製作開始!
学び舎の授業が終わった放課後。
家庭科室では、普段の静かな空気とは違う慌ただしさが漂っていた。
机の上には真っ白な布や灰色の布、裁縫道具にデザイン画が広げられ、部屋のあちこちで作業が進められている。
「ルーンちゃん。そこのレース取って」
「わかったわ」
マキノに呼ばれたルーンは近くの棚からレースを取り、彼女へ手渡した。
「あ、ショウコちゃん。それが終わったらこっちお願いね!」
「ええ」
「フィルさん。タキシードの色は灰色か白か、どっちがいいですか?」
「うーん……。灰色かな?」
「了解です!」
元気よく返事をしたマキノは、すぐに布の山へ向かう。
彼女たちはケインに許可をもらったあと、すぐにウェディングドレスとタキシードの製作に取りかかった。
マキノが描いたデザイン画をもとに寸法を測り、布を裁断し、縫い合わせていく。
ショウコとマキノは慣れた様子で次々と工程を進めていたが、ルーンとフィルはそうもいかず、現在の二人は仮縫いの作業中で長い時間悪戦苦闘していた。
「痛っ」
小さな声とともに、フィルが顔をしかめる。
「大丈夫?」
顔を向けてルーンが覗き込むと指先には針が刺さった跡があり、小さな血の粒が浮かんでいた。
「……なかなか難しいな、これ」
苦笑するフィルに、ルーンは指先を軽く掴む。
淡い光が灯り、治癒魔法が傷を塞いだ。
「ゆっくりやれば刺すことはないわ。仮縫いなんだし、多少大雑把にやってもだいじょ……痛っ」
今度はルーンが言い終わる前に、自分の指へ針を刺す。
眉をひそめて指先を見つめるルーンを見て、フィルの口元が緩んだ。
「ゆっくりやっても刺したな」
「黙ってやって」
即座に返される言葉。
フィルは吹き出しそうになりながら肩を震わせる。
ルーンはそんな彼を軽く睨みつけると、自分の指先にも治癒魔法を掛けた。
その様子を、少し離れた場所からマキノがじっと見つめる。
「ねぇ。ねぇねぇ、ショウコちゃんショウコちゃん!」
「何?」
肩を叩かれたショウコが顔を上げると、マキノは興奮した様子で指を差した。
「あれ見て!あれ!」
「?」
ショウコも視線を向ける。
視線の先には、仮縫いを続けるルーンとフィルの姿
「ルーンさんたち?……今、仮縫い中だね」
「ショウコちゃんは、あれ見て何か思わない?」
「何か?」
言われて、ショウコは改めて二人を見る。
楽しそうに話しながら作業する二人。
時々笑い声も聞こえてくる。
「……別に何も。仲がいいなぁ、としか」
率直な感想だった。
しかし、それを聞いたマキノは両手で頭を抱える。
「ショウコちゃん、鈍いっ!」
「え?」
なぜ怒られたのか分からず、ショウコは首を傾げた。
「よーく見て、ルーンちゃんのあの顔!凄い楽しそうで、凄い幸せそう!」
「……楽しそうなのは同意するけど、幸せそうって何?」
「もー!ショウコちゃん!ほんとショウコちゃんだよ!!」
「意味わかんないよ」
マキノは身を乗り出し、机を軽く叩く。
ショウコは困ったように眉尻を下げた。
そんな彼女を見ていたマキノは、ふとある考えに行き着いて目を見開く。
「はっ……!もしかしてルーンちゃんの好きな人ってフィルさんなんじゃ?…あっ!もしそうだとしたら私、知らない間にキューピッドしちゃってた!?」
拳を握りしめ、目を輝かせるマキノ。
本人は大真面目で、ショウコは持っていた布を抱えてミシンの前へ座った。
「楽しそうで何よりだけど、口じゃなく手を動かしてね」
冷静な一言だった。
ひとり盛り上がるマキノを見つめ、冷めた表情を浮かべる。
それからも家庭科室にはミシンの音と会話が交じり合う穏やかな時間が流れていった。
気づけば二時間が経過していた。
窓の外を見れば夕焼けはとっくに消え、空には夜の帳が下りている。
「今日はここまでにしよー!」
マキノの言葉で本日の作業は終了。
片付けを済ませた四人は学び舎を後にして門の前まで来ると、それぞれの帰路についた。
「また明日ね、ルーンちゃん。フィルさんも」
「ええ」
「気をつけてな」
手を振るマキノに、ルーンはとフィルは小さく頷いた。
ショウコも軽く手を上げ、やがて二人の姿は夜道の向こうへ消えていく。
残されたルーンとフィルも歩き始め、空を見上げると星が瞬き始めていた。
「すっかり遅くなっちゃったな。みんな待ってるかも」
「そうね」
ルーンも同じように夜空へ視線を向ける。
時計がないからわからないが、本来ならばこの時間はもう夕御飯を食べ終えているか食べ始める時間だ。
「……早く帰りましょう」
「ああ」
二人は歩く速度を少し上げる。
静かな夜道を並んで進みながら、彼女たちは仲間たちの待つ家へと急いだ。




