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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
3、ダークエルフ
208/263

問題だらけ





「みなさん、お疲れ様でした」


 ゲームがすべて終了し、ケインが集まった生徒たちへ声を掛けた。

 広場には疲れ切った空気が漂っている。


 四つのゲームを終えた生徒たちは、地面に座り込んだり、その場で肩を落としたりと、誰もが疲労を隠せずにいた。

 ルーンも修介も例外ではなく、二人とも口には出さなかったが、その表情には「やっと終わった」という感情がはっきりと浮かんでいた。


 そんな生徒たちを見回しながら、ケインの隣に立つ男性教師が腕を組む。


「ん?なんだお前ら。この程度でバテたのか?だらしないな」


 鼻で笑う。

 その言葉に、生徒たちの肩がぴくりと反応した。

 静まり返る広場。

 しかし次の瞬間、生徒たちが一斉に顔を上げる。

 その視線は驚くほど鋭く、まるで


 ――お前もやってみろよ。


 そう言っているようだった。

 男性教師はそんな空気をまるで気にせず笑い、ケインだけが少しだけ視線を逸らす。

 おそらく、彼の気持ちは生徒たち側なのだろう。


「ルーン」


 その時、不意に声が掛かった。

 聞き覚えのある声。顔を向けなくてもわかる。フィルだ。

 ルーンは視線を前に向けたまま。

 フィルは少し眉尻を下げながら続けた。


「……大丈夫だったか?随分と苦戦してたみたいだったけど」

「……ええ。問題ないわ」


 短く答える。実際は問題だらけだ。

 水は掛けられまくるし、コロ四郎には振り回されるし、盾は当たらないし、途中から本気で魔法を使いたくなってくるし。

 だがそんなことを話すつもりはない。

 ルーンは平然を装った。


「心配ご無用」


 そこに、横から声が割り込む。修介だ。

 彼は自然な動作でルーンの肩へ腕を回す。


「!」


 ルーンの眉がぴくりと動くが、修介は気にした様子もなく笑った。


「俺とルーンはこの通りピンピンしてるから。まだまだ動けるぜ」


 フィルへ向かって親指を立て、そしてわざとらしく言葉を区切り、彼女に同意を求めるように顔を向ける。


「……な?」

「馴れ馴れしくしないで」


 彼女は即答した。

 その言葉に修介は笑う。


「はは。怒ってる顔も可愛い」

「ふざけないで」


 ギロリ。と、本気で睨まれる。

 さすがに危険を察したのか、修介は肩をすくめて手を離した。

 そんな二人のやり取りを見ていたフィルは、ほんの少しだけ眉を寄せる。


「……仲良くなったみたいだな」


 ぽつりと呟く。


「ああ。最初は不安だったけどね。でも話してみると結構面白い子だったから、すぐに打ち解けたよ。今では友達以上って感じ?」


 すぐ反応し、修介は楽しそうな声で言った。

 笑顔を見せれば、その言葉にフィルは目を瞬かせる。


「何を勝手なことを言っているの……」


 ルーンは盛大に呆れた顔をして、小さく呟く。

 修介は聞こえないふりをした。


 その時、授業終了を知らせる鐘が鳴り響く。

 生徒たちが一斉に顔を上げた。


「よし!今日の授業はここまでだ!」


 男性教師が声を張り上げる。

 疲れた生徒たちから歓声にも似た声が漏れた。


「しっかり休んで次の授業に臨むように!」


 その言葉を合図に、生徒たちはぞろぞろと教室へ向かい始める。

 足取りは重く、その姿はまるで戦場から帰還する兵士のようだった。


「それじゃ、俺も戻るよ」


 修介も、肩をすくめて歩き始める。


「またな、ルーン」


 軽く手を振ると、そのまま背を向けた。

 人混みに紛れながら離れていくその背中を見送り、ルーンは小さく息を吐く。

 ようやく静かになった。そう思った矢先。


「……打ち解けたって、本当?」


 フィルが聞いてくる。

 だが、ルーンは振り返らない。


「……まぁ。あれだけ長時間、一緒にゲームをやれば嫌でも打ち解けるわ」


 少し考えてから続ける。

 それは事実だった。

 協力しなければ、どのゲームも突破出来なかった。

 だから最低限の信頼はできる。


 だが。


「でも」


 ルーンの声が少しだけ強くなる。


「"仲良くなった"っていうのは間違いよ。私は彼とは仲良くならないし。今後もなれないと思うわ」


 きっぱりと言い切る。

 それだけ告げると、彼女も歩き出した。

 フィルの顔も一度も見ずに、そのまま教室へ向かう。


「…………」


 フィルはその背中を見送った。

 眉尻が少し下がる。


 やはり様子がおかしい。マキノが言っていた通りだ。

 口調からでもわかる。あきらかに機嫌が悪い。

 話しかけても目を合わせてくれない。

 なんとなく自分に対して怒っているみたいだが理由がわからない。

 何かしてしまったのだろうか。

 思い返してみるが、考えても答えは出ない。


「…………」


 原因がわからない以上、謝ることもできない。

 フィルは肩を落とす。

 小さなため息が漏れた。


「…………」


 もう一つ、気にしなければいけないことがある。

 修介の存在だ。

 彼は明らかに自分を敵視していた。


 理由はわかっている。

 以前の体育の授業での、あの戦闘。

 それに負けて以来、何かにつけて彼は自分に突っかかってきていた。

 さっきのやり取りもそうだ。

 ルーンとの距離をわざわざ見せつけるような態度。間違いなく挑発だった。


「…………」


 そして、フィルの脳裏に浮かぶ、あと一つの問題。

 シエルが残した"一週間後に何が起こる"という言葉だ。


「……はぁ」


 また、ため息が漏れる。

 考えるほど頭が重くなる。


「(問題が多すぎるなぁ…)」


 そう思いながらフィルも足を動かして歩き出し、頭を掻いて教室へ戻っていった。



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