合同授業
「ルーンちゃん、どうしたの?機嫌悪い?」
「……なんでもないわ」
短く返し、ルーンは視線を逸らした。
その日の一時間目は体育だった。
学び舎の敷地内にある広場には、生徒たちが大勢集まっている。
今回は他教室との合同授業らしく、いつも以上に賑やかだった。
生徒たちの前には担任のケインと、もう一人の男性教師が立っている。
「今日の授業内容を説明するぞ!」
男性教師が声を張り上げた。
「今回は教室対抗ではない。両教室の生徒を混ぜてペアを組み、俺たちが用意したゲームに挑戦してもらう」
そう言うと、生徒たちの間からざわめきが起こる。
「ペアはくじ引きで決定だ。同じ番号を引いた者同士で組むように」
説明が終わると、生徒たちは順番にくじを引いていった。
ルーンもくじを引く。彼女が引いた紙に書かれていた番号は十三。
彼女は番号順に置かれた小さなプレートを探し、その場所へ向かう。
見ると、そこにはすでに一人の男子生徒が立っていた。
黒髪で、少しだけ着崩した体操着。彼は近づいてきたルーンを見ると、目を丸くした。
「君、十三?」
「……ええ。貴方も?」
「ああ」
男子生徒は柔らかく笑う。
「修介だ。よろしく」
「………よろしく」
ルーンは小さく答え、その隣に立った。
だが、彼女の意識は男子生徒…修介には向いていなかった。
腕を組み、周囲を見渡す。
そして、たくさんの黒髪の中から、一際目立つ金色を見つけた。
フィルだ。今回は彼のいる教室との授業だった。
彼の立つ場所には二番のプレートが置かれている。
その隣にはマキノの姿があり、どうやらあの二人がペアになったらしい。
「…………」
ルーンの眉間に皺が寄る。
彼女自身、どうしてこんなにも気分が悪いのかわからなかった。
原因は間違いなくフィル。
今にして思えば、聞く必要などなかった。
今朝、学び舎へ向かう途中でルーンはシエルとの関係をフィルに聞いた。
フィルが誰と知り合いだろうと、自分には関係ない。
だが昔から気になったことを放置できない性格上、聞かずにはいられなかった。それが自分に利益をもたらすものかどうかは関係なく。
そして今回も、いつも通りに聞いてしまった。
その結果は明らかに失敗。
聞かなければよかった。そう思っている。
しかし、聞いてしまった事実は消えない。
「……………」
思い出すたびに胸の奥がざわつく。
理由もわからないまま、行き場のない感情だけが膨らんでいく。
「フィルくんがどうしたの?」
「!」
不意に声を掛けられた。
顔を向けると、修介が不思議そうな顔でこちらを見ている。
「フィルくんって金髪だから遠くからでも目立つよね」
彼は笑いながら言った。
「君、フィルくんの友達だろ?この前、一緒にいるところ見たよ。俺もフィルくんとは友達なんだ」
「貴方が?」
「うん。趣味が合うんだよ」
ルーンは少し意外そうな顔をした。
「フィルくんって面白いよね」
修介は楽しそうに笑い、そう言いながら彼もフィルへ視線を向ける。
それから再びルーンを見た。
「それで、さっきの質問だけど。フィルくんをじっと見てどうしたの?」
「…別に。どうもしないわ」
その質問にルーンはそっけなく答える。
「どうもしなくて、その顔はおかしくない?」
「……」
「喧嘩でもしたの?」
「そんなんじゃないわ」
即座に否定。
「ただ、虫の居所が悪いだけよ」
「ふぅん。それってフィルくんのせい?」
修介は少し考えるような表情を浮かべる。
ルーンは答えに詰まった。
しばらく黙ったあと、彼女は小さく息を吐く。
「……よくわからないけど、そうなのかもね。あまり詮索しないでくれる?貴方には関係ないでしょう」
睨むと、修介は肩をすくめた。
「はは、ごめんごめん」
悪びれた様子はない。
「確かに俺には関係ないね。でも、君があまりにも可愛いから、ついちょっかい出したくなるんだ」
彼は、さらりと続けた。
「は?」
思わず聞き返す。
修介は平然としていた。
「この前、君を見た時さ。ビビッと来たんだよね」
「……何が」
「所謂、一目惚れってやつ」
にこりと笑う。
「俺、君のこと好きになったみたいなんだ」
あまりにも自然な口調だった。
ルーンはぽかんと口を開ける。
数秒。思考が停止した。
「……貴方、何を言ってるの?」
「だから、一目惚れ」
繰り返す。
「好きだって言ったんだよ」
さらに続ける。
「あ。別に俺は君がダークエルフだろうが気にしないよ」
「…………」
その言葉にルーンは深いため息を吐いた。
頭が痛い。
「貴方、今が」
「修介」
「……修介」
言い直しながら眉をひそめる。
「貴方、今が授業中だってわかってる?」
「わかってるよ」
修介はあっさり頷いた。
「でも誰かに告白するのに時間なんて関係ないだろ?」
「関係あるわよ。誰かが聞いていたらどうするの?」
「別に構わないさ。俺は君が好き。それを知られたところで困らないし」
修介は動じない。
ルーンは言葉を失った。
貼り付けたような笑顔に軽薄そうな態度。
だが、言葉だけは妙に真っ直ぐだった。冗談には聞こえない。
「…………」
ルーンは視線を逸らした。
「悪いけど。貴方の気持ちには答えないわ」
静かに告げる。
一瞬。修介の目が細められた。
「……"答えない"、ね」
「何?」
「それってフィルくんがいるから?」
「!」
聞かれて、ルーンの肩が僅かに揺れる。
修介はその一瞬を見逃さなかった。
「あれ?図星?今の勘だったんだけど」
口元を緩める。
「……彼は関係ないわ」
少し強めの口調で返すと、修介はしばらく彼女を見つめた。
「へぇ」
それから楽しそうに笑い、視線が再びフィルへ向く。
「君って、ああいうのがタイプなんだね」
「だから関係ないと言っているでしょう」
「まあいいや」
修介は気にした様子もなく言った。
「でも俺は諦めないよ」
そして、真っ直ぐルーンを見据える。
「絶対に君をフィルくんから俺の方へ振り向かせてみせるから」
自信満々の宣言だった。
ルーンはさらに眉をひそめる。
「………」
今日は本当に最悪だ。
胸の中でそう呟きながら、彼女は目の前の男子生徒を睨みつけた。




