障害物戦闘レース
午後の授業。
フィルの教室では、体育の時間が始まろうとしていた。
「それじゃあ、ルールを説明するよー!」
広場に響いたのは、女子生徒の明るい声。
彼女は片手を挙げながら、背後に広がるコースを示した。
そこには、丸太、縄、網、高低差のある足場など、様々な障害物がずらりと並んでいた。まるで訓練施設と遊戯場を無理やり合体させたような光景。
フィルたちは現在、学び舎の敷地内にある広場へ集められていた。
本日の体育の授業内容は障害物レースと戦闘訓練を組み合わせた競技。
その名も、"障害物戦闘レース"。
「(障害物戦闘レースとは)」
説明を聞き、フィルは眉をひそめる。
名前からして不穏だった。
今回の授業内容は、女子生徒全員が考案したものらしい。
競技に参加するのは男子生徒限定で、女子生徒たちはその間何をするのかと言うと、ただ応援しているだけでは男子から不満が出るため、彼女たちは別場所でバドミントンかバレーボールを行うことになっていた。
謎の配慮。それこそ不満が出そうではある。
「ルールは簡単!」
説明役の女子生徒はメモ帳を見ながら続ける。
「コースに設置されてる障害物を超えて、あそこにぶら下がってる武器の中からひとつ選ぶ!で、その先で待ってる人たちと戦って勝つ!以上!」
実に簡潔だった。
フィルはコースの奥を見る。
確かに最後尾付近には数人の男子生徒が武器を持って立っており、戦う気満々でこちらへ手を振っていた。
「では、最初のグループの人!位置についてください!」
女子生徒の合図と共に、男子生徒たちがスタート地点へ並んでいく。
現在並んでいるのはAグループ。
事前にくじで決められたグループ分けで、フィルはCグループに所属していた。
つまり、出番は次の次だ。
「よーい!」
ストップウォッチを持った女子生徒が腕を掲げる。
「スタート!」
その声と共に男子生徒たちは一斉に駆け出した。
丸太を飛び越え、網を潜り、揺れる足場を渡る。
悲鳴や怒号が飛び交いながらも、彼らは次々と障害物を突破していった。
そして最後に待つのは戦闘。
そこではパン食い競争のように紐で吊るされた武器の中から好きなものを選び、その武器と同じ種類を持った相手と戦う仕組みになっていた。
剣なら剣。
刀なら刀。
武器ごとに待機している相手が違うらしい。
Aグループ最後の生徒がゴールすると、間髪入れずBグループが呼ばれる。
戦闘相手は常時入れ替えられており、誰と当たるかは完全にランダム。
運も実力のうち、ということだろう。
「では、Cの人たち!位置について!」
そして、フィルたちの番が回ってきた。
フィルはスタート地点へ立ち、目の前に並ぶ障害物を見つめる。
「お前の実力、どんなものか楽しみだぜ!」
隣に立つ男子生徒が腕を回しながら笑った。
「……出遅れないように頑張るよ」
それに、フィルは苦笑混じりに返す。
「よーい!」
周囲の空気が張り詰め。
「スタート!」
合図と同時に、Cグループが走り出した。
「頑張れー!」
「誰も負けるなー!」
最初の障害物。
他の生徒たちが足を止めたり飛び越え方を考えたりする中、フィルは迷いなく突き進む。
第二第三の障害物もまるで流れる水のような動きで軽々と突破し、その圧倒的な速さは応援している男子生徒たちを驚愕させた。
足場を蹴るタイミングも、体の使い方も洗練されている。
気づけば他生徒との差は大きく開いていた。
+
「フィルくん、早っ!」
「何あの動き!?何か運動系の習い事とかやってたのかな?」
「他男子たち頑張れー!」
「おーい。早くボール投げてー」
少し離れた場所では、女子生徒たちもバレーボールをしながらレースを観戦していた。
……いや、正確には観戦に夢中で試合が止まりかけていた。
サーブを打つはずだった女子生徒は完全にフィルたちの方へ顔を向けていて、彼女の足元でボールだけが寂しく地面を転がっている。
「ねぇー。バレーやろうよー」
ひとりの女子生徒の声が同じく寂しく響く。
これはもう試合どころではなかった。
+
「はぁ……っ、はぁ……」
第四、第五の障害物を突破したフィルはついに最後のエリアへと辿り着く。
息を整えながら、彼は目の前に吊るされた武器を見た。
剣。刀。トンファー。棍棒。
四種類の武器が紐でぶら下げられている。
「(さすがに盾はないか)」
フィルは少し残念そうに考える。
しばし悩んだ末、彼は最も馴染みのある剣を選んだ。
紐を外し、剣を握る。
そして"剣の人はこっち"と可愛らしい文字で書かれた壁を抜けた。
その先にいた人物を見て、フィルは思わず声を漏らす。
「あ」
待っていたのは修介だった。
修介はフィルの姿を見ると、にこりと笑って片手を上げる。
「待ってたよ、フィルくん」
爽やかな声。
「……やっぱり君は剣を選ぶと思ってたんだ」
その笑顔を見て、フィルはわずかに眉をひそめる。
その時、ピコン。と上着のポケットに入れていたスマート端末が音を鳴らし、戦闘開始の合図を告げた。




