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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
3、ダークエルフ
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憎しみと心配





 するとそこで、その静寂を破るように勢いよく扉が開く。


「ルーンちゃん!よかった!まだここにいた!」


 息を切らしながら飛び込んできたのはマキノだった。

 ここまで走り続けてきたのだろう。肩で大きく息をしながら、真っすぐルーンのもとへ駆け寄る。

 途中で周囲を見回したマキノは、思わず目を丸くした。


「何ここ……?すごい部屋……」


 たくさんの本棚、散乱した本、見たこともない古い資料や物品。図書室の一角にある部屋とは思えない光景に驚きを隠せない。

 そんな彼女をよそに、ルーンは本から目を離さず口を開く。


「何か用?」


 その一言に、マキノははっと我に返った。


「『何か用?』じゃないよ!今、外では大変なことになってるんだよ!知ってるでしょ!?」


 思わず声が大きくなる。


「私……ルーンちゃんのことが心配で、この騒ぎの中、すごく頑張ってここまで来たの!来てみたらこの図書室も大変なことになっててびっくりしたよ。本棚も机もボロボロだったし!」


 必死に言葉を重ねるマキノ。

 しかしルーンは小さく返すだけ。


「……そう」

「ルーンちゃん、本なんていいから早く逃げよう?……って言っても逃げ場なんてあるかわかんないけど。でも先生が"教室に避難しろ"って叫んでたの!だから私たちも一緒に!」

「……私はいいわ」


 しばらく沈黙が流れ、ルーンは静かに答える。

 慌てているのはマキノだけ。

 ルーンは変わらず本を読み続けていた。


「もう!」


 マキノは思わずルーンの腕を掴み、引っ張る。


「……ちょっと」


 そこでようやくルーンが彼女を見た。

 赤く染まったその瞳を見た瞬間、マキノは息を呑む。


「ね、ルーンちゃん。私と一緒に教室へ行こう?教室なら少しはここより安全だから!」

「…………」


 懸命な呼びかけ。

 だがルーンは眉をひそめると、掴まれた腕を静かに振り払った。


「私は平気よ。今の今まで問題はなかったのだし、これからも問題ないわ」

「それはルーンちゃんの運がよかっただけだよ!私、ルーンちゃんが誰かに傷つけられるところなんて見たくないよ!」


 マキノは叫ぶ。

 その言葉に、ルーンの手が止まった。

 ページをめくる音が途絶える。


「……よくそんな言葉が出るわね」

「え……?」


 ルーンはゆっくりと本を閉じた。

 それを床へ捨て、静かに呟く。

 向けられた瞳には、冷たい光が宿っていた。


「『私が誰かに傷つけられるところは見たくない』?」


 ゆっくりと歩き出す。


「よくそんなことが言えるわね」


 一歩。

 また一歩。


「今まで私は、貴女たち人間に散々傷つけられてきたのだけれど?」

「ル、ルーンちゃん……?」


 その静かな声音に、マキノは思わず後ずさった。


「この大陸へ来てから、私は何度も罵声を浴びせられたわ」


 さらに距離が縮まる。


「暴力を振るわれそうにもなったこともあったわね」


 マキノの背中が壁にぶつかる。

 逃げ場はない。


「あることないこと言われ続けて、私がどんな気持ちだったか。貴女にはわからないでしょう?」

「ルーンちゃん……顔……怖いよ……」

「わかっているわ。貴女たち人間は、世界樹の操り人形ですものね」


 ルーンは目を細めた。

 その言葉にマキノは固まる。


「ダークエルフ……いいえ、この場合はシーカと呼ぶべきかしら。シーカを嫌うように世界へ刻み込まれ、その通りに動く」


 淡々と続ける。

 その表情には悲しみとも諦めともつかない色が浮かんでいた。


「もちろん、そうなった原因はこちら側にもある。それは認めるわ」


 一瞬だけ視線が揺れる。


「それでも理不尽だと思ってしまうの。私たちは今まで、貴女たちを悪く言ったことなんてないのに」


 そっと手が伸びる。

 冷たい指先がマキノの頬へ触れた。

 その冷たさに、マキノの肩が震える。


「ルーンちゃん……やめて……」

「何をやめるの?私はまだ何もしていないわ」


 ルーンは首を傾げた。

 静かな声。


「それとも、これから私が何かするとでも思っているの?たとえば……」


 次の瞬間、ルーンの手がマキノの首元へ伸びる。力を込めて親指を喉元に押し付けるとマキノの表情が強張り、苦しげに息をのみ込んだ。


「っ、……あ…」

「どう?苦しい?」


 ルーンの声はどこまでも静かだった。

 マキノは必死にルーンの腕へ手を伸ばす。


「……でも私は、その苦しさ以上のものを貴女たちから受け続けてきた」


 ルーンの赤い瞳には怒りだけではなく、長い年月積み重なった悲しみが宿っていた。


「可哀想だと思う?」


 問いかけても、返事はない。

 マキノは懸命に呼吸を整えようとするばかりだった。


「たす……け……ルーンちゃ……」


 かすれた声が漏れる。


「悪いけど、何を言っているのかわからないわ」


 ルーンは静かに言う。

 マキノの視界は少しずつぼやけ始めていた。

 赤い瞳を見つめるうちに、幼い頃の記憶が胸によみがえる。

 大切な人を失った日のこと。

 あの日の恐怖。


「や……め……おとうさ……」

「……?。何を言ってるの?」


 ルーンは小さく首を傾げた。


「やめろ、ルーン!!」


 その瞬間、鋭い声が部屋の中に響き渡る。同時に、マキノの目の前が眩い光に包まれた。

 白い輝きが二人の間へ割って入り、静まり返っていた図書室を一瞬で染め上げた。




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