ルーンちゃんの魅力を!
昼休み開始の鐘が鳴り終わってしばらく。学び舎の中庭は、昼食を広げる生徒たちの笑い声と、風に揺れる木々のざわめきで満たされていた。
その中で、不意に響いた大声が空気を切り裂く。
「ルーンちゃんの魅力を伝えたい!」
「……何?」
木に止まっていた鳥たちが一斉に飛び立ち、ベンチに腰掛けて本を読んでいたルーンがゆっくり顔を上げる。隣で紅茶を飲んでいたショウコも、飲むのをやめてマキノを見た。
「ルーンちゃんの魅力を伝えたい!!」
「いや、二回言わなくても…」
ショウコの冷静な返しにも、マキノは真剣そのものだった。拳を握りしめ、燃えるような目で二人を見つめている。
昼食を食べていた周囲の生徒たちも何事かと視線を向けていたが、マキノは気づいていないのか、あるいは気にしていないのか、そのまま勢いよく続けた。
「ルーンちゃんがこの学び舎にやって来てもう二ヶ月経つのに、まだみんなルーンちゃんのこと避けてる!」
「……二ヶ月やそこらでそんな変わらないよ」
ショウコは言う。
ルーンは再び視線を本へ戻し、淡々とページをめくった。
「そもそもこの二ヶ月の間、他の教室の生徒とは接していないわ。避けられたままなのは当然よ」
ぱらり、と紙の擦れる音が鳴る。
それと同時にマキノは勢いよく二人の間へ滑り込むように座った。
「それに、私は別に誰からも好かれようなんて思っていないわ。貴女たちが私を理解してくれているのなら、それで十分よ」
文章を追いながらルーンは言う。
しかしマキノは納得できないらしく、ぶんぶんと首を横に振った。
「そんなの悲しいからルーンちゃん!」
中庭に再び声が響く。
「私は、ルーンちゃんに私たち以外の人たちとも仲良くしてほしいの!ルーンちゃんにとって、この学び舎での生活が楽しいものになってほしいの!卒業まで、ええと……ルーンちゃんはあと四年もあるんだし、その時まで友達が私たちだけだったら嫌でしょ!?」
「……私は構わないけど」
必死に言葉を紡ぐマキノとは対照的に、ルーンの返答は静かなものだった。
ショウコは小さくため息をつき、カップをベンチに置く。
「ルーンさんの魅力を伝えるって言っても、何か案はあるの?」
「よくぞ聞いてくれました!」
待ってましたと言わんばかりに、マキノの表情がぱっと明るくなる。
彼女はスカートのポケットから四つ折りの紙を取り出し、得意げに広げた。
ショウコが覗き込み、目を瞬かせる。
「何これ?ドレス?」
「ウェディングドレスだよ。この後の家庭科の時間で先生に見せるんだ」
「作るの?」
「うん。時間は掛かると思うけど、ショウコちゃんが手伝ってくれればすぐに終わるよ」
「何で私が手伝う前提なのよ」
ショウコはじとりと目を細めた。
本から目を離したルーンも、その紙を見る。
そこに描かれていたのは、純白のウェディングドレスだった。
幾重にも重なるレース。胸元には花を模した装飾があり、裾には細かな刺繍が流れるように描かれている。
素人の落書きとは思えないほど丁寧なデザインだった。
「……どうしてそれを?」
ルーンが聞くと、マキノはゆっくり彼女の方を向いた。
その瞳は、妙にきらきらしている。
「ルーンちゃんって、絶対ウェディングドレス似合うと思うんだよね!」
「…………」
「綺麗系だから真っ白なの映えるし!しかも髪は紫!もう神秘的!それをみんなに見せれば、"ルーンさんって怖い人じゃないんだ……"ってなると思うの!」
「意味が分からないわ」
「ショウコちゃんはわかるよね!?」
「分からない」
即答だった。
マキノは「えぇぇ……」と肩を落とす。しかしすぐに復活し、ルーンへさらに詰め寄った。
「お願いルーンちゃん!一回だけでいいから着てほしい!」
「嫌よ」
「即答!?」
「そもそも何故ウェディングドレスを着なければならないの。魅力を伝える方法なら他にもあるでしょう」
「でもルーンちゃん、絶対似合うし……」
まだ諦めきれない様子のマキノに、ショウコは半ば呆れながら言った。
「というか、家庭科の授業でウェディングドレスなんて作れるの?」
「たぶん!」
「たぶんで突っ走らないでちょうだい」
そんなやり取りをしていると、不意に別の声が聞こえる。
「あ、いた。ルーン!」
三人が振り向く。
そこにはフィルが立っていた。彼は人混みを避けるように中庭を歩き、こちらへ近づいてくる。
ルーンは本を閉じ、膝の上へ置いた。
「ここにいたのか。捜したよ」
「フィルさん、こんにちは」
「こんにちは、マキノ。ショウコも」
「どうも」
「どうかしたの?」
ルーンが尋ねると、フィルはどこか困ったように眉尻を下げる。
「それが……」
彼はルーンの隣へ座り、手に持っていた鞄を膝の上に置いた。
そして短く息を吐いたあと、ゆっくりとかぶせを開く。
「きゅうっ!」
その瞬間、高く愛らしい鳴き声が響いた。
鞄の中から顔を覗かせたのは、小さな動物。青い毛並みに丸い瞳、長い耳はぴこぴこと揺れている。
その動物を見て、ルーンは目を見開いた。




