友達の家に訪問
翌日。マキノは学び舎を欠席した。
昨日の放課後、学び舎を出た後に彼女から言われた言葉をルーンは思い出す。
『明日、学び舎休むかもしれない』
冗談めかした口調だったが、その言葉は現実となった。
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授業を終え、陽が傾き始めた夕方。
ルーンはショウコと共に商店通りを抜け、その先にある居住通りへと足を運んでいた。
横一列に並ぶ小屋の間を進み、やがて一軒の家の前で立ち止まる。
水色の屋根が目を引く、小さな家だった。
「ここよ。マキノの家」
ショウコがそう言って門扉を開く。
苗字の書かれた表札を横目に見ながら敷地へ入り、二人は引き戸の前へ向かった。
「マキノー。来たよー」
ショウコが戸を軽く叩く。
返事を待つ間、ルーンは家の外観を眺めた。
白い漆喰の壁。そっと指先で触れてみると、ひんやりとした感触が伝わる。
足元にはいくつもの花壇が並び、赤や黄色、紫の花々が綺麗に咲いていた。
少しして、引き戸が開く。
現れたのは、Tシャツに短パン姿のマキノ。
「ショウコちゃん、いらっしゃ……って、ルーンちゃんもいるの!?」
ショウコの他にルーンもいて予想外だったのだろう。マキノは目を丸くした。
「私がいては駄目かしら?」
ルーンはじとっと彼女を見つめる。
「ふぇ!?あ、そ、そうじゃないよ!ごめんっ!ちょっと吃驚して!」
慌てて両手を振ったマキノは、すぐに笑顔を浮かべ
「……どうぞ、あがって!」
二人を家の中へ招き入れた。
靴を脱ぎ、室内へ入る。
来る途中でショウコから聞いた話によると、マキノはここで一人暮らしをしているらしい。
部屋の中には可愛らしいベッドとローテーブルがあり、壁際にはタンスと鏡が置かれている。必要最低限の家具しかないが、一人で暮らすには十分だった。
しかし、床には服や小物があちらこちらに散らばっていて綺麗とは言えない。
「ごめんね、散らかってて!どこか適当に座っていいから!」
そう言いながらマキノは床の服を慌ただしく拾い始めた。
ルーンとショウコはローテーブルの前に腰を下ろし、鞄を脇へ置く。
「マキノ、体はもう平気なの?」
ショウコが尋ねた。
服を雑に畳んでタンスへ押し込みながら、マキノは振り返る。
「うん。おかげさまで。もうすっかり元気!」
「そう。よかった」
その元気な声に、ショウコも安心したように微笑む。
服を片付け終えたマキノは小走りで台所へ向かい、冷蔵庫から飲み物を取り出して二人の前へ置いた。
そして、自分もようやく腰を下ろす。
「マキノが学び舎を休んだって聞いた時は吃驚したよ。今日は槍が降るんじゃないかと思った」
「あはは。心配お掛けしまして……。朝起きたら全然体動かなくてさ」
「相当、昨日の体育がヤバかったんだね」
「うん……。人生で一番キツかった」
眉尻を下げながら答えるマキノ。
二人の会話を聞き流しながら、ルーンは出された飲み物を口にした。
「…………」
改めて部屋を見渡す。
ぬいぐるみや小さな飾り物が置かれた空間は、どこか温かく可愛らしかった。
女の子らしい部屋。
「…………」
ルーンは、集落にある自分の家を思い浮かべる。
カフルエルに壊され、修繕した自分の家。自分の部屋。
整頓はされているが実用性ばかりを重視した部屋で、こんな風に飾り付けようと思ったことは一度もなかった。
少しだけ、羨ましい気もした。
「マキノ、ご飯はもう食べたの?」
「ううん。まだ」
ショウコが尋ねるとマキノは首を横に振る。
「もしかして作ってくれるの?」
「マキノがまだ『腕が動かない』って言ってきたら作ろうかなって思ってた。そのための食材も買ってきたし」
期待に満ちた目が輝く。
ショウコは鞄の隣に置いていた紙袋へ視線を向けた。
中には野菜や果物がぎっしり詰まっている。
「でも、その様子だと大丈夫よね」
「はいっ!まだ動かないです!腕!」
マキノは勢いよく右手を挙げた。
思い切り動いている。
ルーンは思う。ショウコも同じことを考えたのか、じっとマキノを見つめた。
「……食べたい?」
「食べたい!ショウコちゃんの手料理!」
即答だった。
その返事にショウコは小さく息を吐く。
「仕方ないわね」
そして彼女は立ち上がり、紙袋を持って台所へ向かった。
「カレーでいいよね」
「ショウコちゃんの作るものなら何でもいいよ!」
「……しいたけステーキでも?」
「うっ、それはちょっと……」
少しだけ声を低くして聞けば、マキノの顔が露骨に曇る。
どうやら苦手な食べ物らしい。
その様子がおかしくて、ルーンは思わず口元を緩めた。
飲み物を飲み干し、彼女も立ち上がる。
「手伝うわ」
「ありがとう、ルーンさん」
「え、ルーンちゃんも作るの?」
ショウコが振り返り、マキノが目をぱちぱちとさせる。
「サラダ程度なら作れるから。……嫌ならやめるけど」
「ぜ、全然嫌じゃないよ!」
マキノは勢いよく首を振った。
そして両手を握りしめる。
「うわー、嬉しいー!久しぶりの友達料理だー!」
満面の笑み。
年相応の、無邪気な表情だった。
そんな彼女の緩みきった顔を見て、ルーンとショウコも自然と笑みを浮かべる。
夕暮れの柔らかな光が窓から差し込み、小さな部屋を橙色に染めていた。
今日の夕食は、少し特別な時間になりそうだった。




