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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
3、ダークエルフ
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どうして?





 翌朝。

 学び舎へと続く石畳の道を、フィルとルーンは並んで歩いていた。


 空はよく晴れている。

 街はいつも通りの賑わいを見せていたが、フィルの胸中は重かった。

 昨夜の出来事が、頭から離れない。


「一週間後……?」


 ルーンが首を傾げる。

 フィルは小さく頷いた。


「ああ。シエルがそう言ったんだ」


 昨夜の会話を思い返しながら、彼はできるだけ正確に伝える。

 一言一句漏らさぬように話し終えると、ルーンはじっと彼を見つめた。


「一週間後に何をするって?」

「さあ……?」


 フィルは困ったように眉尻を下げた。


「そこまでは言わなかったけど……」

「そう」


 ルーンは顎に手を添え、考え込む。

 しばらく沈黙が続いた。


「ボス……」


 やがて彼女はぽつりと呟く。


「それって、カフルエルのことかしら。だとしたら、その一週間後にカフルエルが学び舎で何かをするってこと?」

「たぶん…」


 フィルも同じことを考えていた。

 だが、情報が少なすぎる。

 何が起きるのか。何を目的として起きるのか。

 肝心な部分がまるでわからなかった。


「うーん……」


 ルーンは悩ましげな声を漏らす。

 しかし、いくら考えても答えは出そうになかった。


 やがて彼女は小さく息を吐いた。


「……それだけの情報じゃ、わからないわね」


 肩をすくめる。


「でも、一週間後に何かが起きるのは確かだわ。警戒は強めておいた方が良さそうね」

「………ああ」


 ルーンの言葉にフィルは頷く。

 そして、刻印を見つめた。

 ルーンは、ふとフィルのその様子に気付く。

 彼の表情は険しかった。

 右手に浮かぶ刻印はルーンには見えない。

 以前、一度だけ見えたことがあるが、それ以降は何度見ようとしても見えなかった。

 今も彼女の目には、ただの右手にしか見えない。


「…………」


 ルーンはしばらく黙ってフィルを見つめた。

 そして、不意に口を開く。


「気になるのだけど」

「ん?」


 フィルが顔を上げる。


「どうして彼女は貴方にだけ伝言を残したの?」


 その言葉に、フィルは瞬きをした。

 

「その伝言って、たぶん私たちに向けたものよね?」

「まあ、そうだと思う」

「だったら何故、彼女は貴方だけに告げたの?」


 言われてみれば確かに不自然だ。

 自分たちに向けた伝言だったなら、どうしてわざわざ自分ひとりにだけ伝えたのだろう。


「あー……。オレに伝えれば、ルーンにも伝わるって思ったからじゃないかな?」


 フィルは少し考えて答える。

 だが、その答えを聞いたルーンは納得していない様子だった。


「……本当にそうかしら?」

「え?」


 フィルは首を傾げる。

 ルーンはじとりとした視線を彼に向けた。


「貴方と彼女の関係って、不思議だったのよね」

「オレとシエル?」

「ええ」


 ルーンは続ける。


「貴方は最初から彼女のことを知っていた」

「……」

「敵同士なのだけど、なんというか……」


 彼女は言葉を探すように少しだけ視線を泳がせる。


「貴方たちの間には、私たちが知らない何かがあるような気がするの」

「…………」


 フィルは何も答えなかった。

 答えられなかった。

 顔を逸らした彼の横顔をルーンは見つめる。


「……教えてくれない?」


 静かな声だった。

 責めるような響きはない。

 ただ純粋な疑問だった。


「貴方と彼女って、どういう関係なの?」


 学び舎の建物が見えてくる。

 到着までは、もう少しだった。

 フィルは足を止めこそしなかったが、胸の奥がさらに重くなるのを感じた。


 そういえば、まだ話していない。

 シエルとの関係を。

 ルーンにも。誰にも。

 話す機会がなかったわけではない。

 ただ、どう説明すればいいのかわからなかった。


「…………」


 フィルは右手へ視線を落とす。


 ――どんな風に話せばいいんだろう。

 ――どんな風に伝えればいいんだろう。


 考える。

 言葉を探す。

 胸の奥で様々な感情が絡まり合う。


 ルーンは急かさなかった。

 ただ隣を歩きながら、静かに待っている。

 フィルは小さく息を吐き、そして、ぽつりと呟いた。


「……オレとシエルは」


 その声はどこか遠い過去を見つめるようだった。

 フィルはゆっくりと言葉を選びながら話し始める。


 ルーンは口を挟まず耳を傾けた。



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