↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
3、ダークエルフ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

189/291

視線





 思いのほか、ケインは寛容だった。


 ルーンはブルーテイルを腕に抱え、職員用の机の前に立っている。

 本来ならば動物の持ち込みは禁止されているため、怒られることは覚悟していた。


 しかし、事情を聞き終えたケインは眉を吊り上げることもなく、むしろ穏やかな表情を浮かべていた。


「わざとではないようですし、今回だけは許しましょう」


 そう言って、彼はルーンの腕の中にいるブルーテイルへ手を伸ばす。


「きゅう?」


 ブルーテイルが首を傾げ、ケインはその頭を優しく撫でた。


「……いいの?」


 予想外の反応に、ルーンは目を丸くする。


「今回だけです。次はこのようなことがないように」

「……わかったわ」


 ケインは穏やかに答えた。

 ルーンが頷くと、ケインも小さく頷き返す。


「では席についてください。授業を始めますので」


 促され、ルーンは自分の席へ向かう。

 近づけばブルーテイルは腕の中から飛び降り、ぴょんと机の上へ乗った。


「きゅうっ」


 小さく鳴いて、得意そうに尻尾を揺らす。

 席に着くと、隣に座るマキノがすぐに身を乗り出してきた。


「どうだった?」

「今回だけは許してくれたわ。次はないって」

「あっ、よかった!」


 椅子に腰掛けながら答えると、マキノは大きく息を吐いた。

 胸を撫で下ろしたあと、ブルーテイルへ顔を向ける。


「よかったねぇ、きつねくん。先生が優しくてホッとしたね!」

「きゅうっ」


 マキノが人差し指で顎を撫でると、ブルーテイルは嬉しそうに鳴いた。


「本当にね。……もう勝手にフィルの鞄に入っちゃ駄目よ」

「きゅう?」


 ルーンは真面目な顔を浮かべ、ブルーテイルに忠告する。

 ブルーテイルは不思議そうに首を傾げた。言葉は通じないはずなのに何故か考えていることが伝わってくる気がする。

 "フィルの鞄が駄目なら、ルーンの鞄ならいいの?"

 そう聞いているような顔だった。


「…………私のも駄目」

「きゅう……」


 予感は当たっていたらしくブルーテイルは露骨にしょんぼりして、耳を垂らし、小さく鳴く。

 その落ち込みように少しだけ罪悪感を覚えながらも、ルーンはため息をついた。


 そして授業が始まる。

 最初は数学から。

 教壇に立ったケインの声が教室に響いた。


 授業が始まる前に「大人しくしているように」と言われたブルーテイルは、机の上で丸くなり静かに座る。

 ブルーテイルは素直にルーンの言葉を聞いて静かにしているのだが、しかし周囲では、ひそひそと囁く声が聞こえてきていた。


「あれ、ルーンさんのペットかな?」

「すごく可愛い……!」

「あとで触らせてもらおうよ!」


 女子生徒たちの視線が完全にブルーテイルへ集中している。

 ちらちらどころではなく、かなり見ていた。見られていた。

 ブルーテイルは注目されていることに気付いているのか、時折尻尾を揺らす。


「皆さん。授業に集中してください」


 ケインの声が響いて教室が一瞬静かになるも、しかし数分後にはまた視線が集まり始める。

 ルーンは問題集へ目を落としながら、息を吐いた。



+


 数学の授業が終わると、次は家庭科。

 今回は移動授業ではなく、そのまま教室で行われる。


 授業が始まるなりマキノは勢いよく立ち上がり、抱えていたデザイン画を手に、一直線にケインのもとへ向かった。


「先生!」


 ルーンもなんとなく付き添う形で後を追う。

 机の前で立ち止まったマキノは、誇らしげにデザイン画を広げた。


「……これは、ドレスですか?」

「はい!ウェディングドレスです!」

「これを貴女が作ると?」

「はい!」


 ケインが確認し、マキノは力強く頷く。


「ルーンちゃんも手伝ってくれます!」

「え」


 突然名前を出されたルーンは目を瞬かせた。

 ドレスを着させられることは知っていたが、手伝うのは初耳だった。

 マキノは気にせず、言葉を続ける。


「あと、ショウコちゃんとフィルさんも手伝ってくれることになってます!」

「ショウコさんとフィルくん?」


 ケインは首を傾げる。


「彼女たちは別の教室の生徒ですよね?」

「はい!でも、もう本人たちの許可は取ってありますので大丈夫です!」


 勢いは止まらず再び言い切るマキノ。

 ショウコもフィルも、自分と同様にそんな約束はしていない。


「うーん……。まぁ、マキノさんは手先も器用ですし、裁縫技術も高いですから何とかなるとは思いますけど……」


 ケインはデザイン画を見つめ、そう言ってからふと顔を上げた。


「このドレスは誰かに着させる予定なのですか?」

「はい!ルーンちゃんに!」

「ルーンさんに?」


 マキノは即答した。

 ケインはルーンを見て、デザイン画を見る。そしてまたルーンを見る。

 しばらく交互に眺めたあと、彼は小さく頷いた。


「なるほど。わかりました。大変だとは思いますが、頑張ってください」

「!」


 微笑むケイン。

 その表情に、マキノの顔がぱっと明るくなった。


「はい!」


 デザイン画を返してもらうと、彼女は大事そうにそれを抱き締める。


「やったよ、ルーンちゃん!これであとは作るだけ!」

「よかったわね……」

「きゅう?」


 ルーンは曖昧に返事をする。

 小さく肩を落とすと足元にいたブルーテイルが不思議そうに鳴いた。


 マキノがドレスを作ること自体に反対はない。楽しそうだと思うし、完成後のドレスを見るのは自分としても楽しみだ。

 だけど、それを自分が着ることについては別問題だった。

 どうにも納得がいかない。


 複雑な気持ちのままデザイン画を眺めていると、不意にケインが声をかけた。


「それで、そのドレスは完成したら誰かに見せる予定でも?」

「あっ、それなんですけど!」


 マキノは待っていましたと言わんばかりに身を乗り出す。


「完成したら行きたい場所があるんです!」

「行きたい場所?」

「はい!あっ、それで先生にちょっとお願いがあるんですけど……」

「お願い?」


 元気よく頷く。

 マキノが行きたい場所。先ほども言っていたが、その場所についてルーンは聞かされていない。


「………?」


 どこなのだろうか。

 首を傾げながら、彼女はマキノとケインの会話に耳を傾けた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。