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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
3、ダークエルフ

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亀と蛇






「ルーンちゃーん!次、家庭科だよー!移動しよー!」


 教室中に響く元気な声に、ルーンは顔を上げた。

 廊下側の扉からマキノがぶんぶんと手を振っている。


「すぐに行くわ」


 ルーンはそう返事をし、鞄の中へ手を入れた。


 家庭科で使う道具を取り出し、机の上へ並べていく。

 布巾、筆記用具、小さな巾着袋。

 必要なものを確認しながら手を動かし、最後のひとつを手にしようとした時。


「ん?」


 ルーンの動きが止まる。

 鞄の中を見つめたまま、彼女は小さく眉をひそめた。


 本日の家庭科は調理実習だ。

 そのため、当然エプロンが必要になる。


 だが。


「……ない」


 鞄の中をもう一度探る。

 奥まで手を入れて隅まで確認するが、それでも見つからなかった。


「…………」


 数秒後。

 ルーンは額へ手を当て、静かに目を閉じる。


「……しまった」


 昨日は色々と慌ただしかった。

 そのせいで準備から完全に抜け落ちていたらしい。


「ルーンちゃーん。どうしたのー?」


 なかなか来ないことを不思議に思ったのか、マキノが教室へ戻ってくる。


「マキノ。私は失敗したわ」

「失敗?」

「エプロンを忘れたの」

「あちゃ。ルーンちゃんでも、そんなことあるんだね」

「昨日はバタバタしていたから、そのせいで頭から抜けたのね……」


 ルーンは深く息を吐いた。


「どうすればいいかしら?」

「んー。家が近いなら取りに帰るっていうのもアリだけど、ルーンちゃんが居候してる家って遠いよね?」

「とても時間内に取りに行ける距離じゃないわ」

「……じゃあ、仕方ないから先生に言って借りるとか?」

「借りる……。面倒ね」

「しょうがないよ。エプロン忘れたルーンちゃんが悪……」


 そこで、マキノの言葉がぴたりと止まる。


「……マキノ?」


 急に止まった彼女にルーンは首を傾げた。

 どうしたのかと聞くと、マキノの顔がみるみる青ざめていく。

 震える指でルーンの机を指差し、ルーンは不思議そうに振り返った。


「……?」


 そこには、小さな緑色の亀がいた。

 さらに、その亀の甲羅の上には同じく小さな白い蛇が乗っている。


 亀と蛇はそれぞれ口に透明な袋を咥えていた。中に入っているのは、ルーンの髪とよく似た紫色のエプロン。


「…………」


 のそのそ、と亀はゆっくり歩いて机の中心へ辿り着く。

 そして咥えていた袋をそっと置くと、顔を上げてルーンたちを見つめた。


 蛇もぺろりと細長い舌を覗かせる。


「亀と、蛇?」


 それを見て、ルーンは眉をひそめた。

 一方で、マキノは完全に硬直する。口元を引きつらせ、青ざめた顔で二匹を凝視していた。


 そして次の瞬間。


「きゃああああ!!」


 甲高い悲鳴が、学び舎全体へ轟いた。



+



 昼休み。


 亀と蛇は未だにルーンの机の上にいた。

 二匹は仲良く並び、ルーンの弁当に入っていた葉っぱをもしゃもしゃと食べている。


 亀はゆっくり咀嚼し、蛇は小さく口を動かして葉を飲み込む。


 なんとも平和な光景だった。


 だが、それを見つめるマキノの目だけは、まるで敵を監視する見張り塔のように鋭かった。


「貴女、凄い顔になってるわ」


 彼女の顔を見つめ、ルーンが指摘する。


「ごめん。でも私、数ある生き物の中で蛇だけはどうしても駄目でさ。こんな顔になっちゃうの」


 マキノは半泣きで答えた。


 その時、葉っぱを咀嚼していた蛇が、ゆっくりとマキノの方へ顔を向けて、ぺろりと舌を揺らす。


「ひっ……!」


 マキノの肩が大きく震えた。


「……よく見れば、蛇も可愛いわよ?」

「可愛くなんかないよぉ。無理無理。蛇だけは絶対に無理!」


 必死に首を振るマキノ。


「うぅ…っ」


 蛇の近くには居たくない。

 しかしルーンと一緒に昼食を食べたい。

 その二つの感情が彼女の中で大乱闘を繰り広げている。


 ルーンはそんな彼女の様子を見て、肩をすくめた。


「で、でもよかったね、ルーンちゃん。エプロンのこと」


 表情を引きつらせつつも、マキノは話を続ける。


「? ……ええ、そうね。この二匹には感謝しないと」


 ルーンは口元を少し緩めた。

 焼き魚を箸で持ち上げる。

 そして、ふと気づくと二匹を見た。


「……ねぇ、もしかしてだけど……あなたたちが幻武?」


 名前を呼ばれた瞬間。

 亀と蛇は同時に顔を上げる。

 亀はゆっくりと口を開き、蛇は舌をぺろりと出した。

 どうやら正解らしい。


「幻武?それって、この子たちの名前?」

「ええ」


 ルーンは頷く。


「……以前に知り合った人から言われていたのよ。幻武という人を近いうちに会いに行かせるって」


 朱咲に言われた言葉を思い出して、そこで一度言葉を切り、彼女は小さく息を吐いた。


「……まさか亀と蛇だとは思わなかったわ」


 幻武と呼ばれた二匹は気にした様子もなく、再び葉っぱをもしゃもしゃと食べ始める。

 亀の甲羅の上で蛇が丸まり、その姿は妙に落ち着いていた。


 結局、午後の授業が始まるまで。

 二匹はずっとルーンの机の上で、のんびりとくつろいでいた。



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