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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
3、ダークエルフ

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"アテ"





「フィル様。おかえりなさいませ」


 家へ戻り、客間の襖を開けた瞬間。

 聞き慣れない声が静かな室内に響いた。


 ルーンたちは足を止める。

 そこには、見知らぬ男性が座っていた。

 ホワイト、グリーン、フィラーラと共に卓を囲み、湯気の立つお茶を飲んでいる。

 紺色の髪に灰色の瞳。整った顔立ちをした青年だった。姿勢は真っ直ぐで、どこか洗練された空気を纏っている。


 ルーン、桃華、依千蔵は揃って顔を見合わせた。


「誰?」


 率直に依千蔵が問う。

 すると男性は静かに立ち上がり、胸に手を添えて一礼した。


「初めて顔を合わせますね。はじめまして」


 落ち着いた声。


「俺はカイトと申します。この度、王都アーバンの王となられたフィル様の従者です。……と言っても、まだなりたてですけど」


 柔らかな笑みを浮かべながら、彼は続ける。

 さらりと告げられたその言葉。

 だが、その中に含まれていた単語にルーンはぴくりと反応した。


「王……?」


 彼女は隣のフィルを見る。


「フィル、王って何?」

「あれ?言ってなかった……っけ?」

「あの時、私のルーンはこの場にいなかった。だから私のルーンはその事実を知らない」


 きょとんと目を瞬かせるフィルに、ホワイトが淡々と言う。


 フィルが王であるという事実は、ルーンだけではなく桃華と依千蔵にとっても初耳だった。


「フィルさん、王様だったの!?」


 二人は勢いよく互いの顔を見て、桃華が思わず声を上げる。


「おかえり、四人とも」

「せっ、せせせせ清っ!」


 ちょうどその時、彼女たちのもとに清龍が姿を現し、桃華は弾かれたように振り返ってそのまま清龍の腕を掴んだ。


「清はフィルさんが王様だって知ってた!?」

「……まぁ」


 もの凄い勢いで詰め寄られ、清龍は少し目を丸くしながら頷く。


「ちょ、知ってたんなら教えてよ!私、今まで結構な無礼をしてきたかもしれない……!」


 桃華はみるみる青ざめていく。

 王。その響きだけで、今までの会話や態度が脳内を高速で駆け巡っているのだろう。


「そ、そんなに慌てなくても……」


 フィルは困ったように眉を下げた。


「態度、改めた方がいい!?……あっ、いいですか!?」

「いや、別に今のままでいいよ!桃華は友達なんだから!」


 完全に桃華は混乱していた。


 依千蔵はそんな彼女を見て吹き出しそうになり、ルーンは呆れ半分で眺めている。

 どうやら落ち着くまでには時間が掛かりそうだった。


「……それで、この人が貴方の言ってた"アテ"なの?」


 ルーンが改めて尋ねる。


「あ、うん。そうなんだ」


 フィルは、桃華をなだめつつ頷いた。


「……カイトは、学び舎の卒業生らしくて。初めて会った時に"東の大陸で勉学に励んでた"って言ってたのを思い出して……ターナさんに頼んで呼んできてもらったんだ」

「突然、目の前に大きな鳥が現れた時は驚きました」


 カイトは苦笑しながら言う。


「彼女から、フィル様が俺に用があると言われて……何かと思えば、勉強を教えてほしいと」

「……でも、お前よくあそこに入れたよな」


 依千蔵が腕を組む。


「あの教室に入るためには、入学試験で相当な点数叩き出さないと無理だって話なのに……」

「依千蔵くん!失礼だよ……!」


 桃華が即座に反応する。


「桃華、落ち着け」


 清龍は苦笑しながら彼女の頭に手を置いた。


 依千蔵の言葉に、フィルは「あー……」と曖昧に笑う。


「まぁ、オレもそれには吃驚なんだけど。カイトの教え方がよかったんだよ、きっと」

「いえ、そんなことは」


 カイトは静かに首を横に振った。


「俺はただ基礎を教えただけです。特待生となれたのはフィル様の完全な実力ですよ。謙遜なさらないでください」


 穏やかな声音。

 その言葉にフィルは少し照れ臭そうに視線を逸らす。


「学び舎に通っていた時、貴方も特待生だったの?」

「……はい。大きな口では言えませんが」


 ルーンが問うと、控えめにカイトは答えた。


「王の従者になるのって、結構な頭の良さも必要だろうからな」


 依千蔵がぽつりと呟く。

 すると、清龍が手を叩いた。


「ほら。話はその辺にして、そろそろ夕食の準備をするぞ」


 その言葉にルーンたちは頷き、それぞれ着替えのために部屋へ向かっていく。

 賑やかな足音が遠ざかり、客間は少し静けさを取り戻した。


 それを見送ったあと、カイトは再び座布団へ腰を下ろす。

 少し冷めてしまったお茶を手に取り、静かに口をつけた。

 背筋を伸ばし、丁寧な所作で湯呑みを傾ける姿は、まるで絵巻物の一場面のようだ。


 そんな彼を見ながら、清龍がふと口を開く。


「……カイトって名前を聞いて思い出した」

「?」

「お前、カイト・ヒノワだろ」


 突然のフルネーム呼び。

 カイトは一瞬だけ目を細め、それから小さく笑った。


「……ああ。貴方は知っているんですね」

「当時の一大ニュースだったからな」


 清龍は肩をすくめる。


「とんでもない頭脳を持った男が学び舎に入学したって。歴代の特待生たちの成績が霞むくらいの点数を叩き出して、教師たちを驚かせたとか」

「お恥ずかしい限りです」


 カイトは穏やかに微笑む。


「……それを言うなら、貴方もそうですよね。清龍様」

「俺なんて可愛いもんだよ」


 清龍は軽く笑い、その場を離れる。

 客間には再び静寂が落ち、カイトは目を閉じて小さく笑うと、もう一度湯呑みに口をつけた。


 冷めかけた茶の香りが、静かに口の中で広がった。



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