダントへ視線を落とした。

 銀色の装飾が静かに光を反射している。

 フィルの顔を見て、またペンダントへ目を戻す。


「こんな時に贈り物なんて、ムードがないわね」


 肩をすくめ、小さく笑う。

 フィルは何も言わない。

 その真剣な表情を見て、ルーンはふっと息を吐いた。


「……でも。貴方からの贈り物ですもの。受け取らないって選択肢はないわ」


 ゆっくりと手を伸ばす。

 細い指先が、ペンダントへ近づいた。

 だが、触れようとしたその瞬間。


「……!」


 ルーンの手がぴたりと止まる。

 どくん。と、胸が大きく脈打った。

 頭の奥で警鐘が鳴り響く。

 触れるな。それに触れてはいけない。本能がそう叫んだ。

 ルーンは反射的に手を引く。


「貴方……。このペンダント……何?」


 視線が鋭くなる。

 フィルは答えない。彼は、ただ黙ってペンダントを差し出したままだった。

 その沈黙が不気味で、ルーンは一歩後ずさる。胸へ手を当て、警戒するようにフィルを睨みつけた。


「貴方、そのペンダントで私に何をするつもり?」

「ルーン」


 フィルは静かに口を開く。


「頼む。受け取ってくれ。このペンダントは危ないものじゃない」

「お断りするわ!」


 ルーンは強く首を振った。

 鋭い声が響く。


「どこでそんなものを手に入れたのか知らないけど、それを私に近づけないで!」


 足元へ魔法陣が広がる。

 次の瞬間、魔力の衝撃が放たれた。


「っ!」


 フィルの手からペンダントが弾き飛ばされる。銀色のロケットは床を転がり、乾いた音を立てながら離れていった。

 フィルはペンダントを見つめ、目を見開く。その隙にルーンは右手を掲げた。掌の上へ赤い炎が集まり、一つの火球となって燃え上がる。


「ルーンちゃん!やめて!」


 マキノが叫んだ。

 ブルーテイルもフィルの肩へ飛び乗り、悲しそうな声を上げた。


「きゅうっ……!」


 しかしルーンの瞳は揺るがない。


「貴方たち、本当に鬱陶しいのよ」


 静かな怒りを滲ませながら言い、炎がさらに大きくなる。


「これ以上、私の邪魔をしないで!」

「ルーン!」


 フィルが叫ぶ。

 その瞬間、火球が一直線に放たれた。


「きゅうっ!」


 ブルーテイルは迷うことなくフィルたちの前へ飛び出す。小さな体から淡い青い光が溢れ、防御壁が展開された。

 直後。火球が防御壁へ激突する。

 轟音とともに小さな爆発が起こり、周囲は煙に包まれた。


 煙の向こうで、ルーンはすでに次の魔法陣を展開している。

 淡々と呪文を紡ぎ、その赤い瞳は真っすぐフィルたちを見据えていた。



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