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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
3、ダークエルフ
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友達料理





 夕食の準備が整った頃には、窓の外はすっかり夕暮れ色に染まっていた。ローテーブルの上には湯気を立てるカレーが三人分並べられている。

 隣にはルーンが作ったサラダと、焼き立てのパンが籠に盛られていた。食欲を誘う香りが部屋いっぱいに広がる。


 テーブルを囲んで座ったルーン、マキノ、ショウコは揃って両手を合わせた。


「いただきます」

「……いただきます」

「いただきまーす!」


 三人の声が重なる。

 それぞれがスプーンや箸を手に取り、食事へと手を伸ばした。


 真っ先にカレーへ飛びついたマキノは、ご飯とルーをたっぷりすくって口へ運ぶ。

 もぐもぐと咀嚼した後、その顔がぱっと明るくなった。


「んーっ!美味しい!」


 幸せそうに目を細める。

 その反応を見て、ショウコは小さく笑った。


「食べやすいように辛さは調整したつもりだけど、どう?」

「……うんっ、ちょうどいいよ。とっても美味しい!」

「それはよかった」


 ショウコもようやくカレーに手を付ける。一口食べてからサラダへ箸を伸ばし、ドレッシングのかかったトマトを口へ運んだ。

 その隣で、マキノは次にパンへ目を向ける。皿の上に置かれた焼き立てのパンを手に取り、興味深そうに眺めた。


「このパン、ルーンちゃんが焼いたの?」

「ええ」


 聞かれて、ルーンは短く頷く。

 それを聞いたマキノは、さっそく一口かじった。


 ふんわりと柔らかな生地。

 噛むたびに広がる小麦の香りと、ほんのりとした甘み。


「美味しいっ!」


 マキノは目を輝かせた。


「ルーンちゃん、パン焼く天才!」

「……大袈裟ね。パンを作るのが得意なだけよ。兄さんのせいでね」


 ルーンは肩をすくめ、そう言いながら脳裏に兄の姿を思い浮かべた。


 リースレッド。

 集落で暮らしている、大切な家族。


「お兄さん?」


 マキノが首を傾げる。


「ええ。兄さんはパンしか食べない人だから、おのずと腕が上達したの」


 サラダを一口。

 自分で作ったものだが、なかなか悪くない味だった。


「パンしか食べないって……お兄さん、偏食家なの?」


 ショウコが眉をひそめる。

 "パンしか食べない"というワードに引っかかってしまったようだ。


「『食べ物はひとつだけ食べられれば問題はないだろう』って言ってたわ」

「いや、問題大ありでしょ……」


 ショウコは呆れたように言葉を返す。

 マキノも興味津々といった様子で身を乗り出してきた。


「パンって、惣菜パンとかも入ってるの?」

「……いいえ。一度試してみたけど、惣菜の入ったものは兄さんは食べなかったわ」

「え、素パンのみ?」

「何も入ってないパンだけ食べてたの?」

「ええ」


 ルーンは当然のように答えるが、二人の反応を見る限り、それは決して当然ではないらしい。


「……その時はなんとも思わなかったけど、今にしてみれば、おかしな兄よね」


 そう呟き、カレーを一口食べる。

 口の中に広がる香辛料の刺激に思わず少しだけ眉が動いた。


 美味しくないわけではない。

 ただ、自分の故郷ではあまり味わわない種類の辛さだった。

 慣れていないせいか、舌が驚いている。


「辛かった?」


 その様子に気づき、ショウコが聞いてきた。


「少しだけ。でも平気よ」


 ルーンは答える。

 そんなやり取りの後、マキノが再び口を開いた。


「へぇ。ルーンちゃん、お兄さんいるんだね。会ってみたいなー」

「会ってもつまらない兄よ」


 即答する。


「頭は固いし、融通も利かないしね」

「お兄さん、どこに住んでるの?」

「西の大陸にある森の中よ。そこでひっそりと暮らしてるわ」

「……こっちに呼ぶことって出来ない?」

「?」


 ルーンは少し考える。

 兄の性格を思い返せば、断られる可能性もある。だが絶対に来ないとも言い切れなかった。


「頼めば来てくれるとは思うけど、どうかしらね」

「頼んでみてよ!」


 マキノは再び身を乗り出す。


「私、会いたい!ルーンちゃんのお兄さん!」


 その勢いに、ルーンは思わず目を瞬かせた。

 そこまで興味を持たれるとは思っていなかった。


「……そうね」


 もう一度、少しだけ考える。


「時間が出来て集落に帰ることが可能になったなら、そこで頼んでみるのもいいかもしれないわ」

「本当?」


 答えると、マキノの顔がぱっと明るくなった。


「約束だからね!」

「ええ」


 小さく頷くとそれを見たマキノは満足し、再びカレーへと意識を戻す。

 楽しそうに食事を続ける姿に、ルーンも再びスプーンを手に取った。

 口へ運んだカレーの温かさがじんわりと広がる。


「……………」


 自然と、集落にいる兄のことを考えた。


 今頃、何をしているだろうか。

 今日もまた、何も入っていないパンを食べているに違いない。

 その姿が容易に想像できてしまい、ルーンの口元はわずかに緩んだ。


 呆れることはあっても、嫌いになれるはずのない家族。


 賑やかな食卓の中で兄を思い浮かべながら、ルーンはゆっくりとカレーを食べ続けた。



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