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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
113/162

船の正体は





 進路を変えた船は、ゆっくりと“それ”へ近づいていった。


 最初は霞のようだった影が、距離を詰めるごとに輪郭を持ち始める。

 ぼやけていた形が現実に引き寄せられるように、少しずつ、確かな姿へと変わっていく。


 やがて――それは一隻の船だとはっきりわかった。


「うわぁ……」


 甲板から見上げたフィルの口から、思わず声が漏れる。

 だが、その船は、まともとは言いがたかった。


 船体のあちこちに穴が空き、板は割れ、帆は裂け、まるで長い年月を嵐の中で彷徨い続けてきたかのように全体がぼろぼろに朽ちている。

 霧がその周囲にまとわりつき、現実感をさらに薄くしていた。


「ほらやっぱこれあれじゃん……」


 フィルは肩を震わせながら言う。

 声は半分、確信に近い恐れを含んでいた。

 そんな彼とは対照的に、ホワイトは冷静に船を観察する。


「何故、この船は浮かんでいるんだ?」


 静かな疑問が落ちる。


「これほど船体が破損していては、本来なら海に浮かぶことは不可能のはずだ」


 淡々とした分析。


「きゅう……」


 ルーンの腕の中で、ブルーテイルが小さく鳴く。いつもの元気は影を潜め、体を丸めて震えていた。


 そのとき。


 ――バタンッ!!


 乾いた、重い音が空気を切り裂く。


「ひゃあっ!?」


 フィルが情けない声を上げた。

 反射的に音のした方へ顔を向けると、そこには――


 一本のタラップ。


 ぼろぼろに朽ちたそれが、まるで今しがた掛けられたかのように、こちらの船とあちらの船とを繋いでいた。


「きっ、きき急に何!?」


 フィルは叫びながら、素早くシオンの背後に回り込む。


「どうやら、招待してくれるみたいだな」


 ジェイクは面白がるように口元を歪めた。


「この船には誰か乗っているのか?」


 ホワイトが問う。

 彼の問いに、ルーンがあっさりと首を振った。


「こんなボロい船に人なんて乗ってるわけないでしょ。きっと、風が吹いて落ちてきたのね」


 そう言いながらも、その視線はわずかに鋭い。


「……どうするよ?」


 ジェイクがシオンへと視線を向ける。


「…………」


 シオンは答えず、ただ、じっと船を見つめていた。

 霧の向こうに潜む気配。空気に混じる、わずかな違和感。懐に忍ばせた紫の宝石が、かすかに脈打つ。


 それは、見えない何かが“そこにある”という確かな証だった。

 やがて、シオンは小さく息を吐き、短く決断する。


「……招待されたからには、行くしかないな」

「お。お前にしては珍しい意見」

「えっ、行くの?」


 ジェイクが片眉を上げ、フィルは目を見開き、信じられないものを見るようにシオンを見た。

 その間に、ホワイトはすでに動きだし、


「今にも崩れそうだが、渡れないこともない」


 そう言って、ためらいもなくタラップに足をかけ、そのまま向こうの船へと渡っていく。


 ぎしり、と嫌な音が鳴るが、彼の足取りは変わらない。


「いざ、探検!」


 フィラーラが楽しげに声を上げ、その後に続いた。

 シオン、ジェイクも順にタラップを渡っていく。まるで日常の延長のように、迷いなく。


「えー、本当に行くんだ……」


 向こう側へ渡っていく仲間たちの背中を見つめて、取り残されたフィルは、肩を落としてぼやいた。

 霧の中に溶けていくその姿が、やけに遠く感じられる。


 そんな彼に、ルーンが声をかけた。


「大丈夫よ、フィル。幽霊なんていないわ」


 さらりとした一言。

 しかし。


「っ、ゆ、ゆうれいなんて単語出さないで!余計怖くなるから!」


 フィルは頭を抱えて叫んだ。


 安心させたのか、追い詰めたのか分からない言葉を背に、霧の向こうでは、静かに“招かれた船”が口を開けて待っていた。



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