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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
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贈り物





 きらびやかな光が、会場のあらゆるものを薄く包み込んでいた。

 天井から吊るされたシャンデリアは星のように輝き、磨き上げられた床は人々の姿を淡く映している。


「また、これを着ることになるなんて……」


 ルーンは裾を指でつまみ、小さくため息をついた。

 淡い水色のドレスは彼女によく似合っていたが、本人にとってはどうにも落ち着かないものらしい。


「わたしは嬉しいよ!」


 隣でくるりと一回転したフィラーラが、満面の笑みを浮かべる。

 サクヤの厚意で招かれたこのパーティは、王都でも指折りの規模を誇るものだ。会場に一歩足を踏み入れた瞬間から、別世界に迷い込んだような感覚に襲われる。


「来たか」

「遅ぇぞ」


 すでに到着していたシオンたちと合流すると、テーブルに並ぶ料理の数々が目に飛び込んできた。

 宝石のように彩られた料理たちは、見るだけでため息が出るほどだ。


「……フィルは?」


 ルーンが周囲を見回しながら尋ねる。


「あいつならあそこだ」


 答えたのはジェイクだった。

 顎で会場の奥を示す。


 視線を向けると、人混みの中にひときわ整った姿があった。

 彼は正装に身を包み、髪もきちんと整えられている。いつもの面影を知っていなければ、同一人物だと気づかないほどだ。

 実際、ジェイクも最初はわからなかったらしい。


 フィルの周囲には、見知らぬ男女が集まっていた。華やかなドレスと礼装に身を包んだ人々に囲まれ、何やら会話を交わしている。

 内容は聞こえないが、その空気だけで十分に“別の世界”を感じさせた。


「やっぱ王族ってな、ああいう付き合いは必須なんかね。俺らのことは無視で、あれよという間に連れてかれたよ」


 ジェイクは肩を竦める。

 ルーンは何も言わず、ただその光景を見つめていた。


「ルーン!これ美味しいよ!」


 弾んだ声とともに、フィラーラが両手いっぱいに皿を持って近づいてくる。皿の上には、芸術品のように盛り付けられた料理が並んでいた。

 ルーンはちらりとそれを見て、眉をひそめる。見た目は美しいが、どれも味が濃そうに感じられた。


「……私は、いいわ」


 静かに首を振る。

 再びフィルの方へ視線を戻すが、しかしそこに彼の姿はなかった。


 ルーンの目がわずかに細められる。

 人の波を追うように視線を巡らせるが、見つからなかった。


「……………」


 どこに行ったのか――そう思った瞬間、


「私のルーン」


 背後から、淡々とした声が届いた。

 振り向くとホワイトが立っていて、その手には小さな箱が握られている。


「何かしら?」

「私は、私のルーンに渡す物がある。付いてきてくれるだろうか」

「付いてくって、どこに?」

「人気のない場所へ」


 その言葉に、ルーンはわずかに眉をひそめる。だが、断る理由は見つからない。


「……わかったわ」


 短く答え、シオンたちに一言断りを入れたルーンはホワイトの後を追う。

 その様子を、遠くからフィルが気付いて見つめる。

 彼は一歩踏み出そうとしたが、呼びかけられ、手を取られ、会話の輪に絡め取られて、それ以上動くことはできなかった。


 人混みをかき分けて会場の扉を抜けると、音楽とざわめきが薄れ、離れていくにつれだんだんと聞こえなくなっていった。



+


 夜の冷気が、城の外へ出た瞬間に肌を撫でた。

 ルーンとホワイトは、人気のない回廊を抜け、やがて庭へと足を運ぶ。


 そこに広がっていたのは、静まり返った噴水広場だった。

 中央の噴水は絶えず水を湛え、月明かりを受けて淡く光っている。その音だけがこの場に確かな存在を与えていた。


 適当な場所で立ち止まると、ホワイトはゆっくりとルーンの方へ体を向ける。


「それで、渡したいものって?」


 ルーンが問いかける。

 夜の王都は昼よりも一層冷え込んでおり、彼女は小さく肩を震わせながら腕をさすった。


「私のルーンにこれを渡す」


 ホワイトはそう言って、先ほどから手にしていた小さな白い箱を差し出す。

 紫色のリボンが丁寧に結ばれていた。


 ルーンはそれを受け取り、首を傾げる。


「何これ?」

「指輪だ」

「ゆ……」


 あまりにもあっさりと告げられた言葉に、ルーンは一瞬息を詰まらせた。


「………」


 言葉にならないまま、手元のリボンをほどく。

 そっと蓋を開けると、中には確かに指輪が収められていた。淡いピンク色の宝石が埋め込まれ、月明かりを受けて静かに輝いている。


「……どうしてこれを私に?」


 恐る恐る問いかける。


「グリーンのもとへ行く前に、私は、私のルーンを守る術を考えた。そして思い付いた。私の魔力を込めた指輪を作成し、私のルーンに渡そうと。その指輪を嵌めれば、私のルーンはグリーンの解放時に体力を吸われずに済む」


 ホワイトは表情を変えないまま、淡々と説明した。

 ルーンは指輪をつまみ上げ、しばらくのあいだ見つめる。小さな宝石の中に、確かに力が宿っているように感じられた。


「私のルーン。その指輪を右手の小指に」


 静かな声で促される。

 わずかに訝しむような表情を浮かべながらも、ルーンは言われた通りに指輪を小指へと嵌めた。驚くほど自然に、ぴたりと収まる。


「これでいいの?」

「ああ。それでいい。よく似合っている。私のルーン」


 ホワイトはそう言うと、ルーンの手をそっと取った。その動きは静かで、無駄がない。

 そして、そのまま宝石へと唇を近づける。


 触れるか触れないかの距離で、一瞬。


 次の瞬間、唇が離れると同時に宝石がかすかに光を放った。月光とは違う、内側から滲むような輝き。


「これで、私のルーンはもう恐れる必要はなくなった」

「……別に、怖がってなんていないわ」


 噴水の音が、変わらず静かに響く。


 夜の庭は二人だけの秘密を抱えたまま、何事もないかのようにそこに在り続けた。



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