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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
3、ダークエルフ
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切実な悩み





 玄関の引き戸を開けると、ルーンたちを出迎えたのはホワイトだった。


「おかえり、私のルーン。金色の子」


 淡々とした声が響き、ルーンとフィルは揃って目を瞬かせる。

 ホワイトが誰かを出迎えるなど珍しいと二人は顔を見合わせた。


「……どうした?」

「いえ。……貴方がここにいるなんて珍しいわね」


 ホワイトが不思議そうに尋ねると、靴を脱ぎながらルーンが言う。


「私のルーンを迎えに行こうとしていた。いつもの時刻になっても一向に帰ってくる気配がなかったからな。………何をしていた?」


 ホワイトは静かに首を傾け、赤い瞳をルーンへ向ける。


「友達の付き添いでちょっとね。たぶんしばらくの間はこの時間の帰宅になると思うわ」

「……そうか。承知した」


 ルーンは肩を竦める。

 ホワイトは小さく頷いた。


「ならば、これからは私は私のルーンを迎えに学び舎へ足を運ぼう」

「別に迎えなんていらないわよ。フィルがいるし。必要ないわ」


 即答。

 ホワイトは一瞬だけ沈黙した。


「……そうか。承知した」


 それ以上は何も言わず、ルーンがそのまま廊下を歩いていくのを見送る。

 彼女は、まっすぐ自室として使っている部屋へ向かい、襖を開けて中へ入っていった。


 その後ろ姿を見つめていたホワイトは、静かに息を吐く。

 そして隣にいたフィルへ視線を向けた。


「金色の子。私は、私のルーンと最近まともに会話をしていない」

「ん?」

「学び舎での勉学が忙しいのは重々承知している。だが、私はもっと今までのように私のルーンと会話をしたい。私のルーンの声をもっと聞きたい。今の私が今後もこの状態ならば、私は私のルーン不足で倒れてしまうだろう」


 一拍置いて続ける。


「……私は、どうすれば良いだろうか?返答を求む」


 突然始まった相談。

 ホワイトの表情は真剣そのものだった。

 その言葉を聞いたフィルは、一瞬きょとんとして困惑する。


「ええと……それオレに聞く?」

「金色の子は私の恋敵であり、同時に同じ女性を愛する同志でもある。もし可能ならば助言を請いたい。金色の子が今の私の立場と同じ状況に陥った場合、金色の子なら何をする?」


 ホワイトは至って真面目だった。

 さらに一歩、彼に近付く。


「私のルーンをどんな風に誘い、どんな風に言葉を掛ける?」

「……………」


 そんなことを聞かれても困る。

 フィルは眉尻を下げた。


「…そんなの自分で考えればいいだろ」


 ぽつりと呟きながら廊下を進み、ルーンと同じく自室として使っている部屋へと向かう。

 ホワイトも当然のようについてきた。

 襖を開けて部屋へ入り、鞄を置いて制服を脱いで、普段着へ着替えるその間でも彼はその場でじっとしている。


「…………」


 その姿はまるで答えを待つ教師のようで、フィルは袖を通しながらますます困惑の表情を浮かべた。



+



 着替えを終えたルーンは空になった弁当箱を持ち、台所へ向かった。

 台所には依千蔵とフィラーラ、グリーンの姿もある。


「ルーン、おかえり!」


 ルーンに気づき、フィラーラが明るく声を掛けてきた。

 依千蔵とフィラーラは揃ってエプロンを身につけていて、ルーンは首を傾げる。


「……清龍、まだ戻ってきていないの?」


 近寄ってきたグリーンへ弁当箱を渡しながら尋ねた。

 グリーンは口に咥えたルーンの弁当箱をテーブルの上へ置く。


「兄ちゃんなら帰ってきたぜ。でも、すぐまた出掛けた。桃華姉ちゃん連れて」


 野菜を切っていた依千蔵が答えた。


「桃華を?」

「ああ。……あの様子だと、今日は帰ってこないな」

「そう……。で、貴方は何をしてるの?」

「見てわかんねーのか。料理してんだよ。兄ちゃんいないから」


 依千蔵は目を離さず野菜を切り続ける。

 トントントン、と小気味良い音が周囲に響いた。

 ルーンは小さく頷き、フィラーラに近付く。


「フィラーラは何してるの?」

「依千蔵の手伝い。野菜サラダ作ってるの」


 そう言ってレタスを千切る。


「……グリーンは?」

「我は、現在はこのような獣の姿をしているからな。何もしていない。ただここにいるだけだ」


 強いて言うなら、味見役としてこの場にいる。

 グリーンは淡々とそう続けて、ルーンは「……そう」と短く返した。


 これ以上いると邪魔になりそうだ。

 そう判断し、彼女は台所を後にした。



+


 客間の襖を開けると、ホワイトがフィルに詰め寄っている光景が目に入った。


「金色の子。私は何度でも聞く」


 ホワイトがフィルへ身を乗り出している。


「私の良き恋敵として、私の良き理解者として、私のルーンの声をもっと聞きたいと思った時、金色の子ならどうする?何をする?」

「…………(近い)」


 見ると、フィルの顔が引きつっていた。

 顔と顔の距離が近く、ルーンは眉をひそめる。


「何をしてるの?」


 向かい側へ腰を下ろして声を掛けると、フィルは救いを求めるような顔でルーンを見つめた。


「ホワイト。貴方、何をやっているの?」

「私は私のルーンともっと話がしたい」


 ホワイトは即答した。


「そうするにはどうしたら良いかと金色の子に聞いている」

「…………」


 ルーンは目を丸くした。

 自分ともっと話がしたい。

 ホワイトは確かにそう言った。

 視線を移すと、フィルはすっかり疲れた表情をしている。


「私と話がしたいのなら、私がここにいるんだしすればいいわ。フィルが困ってるから離れなさい」


 ルーンは呆れたように言った。

 しかし、ホワイトは首を横に振る。


「私のルーン。この問いは私のルーンでは解決できない。金色の子が最善な助言を私に与えてくれるまでは、私は金色の子に問い続ける」


 そして再びフィルを見た。


「……金色の子、どうすれば良いだろうか?」

「………」


 フィルは無言だった。

 もはや何度目かもわからない質問。


「………」


 ルーンと会話をしたいという悩みなのに、当のルーンでは解決できないとはどういうことか。意味がわからない。


 ルーンはさらに眉をひそめた。

 ホワイトは真剣そのもの。

 だからこそ質が悪い。


「金色の子」

「……」

「金色の子」

「……」

「金色の子」


 答えを待ち続けるホワイト。

 フィルは肩を落とし、深く、深くため息を吐いた。



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