問題だらけ
「みなさん、お疲れ様でした」
ゲームがすべて終了し、ケインが集まった生徒たちへ声を掛けた。
広場には疲れ切った空気が漂っている。
四つのゲームを終えた生徒たちは、地面に座り込んだり、その場で肩を落としたりと、誰もが疲労を隠せずにいた。
ルーンも修介も例外ではなく、二人とも口には出さなかったが、その表情には「やっと終わった」という感情がはっきりと浮かんでいた。
そんな生徒たちを見回しながら、ケインの隣に立つ男性教師が腕を組む。
「ん?なんだお前ら。この程度でバテたのか?だらしないな」
鼻で笑う。
その言葉に、生徒たちの肩がぴくりと反応した。
静まり返る広場。
しかし次の瞬間、生徒たちが一斉に顔を上げる。
その視線は驚くほど鋭く、まるで
――お前もやってみろよ。
そう言っているようだった。
男性教師はそんな空気をまるで気にせず笑い、ケインだけが少しだけ視線を逸らす。
おそらく、彼の気持ちは生徒たち側なのだろう。
「ルーン」
その時、不意に声が掛かった。
聞き覚えのある声。顔を向けなくてもわかる。フィルだ。
ルーンは視線を前に向けたまま。
フィルは少し眉尻を下げながら続けた。
「……大丈夫だったか?随分と苦戦してたみたいだったけど」
「……ええ。問題ないわ」
短く答える。実際は問題だらけだ。
水は掛けられまくるし、コロ四郎には振り回されるし、盾は当たらないし、途中から本気で魔法を使いたくなってくるし。
だがそんなことを話すつもりはない。
ルーンは平然を装った。
「心配ご無用」
そこに、横から声が割り込む。修介だ。
彼は自然な動作でルーンの肩へ腕を回す。
「!」
ルーンの眉がぴくりと動くが、修介は気にした様子もなく笑った。
「俺とルーンはこの通りピンピンしてるから。まだまだ動けるぜ」
フィルへ向かって親指を立て、そしてわざとらしく言葉を区切り、彼女に同意を求めるように顔を向ける。
「……な?」
「馴れ馴れしくしないで」
彼女は即答した。
その言葉に修介は笑う。
「はは。怒ってる顔も可愛い」
「ふざけないで」
ギロリ。と、本気で睨まれる。
さすがに危険を察したのか、修介は肩をすくめて手を離した。
そんな二人のやり取りを見ていたフィルは、ほんの少しだけ眉を寄せる。
「……仲良くなったみたいだな」
ぽつりと呟く。
「ああ。最初は不安だったけどね。でも話してみると結構面白い子だったから、すぐに打ち解けたよ。今では友達以上って感じ?」
すぐ反応し、修介は楽しそうな声で言った。
笑顔を見せれば、その言葉にフィルは目を瞬かせる。
「何を勝手なことを言っているの……」
ルーンは盛大に呆れた顔をして、小さく呟く。
修介は聞こえないふりをした。
その時、授業終了を知らせる鐘が鳴り響く。
生徒たちが一斉に顔を上げた。
「よし!今日の授業はここまでだ!」
男性教師が声を張り上げる。
疲れた生徒たちから歓声にも似た声が漏れた。
「しっかり休んで次の授業に臨むように!」
その言葉を合図に、生徒たちはぞろぞろと教室へ向かい始める。
足取りは重く、その姿はまるで戦場から帰還する兵士のようだった。
「それじゃ、俺も戻るよ」
修介も、肩をすくめて歩き始める。
「またな、ルーン」
軽く手を振ると、そのまま背を向けた。
人混みに紛れながら離れていくその背中を見送り、ルーンは小さく息を吐く。
ようやく静かになった。そう思った矢先。
「……打ち解けたって、本当?」
フィルが聞いてくる。
だが、ルーンは振り返らない。
「……まぁ。あれだけ長時間、一緒にゲームをやれば嫌でも打ち解けるわ」
少し考えてから続ける。
それは事実だった。
協力しなければ、どのゲームも突破出来なかった。
だから最低限の信頼はできる。
だが。
「でも」
ルーンの声が少しだけ強くなる。
「"仲良くなった"っていうのは間違いよ。私は彼とは仲良くならないし。今後もなれないと思うわ」
きっぱりと言い切る。
それだけ告げると、彼女も歩き出した。
フィルの顔も一度も見ずに、そのまま教室へ向かう。
「…………」
フィルはその背中を見送った。
眉尻が少し下がる。
やはり様子がおかしい。マキノが言っていた通りだ。
口調からでもわかる。あきらかに機嫌が悪い。
話しかけても目を合わせてくれない。
なんとなく自分に対して怒っているみたいだが理由がわからない。
何かしてしまったのだろうか。
思い返してみるが、考えても答えは出ない。
「…………」
原因がわからない以上、謝ることもできない。
フィルは肩を落とす。
小さなため息が漏れた。
「…………」
もう一つ、気にしなければいけないことがある。
修介の存在だ。
彼は明らかに自分を敵視していた。
理由はわかっている。
以前の体育の授業での、あの戦闘。
それに負けて以来、何かにつけて彼は自分に突っかかってきていた。
さっきのやり取りもそうだ。
ルーンとの距離をわざわざ見せつけるような態度。間違いなく挑発だった。
「…………」
そして、フィルの脳裏に浮かぶ、あと一つの問題。
シエルが残した"一週間後に何が起こる"という言葉だ。
「……はぁ」
また、ため息が漏れる。
考えるほど頭が重くなる。
「(問題が多すぎるなぁ…)」
そう思いながらフィルも足を動かして歩き出し、頭を掻いて教室へ戻っていった。




