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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
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謎の少女





 船内の探索は続く。


 先頭を歩くのはシオン。

 胸元のライトが細い光の道を作り、その先を切り開く。

 ジェイクとルーンはその後ろで、灯りを頼りに壁や床、崩れた残骸へと視線を巡らせていた。


 フィラーラは足元に落ちていた貝殻を拾い上げては、宝物のように目を輝かせている。

 そしてホワイトは、腕の中で震えるブルーテイルを抱え、その背をゆっくりと撫でていた。

 ブルーテイルは小さく体を丸め、いつもよりもずっと静かにおとなしくしている。


 ――そのさらに後ろ。

 一定の距離を保ったまま、フィルは彼らの後をついていく。

 足取りは重く、ぎこちない。わずかな物音にも肩を震わせ、視線は絶えず揺れていた。


 やがて一行は、途中で途切れるように現れた階段に辿り着く。下へと続いているはずのそれは、途中から海水に飲まれていた。

 黒く濁った水面が、先を完全に遮っている。


「ここから下には行けないみたいだな」


 シオンが淡々と言う。


「わたし、見てこようか?」


 フィラーラが一歩前に出る。

 だが、その提案はすぐに遮られた。


「ひとりで行くのは危険だ。やめておけ」


 短く、強い口調。

 フィラーラは少しだけ考え、それから素直に頷いた。


 そのとき。ガサッと背後で小さな音がする。


「っ」


 フィルの肩がびくりと跳ねた。

 恐る恐る振り返るが、そこには暗闇しかなく、ライトの届かない空間が、ただじっと広がっている。


「フィル、どうしたの?」


 ルーンが振り返る。


「い、今、音が聞こえなかった?」

「音?」


 ジェイクが首を傾げた。


「聞こえたか?」


 シオンに問うが――


「………いや」


 彼も小さく首を振る。

 どうやら、その音はフィルにしか聞こえていないらしい。


「…………、」


 ほっとすることもできず、フィルは唇を噛む。


 ――ガサッ、ガサッ


 今度は、さっきよりもはっきりと聞こえた。

 再び振り向いた、その瞬間。


 ――ゴオッ!!


 強い風が、通路を突き抜ける。

 フィルの体を、真正面からすり抜けていった。


「っ!」


 反射的に身構え、目をぎゅっと閉じる。


 数秒。

 やがて風は止み、静寂が戻った。


 恐る恐る目を開く。

 そこにあったのは――


「……え?」


 見知らぬ光景だった。

 同じように朽ちた船内。壊れた壁、軋む床。だが、さっきまでいた場所とは明らかに違う。


「シオン!ルーン!」


 慌てて叫ぶ。

 だが、返事はない。

 気配も、足音も、何も。

 ここには、自分ひとりしかいなかった。


「……うそだろ……」


 喉が乾く。


 周囲を見渡し、眉尻を下げた、そのとき。


 ――ゴトンッ


 背後で音がした。

 びくり、と体が硬直する。


 ゆっくりと振り返り、震える手で荷物袋からライトを取り出す。

 灯りを向けると――そこには壊れた机がひとつあるだけだった。


「幽霊じゃありませんように幽霊じゃありませんように幽霊じゃありませんように幽霊じゃありませんように……」


 早口で呟きながら、フィルはへっぴり腰で近づいていく。

 一歩、また一歩。

 慎重に机の周囲を探ると、その足元に何かが落ちているのが見えた。


 小さな、緑色の鉱石。


「?」


 フィルは首を傾げ、それを拾い上げる。

 その瞬間、右手に鋭い痛みが走った。


「いっ……!」


 まるで電流が流れたかのような衝撃に、思わず鉱石を取り落とす。


 掌を見ると、刻印が疼いていた。

 銀色の輪によって抑えられているはずのそれが、強く、激しく主張してくる。


「何だよ、こんな時に……っ」


 右手を押さえ、息を詰める。

 痛みを押し込めようと、深く息を吐く。

 落ち着け、落ち着けと、自分に言い聞かせる。


 だが――


 ――バシャンッ


 水の跳ねる音。

 すぐ近くからだった。


「っ、」


 再び肩が震える。

 恐怖と焦りが重なり、心は乱れ、痛みはさらに強くなる。

 こんな場所で、冷静でいろという方が無理だった。


「くっ……!」


 耐えきれず顔を歪めた、そのとき。


「!」


 ふいに。

 右手に、ひんやりとした感触が触れた。


 細く、しなやかな手。


「――え」


 驚いて顔を上げる。

 そこにいたのは、一人の少女だった。

 桃色の髪。透き通るような赤い瞳。

 彼女は静かに微笑みながら、フィルを見つめている。


 いつからそこにいたのか。


「────」


 少女は口を開く。

 けれど紡がれたのは、言葉ではなかった。


 ──歌。


 静かで、やわらかく、波のように揺れる旋律。

 耳に届いた瞬間、それは音ではなく、温度のようにフィルの中へと広がっていく。


 張り詰めていた心が、少しずつほどけていった。

 右手の痛みも、同じように。


 荒れていた刻印は、次第に静まり、やがて嘘のようにおとなしくなった。



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