コロ四郎vsルーン
「コロ四郎!こっち向いて!」
ルーンが大きく手を振る。
その声に反応し、銀色の球体は動きを止めてくるりと回転した。
『!』
ルーンの姿を確認すると黒い目がぱちぱちと瞬き、コロ四郎は不思議そうに首を傾げる。
「私と、タイマンで勝負しましょう!」
『……タイマン?』
ルーンは木の盾を構えながら宣言する。
コロ四郎はその場でふわふわと浮かび続け、少し考えるように沈黙した。
『……一対一?ボクと?』
「ええ」
『もうひとりは?』
コロ四郎は周囲を見回す。
修介の姿を探しているようだ。
「…修介は」
ルーンは一瞬だけ視線を横へ流す。
コロ四郎の背後。
遠く離れた場所に修介はいた。
木陰に身を隠しながらこちらを見ていた彼はルーンの視線に気付くと、眉をひそめながら小さく頷く。
「修介は休憩中よ」
『んん?』
言うと、コロ四郎の頭上に大きな「?」が浮かんだ。
『いないの?』
「いないわ」
『お休み中?』
「そう。疲れたんですって」
『……それで、君にボクを捕まえるのを託したの?』
「少しの間だけね」
『……』
コロ四郎は少し考え込み、ルーンの盾を見る。
木製の丸い盾。
決して強そうには見えない。
『その盾で、ボクを捕まえられると思ってるの?』
「甘く見ないでちょうだい。盾は万能よ」
ルーンは口元を上げ、盾を構え直す。
「身を守れるし、攻撃もできる」
『……ふーん。まぁいいや!』
コロ四郎は楽しそうに声を上げる。
『タイマン!タイマン!』
コロ四郎はくるりと回転した。
どうやら信じてくれたみたいだ。
これで、少なくとも今は修介を警戒せずにいてくれるだろう。
『受けて立つ!』
そして元気よく宣言した。
『じゃー、ボクから行くね!』
魔法陣が浮かび上がる。
次の瞬間。バシュンッ!と、光弾が飛んできた。
ルーンは即座に盾を構え、衝撃と共にそれを弾き飛ばす。
そのまま一気に地面を蹴り、距離を詰めた。
「このっ!」
盾を振り上げる。
コロ四郎は軽々と回避した。
空中を滑るように移動する。
「っ!」
ルーンは追い、もう一度振る。
避けられる。
追う。避けられる。
追う。避けられる。
追う。避けられる。
追う。避けられる。
何度やっても当たらない。
まるでこちらの考えを読んでいるかのような動きだった。
どこへ振るか。どの角度から来るか。
全て予測している。
『ふふーん』
コロ四郎が楽しそうに回転する。
ルーンは眉をひそめた。
『あと五分!』
コロ四郎が叫ぶ。
『早くしないと負けちゃうよ?いいの?』
「いいわけないでしょ……っ!」
ルーンは再び盾を振る。
しかし、また当然のように避けられる。
「いい加減動くのやめてくれない?」
『やだ。やめたら捕まる』
即答だった。
「……」
腹立つ。
ルーンは今、本気で魔法を使いたかった。
どうしてコロ四郎は魔法を使えるのに自分は使えないのか。
何故かは理解している。
他の生徒との公平性。授業としてのルール。
全部わかる。わかるのだが。
それでも使いたい。
今すぐ拘束魔法を撃ち込みたい。
そんな衝動を必死に抑えながら、ルーンは盾を振り続けた。
だが当たらない。一度も。
かすりもしない。
徐々に苛立ちが積み上がっていく。
『あと四分!』
コロ四郎が叫ぶ。
その声を聞きながら、ルーンはちらりと気づかれない程度に背後を見た。
コロ四郎の後方には、修介。
彼は、ゆっくり、ゆっくりとコロ四郎との距離を詰めている。
あと少し。あと少しだ。
『しゅーすけはどうしたの?』
コロ四郎が聞く。
『来ないの?』
「彼はまだ休憩中よ」
ルーンは即答した。
『むむー』
不満そうな声だが、しかし疑ってはいない。
順調だ。それでいい。
時間だけが過ぎていく。
あと三分。あと二分。
刻々と終わりが近付いていた。
+
「…………」
修介は無言だった。
刀を強く握る。足音を消す。
呼吸を殺す。
ゆっくりと、確実にコロ四郎の背後へ回り込む。
あと数歩。あと少し。
コロ四郎の意識は完全にルーンへ向いていて、こちらを見ようともしない。
「…………」
修介は刀を地面へ向けた。
息を潜める。機会を待つ。
そして。
『あと一分!』
コロ四郎が叫んだ。
その瞬間、ルーンが突然後方へ飛び退く。
『?』
その行動に、コロ四郎の目が丸くなった。
『諦めたの?』
「違うわ」
ルーンは笑う。
余裕のある笑みだった。
「諦めたんじゃない。確信したのよ」
『ん?』
コロ四郎が首を傾げる。
その時、背後に気配を感じた。
『あれ?』
振り向いたが、もう遅い。
修介が刀を横に薙ぐ。
刃は当てない。その代わり、刃で地面を削った。
大量の砂煙が巻き上がり、コロ四郎に降りかかる。
『わー!!』
コロ四郎の悲鳴。
視界が真っ白になり、目を閉じた。
その一瞬を見逃さず、修介は飛び込む。
伸ばされた手。そして、しっかりと球体を掴み取った。
『あっ』
コロ四郎の動きが止まる。
「……ったく。手間取らせやがって」
修介は深く息を吐き、手の中の球体を見た。
彼の顔を見つめ、コロ四郎の目がしょんぼりと垂れる。
『うぅ……捕まっちゃった……。無念』
悲しげな顔。
その瞬間。球体の表面に文字が浮かび上がった。
"お疲れ様"
その文字が浮かび上がった瞬間、パンッ!と、軽快な音と共に紙吹雪が飛び出した。




