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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
3、ダークエルフ

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異変





「俺さ、一度でいいから君と戦ってみたかったんだよね」


 修介は軽い調子でそう言いながら、手にした剣を振るう。

 鋭い斬撃。フィルは咄嗟に剣を構え、その刃を受け止めた。


「っ……!」


 金属音が弾ける。


 重い。だが、それ以上に厄介なのは動きだった。

 修介の剣筋は読みづらい。軌道そのものは素直なのに、次の動作へ移る速さが異常だった。

 一瞬でも視線を外せば、その間に背後へ回り込まれそうになる。


「だけど、こうして刃を交えるとわかるよ。……君も、あいつらと同じで大したことないんだなって!」

「っ……」


 修介はにこりと笑い、フィルは奥歯を噛み締める。


 これまで探求者として戦ってきた相手と比べれば、純粋な戦闘能力はそこまで高くない。

 しかし、動きと速さだけなら修介は彼らよりも上だった。油断すれば終わると、そう直感できるほどに。

 今はなんとか剣を合わせられている。けれど、それもいつまで続くかわからない。


 一手遅れれば崩される。

 二手遅れれば押し切られる。

 三手先まで考えなければ、この戦いにはついていけない。


 フィルは一度後方へ飛び、修介から距離を取って短く息を吐いた。


「防御に徹してるだけじゃ勝てないぜ!もっと攻めてきなよ!」


 修介は剣をくるりと回す。

 その言葉を聞きながら、フィルは別の光景を思い出していた。


 シオンとの手合わせ。

 あの時、彼はどう動いていたか。

 どんな風に剣を振り、どんな風に相手の攻撃を受け流していたか。


「(思い出せ…。あの時のシオンの動きを…)」


 頭の中で何度も反芻する。

 そしてフィルは剣を構え直し、地面を蹴った。


 踏み込む。

 振るう。

 受け止められる。

 返される。

 避ける。

 また振るう。


 繰り返される攻防。

 突破口が見えない。

 まだ思考が足りない。


「フィルくん。そんなんじゃ負けるよ。いいの?」


 修介の声が響く。

 周囲からは他生徒たちの応援が飛び交っていた。

 別エリアでも戦闘が始まっているらしく、遠くから金属音が断続的に聞こえてきている。


「……んじゃあ、可哀想だからさっさと終わらせよう。覚悟してね、フィルくん」


 修介は剣を構えて地面を蹴った。

 先程までと変わらない速度で修介が突っ込んでくる。

 フィルは咄嗟に剣を構え、振り下ろされた刃を受け止めた。


 ギリギリと金属が軋み、剣越しに力が伝わる。

 押し返せない。じわじわと近づいてくる刃を見つめながら、フィルは歯を食いしばった。


「(やばっ、このままじゃ……!)」


 その時だった。

 右手の刻印が淡く光を放ち、頭の中で小さな声が聞こえる。


「────」

「え?」


 フィルは目を見開いた。

 声を聞いた瞬間、彼は無意識に剣を握る手に力を込める。


 いや。違う。これは自分の力じゃない。


「っ!?」


 "それ"は、凄まじい勢いで修介の剣を押し返す。

 修介の体が大きく後退し、フィルは咄嗟に剣を持ち替えた。


「…へぇ。まだそんな力が残ってたんだ。出し惜しみされてたとか、すげームカつく」


 修介は眉をひそめて舌打ちをし、睨み付ける。

 だがフィル自身は、それどころではなかった。


「…………」


 何が起きた?

 今のは自分ではない。

 確かに自分の体は使っていた。

 だが、剣を押し返した力の感覚が違う。

 まるで、"誰かが自分の代わりに動いたような。


「……(まさか)」


 フィルは右手を見る。

 掌に刻まれた印は淡く輝き続けていた。

 小さく震えている。

 けれど痛みはない。

 初めて感じる感覚だった。


「────」


 再び声が響く。

 次の瞬間。再びフィルの体が動いた。


「!?」


 修介が目を見開く。

 フィルの踏み込みが、一瞬で距離を詰めた。

 まるで見間違いのような速度に修介は慌てて剣を構えようとする。

 だが、間に合わない。

 振り上げられた剣が、そのまま修介を弾き飛ばした。


「うわっ……!」


 修介の剣が宙を舞う。

 彼の体は背中から地面へ勢いよく叩きつけられた。


 ピコン、と端末が音を鳴らす。

 戦闘終了の合図だ。


「……!」


 音を聞いて、フィルははっとする。

 気がつくと目の前には倒れた修介がいた。


「え、……勝った?」


 呆然と呟く。

 すると、端末から機械音声が響いた。


「戦闘勝利確認。戦闘勝利確認。フィルさん、剣を置いてゴールへ走ってください」

「!」


 その声にフィルは慌てて剣を地面へ置く。

 そのままゴールへ向かって走っていくと、ゴールラインを越えた瞬間、再び端末が軽快な音を鳴らした。


「パンパカパーン。おめでとうございます、フィルさん。一位です。凄いです。この記録を残しておきますね」


 画面には紙吹雪のエフェクトが派手に舞う。

 フィルは息を切らしながら、その画面をぽかんと見つめた。


「ぐわーっ。くそ、負けたー!」

「また三位かよ!」

「いえーい!二位ー!」


 数分後。

 他の生徒たちも次々とゴールへ到着する。


「…………」


 彼らの嘆く声と歓喜の声に耳を傾けるが、しかしフィルの頭の中にはそれよりも、あの声と右手に残る奇妙な感覚だけが強く残り続けていた。



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