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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
3、ダークエルフ
217/263

黒い花





「これ、どこで?」


 透明な箱を手に取り、エーはその中に閉じ込められた花をまじまじと見つめた。花弁は闇を凝縮したような黒色をしていて、風など吹いていないはずなのに時折ゆらりと揺れる。

 シオンは花を見つけた経緯を簡潔に説明した。話を聞き終えたエーは眉をひそめ、顎に手を添える。


「まさか……どうして」


 ぽつりと呟く。

 そして少し考え込むように目を伏せた。


「でも、彼ならあり得ないことでもないのか」


 独り言のような声。

 シオンは言葉を続ける。


「この花は、まだ村の至るところにありそうだとターナさんは言っていた。だから、探すのを手伝ってほしい」


 黒い花についての知識は自分よりもエーの方が遥かに深い。昨夜、ターナと相談し、彼女たちにも協力を仰ぐべきだという結論に至ったのだ。

 エーは箱の中の花を見つめたまま静かに頷く。


「そうね。でもその前に、とりあえずこの花……もとに戻すわね」


 彼女は掌の上に箱を乗せる。

 その言葉とともに、小さな魔法陣が箱を囲むように展開された。淡い光を放つ円環がゆっくりと回転する。

 ブルーテイルはシオンの膝の上で身を縮こまらせながら、その様子を見守った。やがて魔法陣から白い羽根が舞い始める。

 ふわり、ふわりと羽根は箱を包み込み、光は次第に強くなっていった。部屋全体が白く染まる。

 ブルーテイルが恐る恐る顔を上げた、その瞬間。パンッ。と、光が弾けるように消えた。


「きゅうっ!?」


 思わずブルーテイルは声を上げた。

 箱の中にあったはずの花は消え、代わりに残されていたのは小さな種がひとつ。ころりと転がるそれを見て、ブルーテイルは目を丸くした。


「きゅう…?」


 先ほどまで漂っていた不気味な気配も消え、エーはほっと息を吐く。


「これでもう大丈夫。種に戻ってしまえば脅威ではなくなるわ」


 安心させるように言い、そう言いながら魔法で箱の蓋を開いて中の種を取り出す。種はカタカタと小刻みに震えていた。


「……花は、これ以外にも村の至るところにあるって言ってたわね」

「ああ」


 シオンは短く頷く。


「協力してくれるか?」

「当たり前よ」


 エーは即答した。


「この世界にこんなの持ち込ませちゃ駄目!」


 強い口調。

 だが次の言葉は少し震えていた。


「そんなことになったら、また……っ」


 視線が種へ向く。

 その表情には不安と苦しさが滲んでいた。

 ブルーテイルはそっとシオンの膝から飛び降り、エーの膝の上へ移動する。


「きゅう」


 小さく鳴く。

 "元気を出して"と言われているようで、エーは一瞬目を瞬かせた後柔らかく微笑んだ。


「ありがとう」

「きゅう!」


 頭を撫でられ、ブルーテイルは嬉しそうに尻尾を揺らす。

 エーは種を箱へ戻し、ポケットへしまった。


「それじゃあ、このことはヴィーにも話しておくわ。でも、彼は今忙しくて……協力してくれるかはわからないけど」

「かまわない。……それと、もうひとつ調べてほしいことがある」

「ん?」



+


 それからもエーとの会話はしばらく続き、やがて全てを話し終えるとシオンとブルーテイルは彼女に別れを告げて宿屋を後にする。


 その後も彼らは村の中を歩き、商店通りを抜け、小道を進み、川辺を眺めた。そして夕方。空が茜色に染まり始めた頃、二人は家へ帰ってくる。

 門扉の前まで来たところで、ちょうど学び舎から戻ってきたルーンとフィル、桃華と鉢合わせた。


「きゅうっ!」


 ブルーテイルは嬉しそうに鳴くと、一目散にルーンのもとへ駆け寄る。勢いよく胸へ飛び込むと、ルーンは慣れた様子で受け止めて優しく抱きしめた。


「ただいま」

「きゅう!」


 元気な返事が返ってくる。

 その様子を見ながらシオンも近づき、口を開いた。


「今日は早いんだな」

「ああ。今日は試着だけだったから」


 フィルが答える。

 ルーンとフィルが現在学び舎で行っていることについては、シオンたちも聞いていた。

 "試着"という言葉に、桃華は首を傾げる。


「試着ってことは、ルーンさん、あのドレス着たの?」

「……ええ」

「いいなぁ。あのドレス、すっごい綺麗だったよね?準備室で偶然見つけてさ。羨ましい!」

「だったら代わりに着てもいいわよ」


 桃華の言葉にルーンはさらりと提案した。


「え、それは駄目だよ。だってあのドレスってルーンさんの体型に合わせて作ってるんでしょ?……もし着れたとしてもキツイよ、絶対」


 しかし桃華は自分とルーンを見比べて苦笑し、即座に首を横に振る。その言葉にはフィルも頷いた。


「それはマキノたちに怒られるって」

「まだ完成していないのだし、今からモデル変更しても問題ないでしょ」

「いや、問題あるよ。そんなことしたらマキノが泣くぞ……」


 フィルが呆れたように返すと、ルーンは不満そうに眉をひそめる。

 楽しげな会話が続く。その様子をルーンの腕の中から眺めていたブルーテイルは、小さく欠伸を漏らした。


「きゅわぁ……」


 腕の中はぽかぽかと暖かい。

 安心する匂い。心地よい声。

 次第に瞼がゆっくりと閉じていく。


「んきゅ…」


 そしてブルーテイルはルーンの腕の中で丸くなり、ゆっくりと眠りへ落ちていった。


 こうしてブルーテイルの一日は終わる。

 そして明日になれば、また朝一番に彼女たちを起こすところから始まるのだ。



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