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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
112/161

あの船は何だ?





 航海一日目。

 風は穏やかで、帆は素直にそれを受け、船は静かに海を滑っていった。


 航海二日目。

 変わらず順調。水平線はどこまでも広く、世界はまるで何も起きていないかのように穏やかだった。


 航海三日目。

 その均衡に、ほんの小さなひびが入る。



「あっ」


 甲板の上でブルーテイルと戯れていたフィラーラが、ふと顔を上げた。視線はまっすぐ前方の海へ向いている。

 すぐそばにいたフィルが、その様子に気づいて歩み寄った。


「どうしたんだ?」

「……あそこ。何かある」


 フィラーラは迷いなく指を差す。

 だが、その先に広がっているのはただの海。波がきらめき、空を映しているだけのどこにでもある景色だった。


「何もないけど?」


 フィルは首を傾げる。


「あるよ。うっすらと。船みたいなやつ」

「船……?」


 言われて、フィルは手すりを掴み、身を乗り出す。目を細めて遠くを見るが、それらしき影はどこにもない。

 ただ、遠すぎる静けさがあるだけだ。


「どれ。俺が見てみるぜ」


 背後からジェイクが近づいてきて、荷物袋から取り出した双眼鏡でフィラーラの指す方向を覗く。


 ――数秒の沈黙。


「……ああ、なるほどな」


 低く呟く。


「あるな。確かに、船っぽいのが」

「えっ」


 フィルは驚き、双眼鏡を借り取ると同じ方向を見る。

 レンズの向こう。

 かすかな霧のような揺らぎの中に、確かにそれはあった。

 輪郭がぼやけ、現実から半歩ずれたような不確かな船影。


「よく見えたな、あんなん」


 思わずそう言うと、フィラーラはさらりと答える。


「わたし、目がいい」

「……周りにあるのは霧かな。よく見えない」


 フィルは眉を寄せたまま、双眼鏡を下ろす。


「何してるの?」


 そこへ、ルーンが静かに歩み寄ってきた。


「船、見つけた」


 フィラーラが言うと、フィルは無言で双眼鏡を差し出す。ルーンはそれを受け取り、同じ方向へ視線を向けた。


「……本当。船だわ」


 小さく呟く。


「大陸からの定期船かしら?」


 しかし、その言葉にすぐ別の声が重なった。


「それはあり得ない。私のルーン」


 ホワイトだった。


「我々が乗っている船は、北と東、両大陸の航路をあえて外している。こんな場所を、他の船が航行しているはずがない」


 静かな断言。

 それを聞き、ジェイクが眉をひそめる。


「んじゃあ、あの船は何だ?」

「わからない」


 ホワイトは首を振る。

 その動きに迷いはなかった。


「気になるのなら向かうか?」

「わたし、気になる!」


 ホワイトが問うと、フィラーラがすぐに手を上げる。

 ルーンは双眼鏡を下ろし、淡々と言った。


「見つけたのは貴方たちなんだし、私には決定権はないわ」


 視線が、ジェイクとフィルに向く。

 二人は顔を見合わせ、それから再び遠くの海へ目をやった。


「まぁ、見るだけならタダだよな」


 ジェイクは口元を緩める。

 対してフィルは、どこか落ち着かない様子で眉尻を下げた。


「……オレは、あまり行きたくないかな」


 その温度差を受け止めるように、ホワイトはわずかに考え込む。

 そして、小さく頷き結論を出した。


「紺色の子に伝えてくる。進路変更と」


 そう言うと、くるりと背を向け、甲板の奥へと歩いていく。


「あら。どうやら、行くみたいね」


 ルーンが肩を竦める。


「お前の意見は無視されたな」


 ジェイクが笑いながら、フィルの肩に腕を回した。


「ブ、ブルーテイルは大丈夫なのか?」


 フィルは不安を隠せないまま問いかける。


「少しくらい到着が遅れても問題ないわ。グリーンは逃げも隠れもしないから、寄り道も平気よ」

「きゅうっ」


 ルーンは、あっさりと答えた。

 その言葉に呼応するように、ブルーテイルが元気よく鳴く。


「あぁ、そうなんだ……」


 フィルは力なく肩を落とし、小さく息を吐いた。

 その様子を見て、ルーンはわずかに視線を細める。


「あの船は、貴方が想像しているのとは違うと思うわよ?」

「……いや」


 フィルは、首を横に振った。

 そして、遠くの“それ”を見据える。


「こんなところにポツンと船って、絶対にあれに決まってるよ……」


 ぶるり、と小さく体が震えた。



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