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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
3、ダークエルフ

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学び舎は楽しい?





 その夜。

 ルーンはフィラーラと共に温泉小屋へ来ていた。


 夜空には無数の星が散りばめられ、湯気が白く立ち昇る露天風呂を柔らかく包み込んでいる。

 温泉に浸かっているフィラーラは、楽しそうに尾ひれを揺らしていた。

 青く輝く尾ひれが湯の中でゆらゆらと揺れ、その動きに合わせて小さな波紋が広がる。


 フィラーラは機嫌よく歌を口ずさんでいて、静かな夜に溶け込むその歌声を聞きながらルーンは小さく息を吐いた。

 膝を抱え、そこへ顔を埋める。


「………はぁ」

「……ルーン、疲れてる?」


 歌うのをやめ、フィラーラが心配そうに尋ねた。

 顔を上げると、彼女は眉尻を下げ、じっとこちらを見つめている。


「……大丈夫よ。疲れてはいないわ」

「本当?」

「ええ。ありがとう、フィラーラ」


 微笑みながら答え、ルーンは両腕を空へ向かって伸ばす。


 疲れていないというのは本当だった。

 ただ、今日は色々なことがありすぎた。

 ブルーテイルが学び舎に紛れ込んでいたことと、マキノが勝手に進め始めたドレス計画。

 思い返すだけで肩の力が抜けそうになる。


 ルーンは苦笑しながら夜空を見上げた。

 フィラーラが少しだけ近寄る。


「ルーン。学び舎、楽しい?」

「え?」


 突然の質問。


「……うーん。そうね。楽しくないって言ったら嘘になるわ」

「……そっか」


 少し考えてから答えると、フィラーラは目を細めて笑った。


「もしかして、貴女も学び舎に入るの?」

「?」


 その笑顔を見て、ルーンは首を傾げる。


「ううん。わたし、入らないよ。ずっと勉強してたら眠っちゃうから」


 きょとんとしたフィラーラは、そう言って尾ひれをぱしゃりと揺らした。

 温泉のお湯が小さく跳ねる。


「…でも、よかった」

「ん?」

「ルーンが楽しそうで」


 そして、フィラーラは穏やかな声で言う。


「わたし、今のルーン好きだよ。あっ、今までのルーンも好きだったけど!…今のルーン。笑顔が増えてるから、見てて凄く嬉しい!」

「……そうかしら」

「うんっ!」


 フィラーラは力強く頷いた。

 ルーンは少しだけ考え込む。

 自分ではあまり意識していなかったけれど、最近は確かに笑うことが増えた気がする。


「………」


 旅をしていた頃は常に周囲を警戒していた。

 今は以前より肩の力を抜いて過ごせている。

 それが理由なのかもしれない。


「…………」


 ルーンは自分の頬に触れた。

 口角を上げてみる。

 下げて、また上げる。

 何度か繰り返したあと、小さく笑った。


「……ふふ」


 その笑顔を見て、フィラーラも嬉しそうに笑った。



+



「……ふぅ。そろそろのぼせてきそうね」


 しばらくして、ルーンが呟く。

 温泉から立ち上がり、軽く息を吐いた。

 フィラーラを見ると、彼女はまだまだ元気そうだ。


「私、もう上がるわ。貴女はどうする?」

「わたし、もう少しここにいる。でもすぐ上がるよ」

「そう。なら待っているわね」


 頷き、ルーンはそう言い残すと脱衣所へ向かう。脱衣所へ入ると、木の床の冷たさが素足に伝わりひんやりと気持ちよかった。

 ルーンは自分の服が入った籠の前へ行き、着替えを始める。


 温泉のおかげで体がぽかぽかしている。

 やはり温泉は気持ちがいい。そんなことを考えながら服を身につけていき、そして最後に羽織りに手を伸ばした。


 ぴくり。

 その時、羽織りがひとりでに動く。


「……?」


 手を止め、ルーンは眉をひそめた。

 気のせいかと思った。

 しかしもう一度見ても、羽織りはごそごそと動いている。


「何……?」


 恐る恐る止めていた手を伸ばす。

 そして勢いよく羽織りを持ち上げた。


「……」

「……え?」


 そこにいたのは亀だった。

 甲羅の上には蛇が乗っている。

 突然明るくなったことに驚いたのか、一匹と一匹はきょろきょろと周囲を見回していた。


 ルーンはしばらくその二匹無言で見つめる。

 見覚えがあった。とても見覚えがあった。


「どうしてここにいるの……?」


 思わず呟いたその時。


「あれ?ルーンさん?」


 背後から声が聞こえた。

 振り向くと、そこにはショウコが立っていた。

 普段よりもラフな服装で、手提げ袋を持っている。


「ショウコ?」


 彼女を見て、ルーンは目を瞬かせた。


「まさかここで会うなんて」


 ショウコは笑う。


「ルーンさんも温泉に入りに来てたんだ」

「……ええ。もう出るところだけど」

「ここにはよく来るの?」

「ええ。温泉好きの居候仲間がいて、その子の付き添いで」

「そう」


 ショウコは頷く。


「私もよく来るんだ。家のお風呂もいいけど、温泉に入れば時間を忘れられるし、色々考え事もできるから」


 そう言いながら手提げ袋を籠へ置き、服を脱ぎ始める。

 それと同時にルーンの籠から亀が顔を出し、ふとショウコの視線がそちらへ向いた。


「……!?」


 ぴたりと動きが止まる。

 彼女の目が大きく見開かれた。


「ル、ルーンさん……それは?」


 指差しながら尋ねる。

 ルーンは亀を掌に乗せ、少し考えた。


「ええと……何て言えばいいのかしら。この子たちは……知り合いのペット……みたいなものなのかしらね?」


 自分で言いながら首を傾げる。

 説明が難しい。

 朱咲のペット。そう説明するのが一番近い気もするが、しかし本当にそれでいいのかはよくわからなかった。


 そんなことを考えていると。

 脱衣所の戸が勢いよく開く。


「ルーン!見てみて!」


 元気な声。

 フィラーラが脱衣所へ入ってきた。


「さっき温泉に可愛い子が入ってきたの!」


 満面の笑みで駆け寄ってくる。

 ルーンとショウコがそちらを見た。

 そして二人は同時に目を見開く。


 フィラーラの腕の中には、小さな白黒の虎が抱えられていた。

 抱っこされ慣れているか、虎は大人しくしている。


 次の瞬間。


「きゃあああああああああああっ!!」


 ショウコの悲鳴が温泉小屋中に響き渡った。



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