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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
3、ダークエルフ

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何のために?





 Dグループのスタートを告げる声が広場に響き、それと同時にフィルは戦闘エリアからスタート地点付近へ戻ってきた。

 すると、待っていたかのように男子生徒たちがぞろぞろと集まってくる。


「すげーな、フィル!あの修介を倒すなんて!」

「一体どうやったん!?」


 次々と飛んでくる称賛の声。

 その声に、フィルは困ったように眉尻を下げた。


「たまたま、かな……」


 曖昧に笑って返す。

 正直、自分でも何が起きたのかわからなかった。

 気づけば修介は地面へ倒れていた。


 あの瞬間。

 刻印が光り、頭の中へ囁くような声が響いた。

 そして、自分の体が誰かに操られたような感覚が襲った。


「…………」


 フィルは右手を見る。

 刻印は既に静かだった。

 だが、あの感覚だけは妙に生々しく残っている。


「(こいつがやったのか…?)」


 そこまで考えたところで、フィルは小さく首を振った。

 まだ結論を出すには早い。

 もし何かわかる人がいるとすれば、ターナくらいだろう。


「“たまたま”なわけねぇだろ!」


 その時、突然鋭い声が飛んできた。

 振り返ると、修介が眉をひそめながらこちらへ歩いてくる。


「なんだよあれ!あんなの人間業じゃねぇ!」

「修介、負け惜しみ言うなよ」

「そうだぞ。素直に負けを認めろって」


 男子生徒たちが苦笑混じりに宥めるが、修介は聞く耳を持たない。


「お前!どんな方法使ったか知らねぇけど、あんなのは反則だ!俺は絶対認めないからな!」


 そのままフィルへ詰め寄り、一方的に怒鳴るだけ怒鳴ると彼は踵を返して離れていった。

 何を言われたのか一瞬理解が追いつかず、フィルはぽかんとしたままその背中を見送る。

 そんな彼を見て、男子生徒の一人が肩をすくめた。


「あー、まぁ……気にすんなよ。あいつ、自分より強い奴ってのが許せないタチなんだ」

「常に自分が一番じゃないと気が済まないんだよな」

「そこがちょっと面倒くさいんだよ。普通に付き合ってりゃイイ奴なんだけど」


 男子生徒たちは口々に言う。


「一番であることにこだわりがあるのか?」


 フィルが尋ねと、男子生徒たちは顔を見合わせた。


「こだわりっていうか……」

「……というより、あいつの家の問題だよ」

「家?」

「修介の両親ってさ、二人ともすげー厳しいんだよ。どんな事でも一番を取れ、一番じゃないと意味がないって、幼い頃から耳タコになるくらい言われて育ったらしくて」

「そのせいで、あいつは一番になることに異常なくらい必死なんだ」

「二番も楽しいぞって言ってるんだけどな」

「三番もな」


 男子生徒たちは苦笑する。

 フィルはその話を聞きながら、ちらりと修介の方を見た。

 少し離れた場所で腕を組み、不機嫌そうに地面を睨んでいる。


 その姿はどこか、負けを認められず拗ねている子供にも見えた。



+



「……あぁ。そりゃ始まったな」


 夕食後。

 客間の縁側でお茶を飲んでいたターナは、フィルの話を聞くなり淡々と言った。


 夜風が静かに吹き抜ける。

 膝の上で丸くなっているブルーテイルを撫でながら、フィルは首を傾げた。


「始まった?」

「ああ。声が聞こえたんなら、それは準備が完了したって合図だ」


 ターナは湯呑みを傾ける。

 月明かりが、彼女の横顔を薄く照らしていた。


「幸運様はお前の中で完全な自我を持った。お前に話しかけたのも、お前の体を操ったのも、お前に気づいてもらうためだ」


 さらりと言われた内容に、フィルの表情が強張る。


「体を……操った……?」


 口元が引きつる。

 隣に座っていた桃華も不安そうな顔を浮かべた。


「それって……害はないんですか?」


 恐る恐る尋ねるとターナは頷き、湯呑みをそばへ置く。


「前にも言っただろう。刻印はお前たちに危害を加えるようなことはしない。あくまで共生という形で体に寄生し、そやつと共に生きていく」


 静かな声。

 その言葉を聞き、桃華はそっと左手の甲を見た。

 そこに刻まれた印。

 寄生されても死ぬことはない。

 そう説明は受けている。

 だが、不安が完全に消えたわけではなかった。


「刻印って、何のためにあるんですか?」


 フィルが聞く。

 ターナは少しだけ目を細めた。


「さあな」


 短い返答。


「私も、何でもかんでも知っているわけじゃない。何故刻印というものが存在しているのか。何故それがお前たちを選んだのか。その理由は不明だ」


 そう言って、彼女は湯呑みを持って立ち上がった。

 そのまま襖を開け、客間を後にする。


 静かに閉じる襖。

 残されたフィルと桃華は、互いの刻印を見つめた。


 夜風が縁側を通り抜け、虫の声だけがやけに大きく聞こえていた。



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