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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
3、ダークエルフ

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小さな侵入者





「きゅうっ!」


 フィルの鞄から元気いっぱいの鳴き声と共に出てきたのはブルーテイルだった。


「あっ、あの時のきつね!」


 マキノが声を上げる。


「ブルーテイル!?どうして……!」


 驚くルーンの膝へ、ブルーテイルはぴょんと飛び乗る。

 着地すると嬉しそうに尻尾を揺らしてルーンの顔を見上げた。そのまま安心したように丸くなると、満足げに目を細める。

 彼女は困惑しながらも、その柔らかな毛並みをそっと撫でた。


「今朝、目を離した隙に入っちゃってたらしくてさ……」


 フィルは頭を掻きながら苦笑する。


「いつもより重いなーとは思ってたんだけど、今日は授業で使う道具も多かったから気にしてなくて……」


 ブルーテイルを発見したのは、一時間目の授業が始まる直前だった。

 教科書を取り出そうとして鞄を開けた途端、中から青い顔がひょこりと現れたのである。

 その瞬間、フィルは盛大な悲鳴をあげた。


「ほんと、心臓に悪かった……」


 教室中の視線を浴びたことを思い出し、彼は顔を覆う。


「想像できるわね」


 ルーンは肩をすくめながら頷いた。


「この学び舎、動物は禁止よ。どうするの?」

「そうなんだよな……。オレも困ってて、それで相談しに来たんだ」


 フィルはルーンの膝で眠たげにしているブルーテイルの頭を撫でる。

 気持ちいいのか、ブルーテイルは「きゅう……」と小さく鳴いた。


 ルーンの指先とフィルの手が交互に毛並みを撫でる光景は、どこか穏やかで、昼下がりの陽だまりみたいな空気を作っている。

 すると、それを見つめていたマキノが勢いよく立ち上がった。


「いいっ!」

「マキノ?」


 突然の大声に、ショウコが目を瞬かせる。

 マキノは手にしていたデザイン画とルーンたちを何度も見比べた。

 やがてその目が、星でも入ったみたいに輝き始める。


「これ!凄く!いい!!」

「……何?」


 ルーンは眉をひそめる。

 ブルーテイルは騒ぎなど気にする様子もなく小さく欠伸をして、そのまま眠ってしまった。


「ルーンちゃんの魅力、これで伝わるよ!」


 マキノは拳を握りしめ、ひとりで盛り上がる。

 ルーンたちは揃って顔を見合わせた。


「マキノー、説明してー」

「あっ、ごめんごめん!」


 ショウコが諦めた声で促すと、マキノは慌ててデザイン画をルーンたちに見せた。


「やっぱりルーンちゃんには、このドレスを着てもらいます!」

「え、」


 ルーンが固まる。

 マキノは勢いをそのままにフィルを指差した。


「それで、フィルさん!」

「オレ?」

「フィルさんにも着てもらいます!」

「何を?」

「……ドレスを?」

「違うよ!?」


 マキノが即座に突っ込む。


「タキシード!ウェディングドレスと対になるものと言ったらタキシードでしょ!」


 マキノの勢いは止まらない。


「それで、そこの青いきつねくん!」

「きゅう……?」


 名前を呼ばれた気がしたのか、ブルーテイルがうっすら目を開けた。


「愛を誓い合う二人のそばにいる幸せの青い動物……うんっ!完璧!我ながら完璧な構図!」


 マキノは両手を広げながら背中を向け、まるで舞台演出家のように高らかに宣言した。

 それを見つめ、ショウコは深いため息を吐く。


「……何を考えてるの?」


 問いかけると、マキノはくるりと振り返った。


「ルーンちゃんの魅力を最大限に引き出すためのアイデアだよ!名付けて!」


 びしっと指を突き上げる。


「ルーンちゃんの好感度爆上げ作戦!」

「あー……。話が見えないんだけど」

「気にしなくていいわ」


 フィルがぽかんと言うと、ルーンが即答する。

 マキノはそんな反応など意に介さず更に続けた。


「このドレスを着たルーンちゃんと、タキシード姿のフィルさんが並んだら絶対映えるの!絵になる!尊い!」

「尊い……」


 ショウコが呟く。


「でも、もしその案が通ったとして、それをどこでやるの?」

「ふふふ」


 マキノは意味深に笑う。


「この作戦にぴったりの場所があるんだよ!」

「ぴったりの場所?」

「うん!あとでみんなで下見に行こう!」


 その笑みは、秘密基地を見つけた子どものように楽しげだった。


 ちょうどその時。

 カーン、と午後の授業開始を知らせる鐘が鳴り響く。


「あ」


 フィルとルーンは同時に固まった。

 問題は、まだ解決していない。

 ルーンの膝の上では、すっかりブルーテイルが熟睡していた。


 このまま教室へ連れて行けば確実に騒ぎになる。

 見ると、マキノたちは教室に戻る準備を進めながら話を続けていた。


「タキシードのデザインも考えなきゃね!これは忙しくなるよ!ショウコちゃんも手伝ってね!」

「勉強で忙しいから無理」

「えー!」


 賑やかな二人の声を聞きながら、ルーンとフィルは静かに顔を見合わせる。


「……どうする?」

「……どうするって言われても」


 二人は揃って眉尻を下げる。

 ブルーテイルは、そんな空気などどこ吹く風。ルーンの膝の上で、幸せそうに尻尾を揺らしていた。



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